その時はちゃんと殺してね

キムラましゅろう

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師弟の絆、最強最高絶対封印魔法


学校ごっこをしながら皆に諸々の説明をしていた師イグリードの元に、アルトは一人で戻った。

ただ一人戻った弟子にイグリードは声をかける。

「またまたおかえりアルト♪今度は意外と早かったね~」

アルトはどこかほっとした面持ちでイグリードに答えた。

「デューフィリュスのおかげで全て恙無つつがなく終わりましたよ。師匠だけに押し付けるのも申し訳ないので後片付けをしに戻って来ました」

「そう。ツェリーちゃんは?」

「向こうで休んで貰ってます」

「そっか」

王太子ウィルヘルムがアルトの元へと駆け寄る。

「ツェリシアは!?あの子は無事なのか!?」

「無事です。腹の中の異物を取り除きました。彼女はもう、大丈夫です」

それを聞き、バイヤージが身を乗り出す。

「取り除けた……!?その上で死を免れたのかっ!?」

アルトは頷き、ウィルヘルムとバイヤージに告げた。

「精霊王に救って頂きました。ツェリは今、精霊界で安静にして貰ってます」

その言葉を聞き、ウィルヘルムとバイヤージ、それぞれの顔に安堵と喜びが色濃く浮かぶ。

他の皆も同様だ。

「そうか……そうか……」

「ツェリシア……良かった……本当に良かった……コルベール卿、心から感謝申し上げるっ」

ウィルヘルムが深々と頭を下げた。

アルトは彼の後頭部を見下ろしながらこう告げた。

「いえ、ツェリの事で礼を言って頂く必要はありません。それより殿下、今から封印を行います。よろしいですね?」

ウィルヘルムは頭を上げ、アルトを見据えた。

「無論の事。父上も裁可を下されたのだ、全て卿の力を借りねばならぬ事が申し訳ないが……」

「どういう事ですか?陛下の裁可が下ったというのは……?」

バイヤージが訝しげな顔をしてウィルヘルムに尋ねた。

ウィルヘルムはバイヤージだけにではなく、この場にいた皆に告げる。

「……我が国に膨大な富を与えてくれた魔鉱石だが……度重なる厄災を鑑みて、鉱脈を封印する事にした」

「えっ……!?」
「鉱脈を封印っ!?」
「何故今になって?」

最後の言葉はシスター・ウルフのものだが、彼女の疑問はもっともだ。

例え魔鉱石が莫大な富を齎し国に利があったとしても、厄災を防げなければそれは国力を奪い、国を根底から傾ける諸刃の剣となる。

ハイリスクだとわかっていて何故、今まで採掘を続けて来たのか。
そして何故今になって封印する事に至ったのか。

それは偏に封緘者一人を犠牲にすれば良いという考えが有ったからに他ならない。

ウィルヘルムはそれを踏まえて皆に説明をした。

「コルベール卿は父上にこう進言された。“適合者に封緘して事なきを得ようとする考えは捨てた方が良い、今後適合者が国内に現れる保証はどこにもないのだから”と。確かにここ数十年で、ようやく一人見つけられた適合者がツェリシアだ。次の厄災までにまた適合者が見つかるとは限らない……もし今後適合者が見つからず厄災が起きれば、魔鉱石の利益を上回る損害が出る可能性は大いにあるのだ」

バイヤージは顎に手を当て思考に浸りながら呟いた。

「なるほど……今までは、起きた厄災を封緘するという方法しか手は無く、厄災の大元の魔鉱石をどうにかする事など不可能であったからな……」

バイヤージの言葉を受け、ブルサスが問うた。

「なぜ今まで不可能だったのですか?」

「考えてもみろ、魔鉱脈はこのアブラス国土のほとんどを占めているのだぞ?そんな膨大な範囲を封印、または結界を張るなど出来る訳がないだろう」

「魔塔主殿でも?魔塔の魔術師全員でも?」

バイヤージは目を閉じて首を横に振る。

「情けない話だがな」

「では何故、今はそれが可能になったと考えるのですか?」

ミルソンのその問いかけにバイヤージはアルトに向き直った。

「大賢者イグリードの弟子がこの国に現れ、力を尽くしてくれるという奇跡が起きたからな」

皆が一斉にアルトを見た。

そうだ。

今は彼がいる。

異界へ行き、悪魔と渡り合うほどの魔力を持ち、ツェリシアも救った男だ。

普通に考えて不可能だと思われた事をこの男は全てやってのけたのだ。

皆はそれぞれアルトに最上級の礼を執った。
アルトはそれを黙ったまま見ていた。

そこへ突然、駄々っ子モードのイグリードの声が響き渡る。

「なんかズルい!アルトばっかりが敬われて!その術も方法も教えたのは僕なんだからね!僕も封印する!僕も凄いって事を見せつけてやる!」

それを聞き、弟子がジト目で師匠を見遣る。

「師匠、あなた面倒くさいから出来ればやりたくないって言ってたじゃないですか。だから戻ってきたというのに……」

「ヤダヤダヤダ!僕だって凄い魔術師だって思われたいっ!」

「いや大陸中の誰もが大賢者の名を知っているというのに何言ってんですか。充分凄いって事でしょう」

「ヤダヤダヤダ!僕もアルトと一緒に封印するんだっ!」

アルトはため息を吐いた。
駄々っ子モードになったイグリードは手に負えない。
望みを叶えて満足させるしかないのだ。

『ったく、結局師匠もやるならツェリの側に居ればよかった』

アルトは師イグリードに言った。

「わかりました。ではせっかく二人でやるんです、効率よくやりましょう。途中で俺は封印しても貯まり続ける魔鉱石の負の魔力をクソ悪魔に送りつけるパイプラインを施します。その間師匠は円陣の拡張と維持をよろしくお願いします。それでいいですね?」

「うん!!」

アルトの指示に、イグリードが嬉々として返事をした。
どちらが師匠なのか見誤りそうになる。

「よーし久しぶりに頑張っちゃうぞ~♪」
と張り切る師を尻目に、アルトはウィルヘルム達皆に告げた。

「危険は無いですが、一応一箇所に集まって離れていて下さい」

「承知した」

ウィルヘルムが返事するのを確認して、アルトは師匠の元へと戻る。

「ねぇアルト!賢者らしく杖を出した方がいいかなっ?」

「好きにしたらいいんじゃないですかね」

「よしっ!皆んなのイメージを守るのも大切だよね!」

そう言ってイグリードはルンルンで右手を宙にかざし、彼の身長の半分はあろうかという杖を顕現させた。

それを見たバイヤージが目を大きく見開いて呟く。

「あれが……大昔に存在した古代樹から創り出されたというイグリードの杖……」

「重いからって滅多に使わない、本人も普段忘れているくらいの、もはや都市伝説化してるアーティファクトですけどね」

アルトがそう言うとイグリードがムキになって抗議した。

「もう!アルト!余計なコト言わないでよ!」

ぷんぷん怒る師を宥めながらアルトは言う。

「はいはい、申し訳ございません。では師匠、そろそろ宜しいでしょうか?」

「もちろん」

「ではさっさと終わらせてツェリの元へと戻りたいので、初めから最大出力でいきます。師匠、魔力の出し惜しみはしないで下さいよ?」

「ヒィッ!この期に及んでまたカツアゲっ!?」

そんな会話をしながら師弟が並んで立つ。

「じゃあいくよ、アルト」

「はい」

その途端、二人の足下あしもとから魔法陣が広がる。

複雑な紋様と古代文字エンシェントスペル、そして見たこともないような文字が書かれたその円陣が放つ、白く眩い光に誰もが魅了された。

「よーし♪行っけーーー!!」

イグリードが杖の先で円陣を突く。
するとたちまち陣は広がり、風を巻き起こしながらとどまる事なくその範囲を伸ばして行く。

少し離れた所からシスターが質問した。

「この魔法陣はどこまで広がって行くんですかぁぁっ?」

イグリードがそれに答える。

「アブラス全国土にだよーー♪ホントは鉱脈のある位置だけでいいんだけどねー、念の為に全~部覆っちゃう☆」

「え゛!?」

その規模の大きさに皆が固まる。

言っちゃあなんだが、アブラス国の国土は大陸で4番目を誇る大きさがある。

三分の一はアブラス山脈が占めているが、それでもかなりの広さが残っている。

そのアブラス全土とは……。

格というかもはや次元が違う。
せめて邪魔をせずに全てが終わるまで大人しく待っていよう、この場にいる誰もが同じ事を考えていた。

陣がどのくらい広がった頃かはわからないが、アルトが師に言った。

「では俺はそろそろパイプラインの施術を始めます。師匠、その間陣の維持をお願いします」

「任せといて♪」

アルトが術式の詠唱を始める。

一言いちごん一言いちごん唱える度に、その魔力の高まりを肌で感じた。

あの年であれだけの魔力を……

それだけでこの10年間、彼がどれほどの研鑽を重ねて来たのかがわかる。

ふいに跪き、アルトが両手を地面に押し付けた。

その途端に魔法陣の一部が何かに反応して光の色を変える。

そしてその色が変わった部分の紋様が変化し出す。

紋様が渦を巻くように、文字がとぐろを巻くように動き、別の紋様と文字に変化してゆく。

その様を皆が息を呑んで見つめていた。

自分達が今どれだけ稀有なものを目の当たりにしているのか……それがわかるからこそ、その一瞬一瞬を見逃すまいと凝視する。


「……よし…約束は果たしたぞ、異形の悪魔よ。これからは運ばれてくるメシを喰らって、大人しくしていろ」

アルトはそう呟き、再び立ち上がった。


「施術は終えました。では師匠、総仕上げと参りましょう」

「オッケーー!!」

イグリードが杖を天に向けて掲げた。

その瞬間、円陣から直視出来ない程の眩い光が放たれた。

アルトが両手を胸の位置で前方に掲げる。

「師匠、封じますよ」

「ちょっと待って!封印の名前をヒラメイタ!僕に言わせて!!」

「ったく、いいですよ。どうぞ」

強力な封印術は、術式の後に名を付けて呼称する事で結びとなり、より強固な力を成すからだ。

弟子の許可を聞きつけ、
イグリードは満面の笑みで術の名を呼んだ。

「よし行けっ!
師弟の絆、最強最高絶対封印魔法アブラス王国バージョーーーーンっ!!」

イグリードがそう叫び再び杖で魔法陣を突いた。

その瞬間、陣から閃光が放たれ、より一層風が吹き荒ぶ。

閃光は辺り一帯、いやアブラス全土を包み込み、やがて静かに消えていった。

そして光が収まると同時に風も止み、
魔法陣も見る間にその姿を消してゆく。

後には、まるで何も起こらなかったように元通りの光景が広がっていた。


アルトとイグリード、二人が立っている位置が陣の中心があった所だ。

そのくらい跡形もなく、何もかもが消えていた。

「師匠、なんですか今の封印の名称。最強最高絶対封印魔法?ダサ過ぎますよ」

「えっ、ダサくなんかないよ!最高にカッコ良かったじゃないかっ!」

あれだけの大術の後なのに、普段と変わらないであろう様子で会話をする師弟を皆が黙って見つめている。

「っ………」

足に力が入らなくなったシスターがその場にへたり込んだ。

ブルサスもミルソンも呆然として立ち竦んでいる。

はっと我に返ったウィルヘルムが師弟に声をかけた。

「ふ、封印はっ……?魔鉱脈はどうなりましたかっ!?」

「ば~っちり封印しちゃったよ~♪ね?僕も凄いでしょっ?」

ちゃっかり自分アピールも忘れないイグリードに、アルトは半目で睨め付ける。

「何がばっちりですか、最後のネーミングで全部台無しです」

「酷いっ!台無しじゃないよ!封印は完璧だったじゃないか!僕の付けた名前のおかげだよ!」

「はいはい」

「も~!アルトのイヂワル!!」

ぷんすこと拗ねるイグリードを他所に、アルトはヴィルヘルムに告げた。

「………これでもう魔鉱石の採掘は出来ません」

覚悟はしていても、改めて言葉にされて突きつけられる現実にウィルヘルムは苦笑いをする。

「そうだな、だが後悔はしていない。ツェリシアを犠牲にしなければならないと思っていた日々は本当に辛かった……それと同じ思いをこの先の者達にさせたくはない。次期国王として出来る事を探して、この国を繁栄に導いてゆくよ」

そう言い終えた後のウィルヘルムの表情はどこか晴れやかなものに変わっていた。

その言葉を受け、アルトがイグリードに言う。

「……師匠、杖をお借り出来ますか?」

「ああ、を出すんだね。でもいいの?この国の事、メチャクチャ怒ってたじゃない。これ以上助けてあげる道理はないんじゃない?」

「魔鉱石を諦めた事を少しでも後悔している素振りを見せたなら、放置しておくつもりだったんですが……まぁ民に罪はありませんしね」

「そっか☆じゃあハイどーぞ、イヂワルアルトくん♡」

「……どうも」

アルトは師イグリードから杖を受け取る。

「何をされるおつもりか?」

ウィルヘルムが訝しげな顔をした。

それに対し、アルトは何も答えずにすたすたと噴出口のあった崖の下へと向かって行った。

「……?」

皆が黙ってアルトを注視する。

アルトは切り立った崖の真下に着くと、何やら術式を詠唱してからイグリードの杖で崖と地面が接地する位置を突いた。

すると直ぐに地の底から唸るような地響きが起き……そして杖で突いた場所から大量の水が噴き出した。

「「「「!!??」」」」

凄まじい水柱が立ち、上空まで上がった水が雨の様になって落ちてくる。

「こ、これは……?水から魔力を感じる……」

バイヤージが言うと、アルトが答えを告げた。

「魔鉱泉です」

「魔鉱泉っ!?」

それを聞いたバイヤージが目を丸くして水柱を見上げる。

アルトがまた術式を唱えると水柱は消え、今度はその場所に突如、水汲みポンプが現れた。

「ポ、ポンプ……?」

ウィルヘルムがまじまじとそのポンプを眺める。

アルトがポンプを指し示しながら言った。

「魔鉱石の表面を滑るように流れている地下水脈をここに誘導しました。魔鉱石の正の魔力をだけを含んだ地下水です。魔法薬の薬材にもなるし、湧かせば効能のある温泉として使えます……まぁこれを上手く活用して、国の財源とすればいいんじゃないでしょうか」

抑揚のない静かな声で告げるアルトの顔を、ウィルヘルムは思わず凝視する。

「これ……これを、アブラスの為に……?」

「このくらいのフォローはしておかないと、ツェリが気にしますからね。それじゃあ俺はもう行きます。師匠、あなたも行きますか?」

「そうだね、世話になったデューに礼を言わないと。僕も精霊界あっちに行くよ」

「じゃあ行きましょう、ツェリが待ってる」

「うん♪」

「「ま、待ってくださいっ!!」」

そのままスタコラと去ろうとする師弟をウィルヘルムとバイヤージが慌てて引き止めた。

「大賢者バルク=イグリード、そして賢者の弟子アルト=ジ=コルベール、二人の偉人に国を代表して心から敬意と感謝を申し上げる。ご尽力、本当に、本当にかたじけないっ……!」

王太子ウィルヘルムの謝辞を合図に、皆が一斉に首を垂れて最上級の礼を執った。

アルトはただ端的に「いえ、お疲れ様でした」とだけ告げ、イグリードは「どういたしまして~♪じゃあね~☆」と言い残し、師弟はそのまま精霊界へと転移して行った。


師弟が消えた後の空間を眺めながら、
シスターがポツリと呟いた。

「……ツェリシアちゃんは……戻って来るのかしら……」






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次回、最終話です。

アルトさんの目の事、ツェリの母親たちがどうなったのか、見届けてやってくださいませ。

その後、番外編が一話あります。

よろしくお願いします!






















































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