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エピローグ 果てしない時の中で
アデリオール王国の王宮にほど近い場所に、
アルトの生家コルベール家の屋敷がある。
アルトの父、ハルト=ジ=コルベールが長年の功績により騎士爵を叙爵し、同時に王都の一等地に建つこの屋敷も賜ったという。
屋敷といっても大き過ぎず小さ過ぎず。
使用人三人ほどで事足りるこの屋敷が、夫人であるアミシュにとってはとても居心地が良かった。
この屋敷に移ってからガーデニングが趣味になったアミシュは水の精霊と一緒に植物に水やりをしていた。
水の精霊が遊びながら水を撒いてゆく様を眺めながら、アミシュは息子であるアルトの事を考えていた。
親元を離れて10年。
息子は本当によく頑張った。
あの大賢者の弟子となり、今では師に次いでこの大陸で一番の精霊魔術師にまでなった。(らしい)
それも自分の婚約者のために。
それだけの想いを、息子は幼い頃から大切に育んできた。
ツェリシアが生まれてすぐに結ばれた婚約。
当時3歳だったアルトに初めて引き合わせた時に、
彼の心の中で“特別な女の子”という想いが刻まれたらしい。
そして常に側で見守り、互いに成長しながら絆を深めていった。
今でこそ3歳の年の差など然したるものではないが、子どもの時の3歳はわりと大きく隔たりがある。
いつも二人が並ぶとそれはそれはもう婚約者同士というよりは兄と妹にしか見えなかった。
アルトはもともと実年齢よりも大人びて見える子だったし、ツェリシアは逆に幼く見える子だったので、それが更に兄妹感を醸し出していた。
ツェリシアの母親が再婚してアブラスに移る直前、
アルトが12歳でツェリシアが9歳の頃には更にそれが如実に出て、思春期の少年が幼い少女に傅いて甲斐甲斐しく世話をやく様は見ていて微笑ましいというよりは面白くて笑ってしまう光景だった。
自慢じゃないが息子は父親に似て美形だ。
当然女の子にとてもモテる。
だけどアルトは同年代の少女には見向きもせず、
一心にツェリシアだけを大切にしてきた。
そんなツェリシアをある日突然奪われたのだ。
母親の再婚ならば仕方ない。
ツェリシアが婚姻を結べる18歳になるまでアルトは度々会いに行くとして、遠く離れて暮らす事を耐えた。
転移魔法を早くに会得したのもその為だ。
しかしそれが人身御供としてアブラス国に取られたのだ。
しかも実の母親に売られる形で。
そんな不条理、誰が許せるものか。
奪われたのなら必ず奪い返す。
そのアルトの心情は痛いほど理解出来た。
だからこそ夫と二人、身を切られる思いで息子を送り出したのだ。
母として寂しかったし辛かった。
出来る事ならもう少しだけでもいいから手元に置いて愛情をかけて育てたかった。
だけど息子自身が選んだ道だ。
親として背中を押してやり、これからはその背中を見守り続ける事にした。
そしてアルトはその果てに精霊王の愛し子となり、
永遠に近い寿命を得た。
その事に関してもべつに構わない。
親よりも早くに死ぬというのなら自分の全てを懸けて止めたが、長生きしてくれるというのならなんの文句が言えようか。
果てしない時を共に過ごせる師もいる。
だから後は、息子の10年が無に帰すような事だけにはならないでくれと願うばかりだ。
あの日アルトが切望した未来を、彼が手にする事だけが母親としての望みだ。
あれからどうなったのか。
夫が隣国の情勢を逐一調べているようだが、肝心の情報が入らないという。
どうか、どうか無事で……
アルトとツェリシア、二人とも無事で並んでいる姿を見せて欲しい……。
アミシュはそんな事を思いながら裏庭の生垣の間に設置している小さなアーチの方を見た。
あのアーチから、ひょっこりと二人、元気な姿で出て来て欲しい。
「おばさま」
そう、そんな感じで自分の事を呼びながら。
ツェリシアの弾けるような笑顔はきっと今も変わってないのだろう。
あんな感じに明るい日差しのような屈託のない笑顔……
「おばさま?」
「…………………」
錯覚だろうか。
幼い頃のツェリシアによく似た娘がアーチの所から呼びかけてくる。
赤い水玉のワンピースを着た、可愛らしい顔立ちの娘だ。
ツェリシアが成長したらきっとこんな感じだろう。
ツェリシアが………
「おばさま?わたしが誰だかわかりますか?」
アミシュは被っていた帽子を脱いだ。
そして呆然としてアーチに立つ娘を見た。
まさか、
まさか。
「……ツェリ…ちゃん……?」
名前を呼ばれて、自分だと気付いて貰えたツェリシアが満面の笑みをたたえて返事をした。
「はい。ご無沙汰しております、アミシュおばさま」
「ツェリ……ツェリシ……」
知らず、足が動いていた。
前方に立つその存在の元へとひたすら足を動かす。
この瞬間をどれほど待ち望んだ事か。
再びこの胸に抱く日を、どれだけ待ち望んだ事か。
アミシュは目に涙を溜めながらツェリシアの元へと駆け寄り、そして抱きしめた。
「ツェリちゃん……?本当にツェリシアちゃんなの……?」
抱きしめながら、夢ではないかと不安になる。
だけど、寄せ合った体から温もりが伝わり、その柔らかな感触が現実だと教えてくれた。
「ツェリちゃん……!」
「おばさま……」
突然抱きしめられて驚いたツェリシアだが、
昔と変わらない温かさと優しい香りに胸がいっぱいになった。
「おばさまっ……お会いしたかった……!」
「ツェリちゃんわたしもよ、わたしもどれだけあなたに会いたかったか……よく無事に戻って来てくれたわね、ありがとう、本当にありがとうっ……」
「お礼をいうのはわたしの方です。おばさまとおじさまがとても心配して下さった事をアルトから聞きました。長い間心配をかけてごめんなさい。そしてありがとうございました……」
「アルト……?」
その名を聞き、はっとしてアミシュは気配を感じた方へと目を向ける。
そこには、数年ぶりに見る息子の姿があった。
手紙のやり取りはしていたが、実際の姿を見るのは本当に久しぶりだった。
成長を遂げ、すっかり大人の男性になった息子の姿をよく見ようとしたアミシュは、その顔を見て心の中で小さく息を呑む。
息子の片目は……失われていた。
それでも穏やかな表情でこちらを見るアルトに、アミシュは悲しいという感情よりも極限まで力を尽くしたのであろう息子を褒めてやりたいという気持ちの方が勝った。
「おかえりアルト。若い頃のお父さまにそっくりでびっくりしたわ」
母の言葉を聞き、アルトは柔らかな笑顔で答えた。
「ただいま、母さん」
アミシュは片手にツェリシアを抱きながらもう片方の腕を息子の方へと伸ばした。
そして胸に掻き抱く。
色とりどりの花々が咲き綻ぶ庭で、親子三人が身を寄せ合って再会の喜びを噛み締めた。
◇◇◇◇◇
アルトがツェリシアを伴って帰宅した知らせを受け、父であるハルトが急ぎ王宮から戻って来た。
そしてそこでも感動の再会を果たし、再びツェリシアとアミシュはわんわん泣いた。
今はリビングで一緒にお茶を飲みながらアルトはこれまでの事を両親に話して聞かせた。
アブラスでの事の顛末を全て聞き終え、アルトの両親は大きく息を吐いた。
話を聞いている間に、知らず体に力を込めて聞いていたのだろう。
息と共に力も抜ける。
「……本当に……途方もない話だな……まさか、我が子が異界の悪魔と渡り合うとは思いもしなかったぞ。それにツェリシアも精霊王の愛し子になったとは……」
ハルトが呟くようにそう言った。
そしてアルトの顔を見る。
「……その目は、元に戻す事は出来ないのか?」
父の問いかけにアルトは静かに答えた。
「本当は出来るんだ。だけどこの目は悪魔の“供物”として差し出した。向こうにしてみれば自分の贄であり所有物だと捉えていて、再生した左目を寄越せとコンタクトを取ってくる可能性がある。胸くそ悪い話だが、贄を差し出した時点であの欲深悪魔と失った左目の縁が繋がったのは確かだ。万が一にも付け入る隙は与えたくない。だからもう、この目はこのままにしておこうと思うんだ」
アミシュが息子に尋ねた。
「不便はないの?」
「母さん、わかるだろ?精霊使いに死角はない。失った左目の代わりは精霊達がしてくれる」
「そうね。そうだったわね」
もうこれ以上は何も言うまいと両親は思ったようだった。
『わたしの為にアルトは……』
ツェリシアは申し訳なさで思わずうつむきそうになった。
だけどふいにアルトの手がツェリシアの手を包みこむ。
ツェリシアが顔を上げて隣に座るアルトを見ると、
優しげな顔で微笑んでいた。
『そうね、後ろ向きな気持ちになるのは却ってアルトに失礼だわ。感謝の気持ちを忘れずにいれば、それでいい』
そう考え、ツェリシアもアルトに微笑み返した。
互いに微笑む二人を見ながら、アミシュが嬉しそうに言う。
「結婚式はどうするの?いつにする?というかどの国で挙げるの?ハイラム?アブラス?アデリオールなら嬉しいけど……」
母の言葉を受け、アルトは肩を竦めながら答えた。
「師匠はハイラムがいいって言っているけど、俺はツェリの望むようにと思っているんだ」
「ツェリちゃんはどうしたい?」
「うーん……式はどの国で挙げてもいいと思ってるんですが、迷っている事があって……」
“迷いがある”と聞き、アルトが慌ててツェリシアを覗き込む。
「ツェリ?どうした?迷うって何を?」
まさか自分との結婚が……
というアルトの不安がこちらに伝わって来た。
「違うのよアルト。結婚を迷っているんじゃなくて、母と義父を式に呼んだ方がいいのかと迷って……冷たいかもしれないけど、本当は会いたくなくて……」
ツェリシアのその言葉にコルベール家の皆が大きく頷き、そして同時に言った。
「「「その必要はない」」わ」
それについてはアルトの父であるハルトが説明をしてくれた。
ツェリシアの親権を国に売っておきながら、両親は婚約解消の手続きを取ろうとしなかった。
しかもツェリシアが養父に金を借りてまでして支度金を返してきたというのにだ。
これは詐欺に当たるとして、コルベール家は法的な訴訟の手続きを取ろうとした。
しかしそれではツェリシアとの婚約が正式に無くなってしまう。
それはやめて欲しいとアルトに懇願されたハルトは、別の形での報復を考えた。
ツェリシアの実母はともかく、再婚した男の評判は最悪なものだった。
それだけ多くの人間から悪評を付けられる者だ、叩けば必ず何かしら埃が出てくる筈だ。
案の定、少しつつくだけで出てくる出てくる。
詐欺や横領、恐喝に美人局……。
呆れ果てて反吐が出る程の悪行の数々が出て来た。
運良くアデリオール国内で起こした犯行が多く、それら全ての証拠をあげて捕縛した。
「奴は今、二度と出て来られない終身刑を受け、極寒の最北の孤島の牢の中だ」
当然財産は没収。
そしてツェリシアの実母は今、遠く離れた小国で掃除婦として働いて一人で暮らしているという。
一度ツェリシアに救いを求めて近づこうとしたが、陰で見守っていたアルトが当然それを許さなかった。
ツェリシアの部分だけの記憶を消し去り、今いる小国へと強制転移させたのだ。
まぁその事だけはツェリシアが知る必要はないだろう。
両親の事を聞いたツェリシアはどこか怒ったような、どこかホッとしたような面持ちだった。
その後も色々と相談した後、
結婚式はアデリオールで挙げる事に決まった。
長く心配をかけたコルベールの両親、主にアミシュの希望を叶えたいとツェリシアが決めたのだ。
それに結婚式の準備は女親が何かと動きやすい方が良いとの判断もあった。
式の用意には、ツェリシアが毎日転移魔法でアデリオールへ通えば良いのだから。
「ふふふ、ドレスの用意や式場の手配など、これから忙しくなるわよ♪とっても楽しみだわ、もちろんアルトの姉のアシュリにも手伝って貰いましょう」
アシュリはコルベール家の長女でアルトの姉だ。
既に数年前に子爵家へと嫁いでいる。
それからは思い出話をしながら美味しい夕食をご馳走になり、ツェリシアとアルトはコルベール家を後にした。
明日からは毎日、会える。
それがまたツェリシアにとって嬉しかった。
アルトの転移魔法で移動をする。
てっきりアブラスの魔塔に帰るのかと思っていたら、そこは見知らぬ丘の上だった。
あの時、魔鉱脈の封印を終えて精霊界に迎えに来たアルトと共にツェリシアはとりあえずアブラスへと帰った。
ウィルヘルムやバイヤージ、そして六傑の面々に無事な姿を見せたかったからだ。
皆、ツェリシアの姿を見るなり大変だった。
大泣きする者。
抱きついて離れない者。
嬉しさのあまり話が止まらない者。
喜びの筋肉を見せつけてくる者。
皆がツェリシアの無事を喜び、また安堵した。
その時にアルトはちゃっかり魔塔にツェリシアの退職届けを提出していた。
退職の理由はもちろん、寿退社…ならぬ寿退魔塔である。
それを受け更に仲間うちで喜びのお祝いモードでてんやわんやになったのは言うまでもない。
それでもまだ荷物の一式は魔塔の部屋にある。
それなのにそこに戻らず何故こんな小高い丘の上に?
不思議そうなツェリシアの顔を見て、アルトが笑みを浮かべながら理由を教えてくれた。
「ここから見える景色が絶景なんだ」
そう言ってツェリシアの手を引き丘のせり出した所まで歩いて行く。
そこまで行って、目の前に現れた光景にツェリシアは感嘆の声を上げた。
「……わあっ……!」
その場所からは、大きく広がる満天の星空と眼下にはジェスロの港町の夜景と広大な海が一度に見渡せた。
星空の輝きと町の灯り。
夜の海の色と丘の上から浜辺へとなだらかに続く芝生の緑。
きっと昼間の太陽の下で見ても美しい光景なのだろう。
でも夜の静寂の下で見るこの景色の方がきっと好きになると、ツェリシアは思った。
対照的な暗闇と光が織りなす情景が何とも言えない空気感を醸し出している。
「綺麗……」
ささやくようにツェリシアが言う。
「こんな景色が見られるなんて……」
吐息と共に言葉を紡ぐと、後ろからふわりと抱きしめられた。
長身のアルトの体にすっぽりと包み込まれる。
アルトのローブから彼の香りが漂う。
ツェリシアは目を閉じてその香りと温かさにうっとりとした。
アルトが囁く。
「これから……気の遠くなるくらいの長い時を、俺と共に生きてゆく事に悔いはない?」
「?」
どうしてそんな事を聞くのか理解出来ず、ツェリシアはアルトを仰ぎ見た。
「キミに選択の余地なく眠れぬ夜を与えた俺を恨んでくれても構わない。でも……それでも、側に居させて欲しいんだ」
アルトにしては珍しく、自信のない弱々しい声だった。
ツェリシアはなんだかたまらない気持ちになってアルトの腕の中で身動ぎして彼と向き合う。
そしてアルトの頬を両手で包んだ。
「ぷぷ、弱り果てているアルトってばカワイイ」
「ツェリ……俺は……」
「アルト、あなたを恨んで側に居たくないと思うなら、実は婚約解消されていなかったと知った時にあなたの元から去っていたわよ。わたしがどれだけ嬉しかったか、あなたは知らないんでしょ」
「ツェリ……」
「それに逆じゃない?アルトこそいいの?これから長~~い時を、あなたはわたしの面倒を見続けなければいけないのよ?髪にブラシを入れたり、美味しいパンを買いに行ったり、わたしの買い物に付き合わされたり。時には母親か介護か!と怒りたくなるような事になるかもしれないのよ?」
最初は不安げな表情でツェリシアの話を聞いていたアルトだが、じきに嬉しそうに微笑み出す。
「ツェリの世話をやくのが俺にとっての至福の喜びだからね、むしろどんと来いだよ」
「ふふ。それならわたしも長い時をあなたと共にいられるのが至福の喜びだわ。考えてみて?わたしはずっと、明日命が尽きるかもしれないという日々を過ごしてきたのよ?わたしの前の道は常に見えない壁に塞がれていて、その先に行けないの。それが今はどう?果てしない道がわたしの目の前に広がっている。そしてその道をアルトと共に歩いてゆけるなんて最高じゃない!サンキューデュー様ありがとう精霊王っ……
その先を最後まで言う事は叶わなかった。
アルトに唇を奪われたからだ。
最初から深く。
角度を変えて何度も。
吐息まで貪れるような、そんな思いの丈が溢れた口付けだった。
やがて静かに唇が離れ、互いに見つめ合う。
一つだけになったアルトの瞳に映る自分がいる。
生きて、頬を上気させ、瞳を輝かせている自分がいる。
『わたし……生きてるわ……!
そしてこれからも生きてゆける。
大好きなアルトと共に。
彼と共に、長い長い時の中で生きてゆけるんだ』
その事が本当に嬉しかった。
眠れない体と朽ちぬ体で終わりなき日々を過ごす事がどういったものなのか、ツェリシアにはまだ想像もつかない。
嫌になる時が来るだろうか。
虚しくなって死にたくなる時が来るだろうか。
でも、毎日楽しそうにしている良いお手本が近くにいる。
既に600年以上生き、
数多の眠れぬ夜を過ごして来たであろうあの人がいる。
それに自分には素敵な旦那サマもいてくれるのだ。
絶対大丈夫だと思えるこの自信は決してハッタリではないと思う。
ツェリシアはアルトの首に腕を回した。
そしてぎゅっと彼を抱きしめる。
アルトが力強く、でも優しく抱きしめ返してくれた。
「ツェリ……ありがとう」
「アルト……ありがとう」
二人はいつまでも抱きしめ合った。
そしてこれからも何度も互いを抱きしめ合うのだろう。
辛く苦しい時を経て、
これから続く長い時の中できっと何度でも。
頭上には満天の星空。
その星々が今にも溢れ落ちてきそうだ。
ツェリシアはこれからどれだけの星空をこうやって見上げる事が出来るのだろう。
何千何万という夜の数だけ、こうやって彼と星空を見上げてゆこう。
そう思うだけでわくわくする自分がいる。
さあ、明日から何をしようか。
とりあえずはアミシュおばさまとウェディングドレスのデザインを考えよう。
アルトにばかり料理をさせるのも悪いから、料理教室にでも通おうか。
ツェリシアの目の前には、
星の数だけ多くの可能性が広がっていた。
終わり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これにて完結です。
相変わらず最終話に詰め込み過ぎですね。(汗)
以前、いずれ書くとお約束していたアミシュとハルトの息子の話を皆さまにお届けする事が出来てほっとしております。
書く書く詐欺にならずに済んで良かった!
そして今回も短編詐欺にならなくて良かったです☆
しかし短編とは何話まで?
何話を超えたら長編?
“中編”というカテゴリーもあったらいいのにな~と毎回書きながら思ってます。
作者の中では、短編は20話から25話くらいまでかな?と勝手に決めておりますが☆
“賢者の弟子”を書きたくて考えたこの物語。
誕生は意外と古く(作者の中で)、同時期に『後宮よりこっそり出張…』や『だから行ったのに!』の物語を考えていた頃でした。
その頃はわりとファンタジー要素が強めのストーリーを構想していましたね。
しかしこの師弟、書いててとっても楽しかったです。
多分これからも何かの物語で、この師弟が出て来る事があるかもしれません☆
その時は「この師弟、相変わらずだな」と思って読んで頂けると嬉しいです。
次回はオマケとして番外編をお届け致します。
ツェリとアルトのその後、イグリードとの暮らし、それから数年後のお話を描きたいと思います。
一話のつもりでしたが、二話になりました。
どうぞ最後までお付き合いくださいませませ。
どうぞよろしくお願いします!
アルトの生家コルベール家の屋敷がある。
アルトの父、ハルト=ジ=コルベールが長年の功績により騎士爵を叙爵し、同時に王都の一等地に建つこの屋敷も賜ったという。
屋敷といっても大き過ぎず小さ過ぎず。
使用人三人ほどで事足りるこの屋敷が、夫人であるアミシュにとってはとても居心地が良かった。
この屋敷に移ってからガーデニングが趣味になったアミシュは水の精霊と一緒に植物に水やりをしていた。
水の精霊が遊びながら水を撒いてゆく様を眺めながら、アミシュは息子であるアルトの事を考えていた。
親元を離れて10年。
息子は本当によく頑張った。
あの大賢者の弟子となり、今では師に次いでこの大陸で一番の精霊魔術師にまでなった。(らしい)
それも自分の婚約者のために。
それだけの想いを、息子は幼い頃から大切に育んできた。
ツェリシアが生まれてすぐに結ばれた婚約。
当時3歳だったアルトに初めて引き合わせた時に、
彼の心の中で“特別な女の子”という想いが刻まれたらしい。
そして常に側で見守り、互いに成長しながら絆を深めていった。
今でこそ3歳の年の差など然したるものではないが、子どもの時の3歳はわりと大きく隔たりがある。
いつも二人が並ぶとそれはそれはもう婚約者同士というよりは兄と妹にしか見えなかった。
アルトはもともと実年齢よりも大人びて見える子だったし、ツェリシアは逆に幼く見える子だったので、それが更に兄妹感を醸し出していた。
ツェリシアの母親が再婚してアブラスに移る直前、
アルトが12歳でツェリシアが9歳の頃には更にそれが如実に出て、思春期の少年が幼い少女に傅いて甲斐甲斐しく世話をやく様は見ていて微笑ましいというよりは面白くて笑ってしまう光景だった。
自慢じゃないが息子は父親に似て美形だ。
当然女の子にとてもモテる。
だけどアルトは同年代の少女には見向きもせず、
一心にツェリシアだけを大切にしてきた。
そんなツェリシアをある日突然奪われたのだ。
母親の再婚ならば仕方ない。
ツェリシアが婚姻を結べる18歳になるまでアルトは度々会いに行くとして、遠く離れて暮らす事を耐えた。
転移魔法を早くに会得したのもその為だ。
しかしそれが人身御供としてアブラス国に取られたのだ。
しかも実の母親に売られる形で。
そんな不条理、誰が許せるものか。
奪われたのなら必ず奪い返す。
そのアルトの心情は痛いほど理解出来た。
だからこそ夫と二人、身を切られる思いで息子を送り出したのだ。
母として寂しかったし辛かった。
出来る事ならもう少しだけでもいいから手元に置いて愛情をかけて育てたかった。
だけど息子自身が選んだ道だ。
親として背中を押してやり、これからはその背中を見守り続ける事にした。
そしてアルトはその果てに精霊王の愛し子となり、
永遠に近い寿命を得た。
その事に関してもべつに構わない。
親よりも早くに死ぬというのなら自分の全てを懸けて止めたが、長生きしてくれるというのならなんの文句が言えようか。
果てしない時を共に過ごせる師もいる。
だから後は、息子の10年が無に帰すような事だけにはならないでくれと願うばかりだ。
あの日アルトが切望した未来を、彼が手にする事だけが母親としての望みだ。
あれからどうなったのか。
夫が隣国の情勢を逐一調べているようだが、肝心の情報が入らないという。
どうか、どうか無事で……
アルトとツェリシア、二人とも無事で並んでいる姿を見せて欲しい……。
アミシュはそんな事を思いながら裏庭の生垣の間に設置している小さなアーチの方を見た。
あのアーチから、ひょっこりと二人、元気な姿で出て来て欲しい。
「おばさま」
そう、そんな感じで自分の事を呼びながら。
ツェリシアの弾けるような笑顔はきっと今も変わってないのだろう。
あんな感じに明るい日差しのような屈託のない笑顔……
「おばさま?」
「…………………」
錯覚だろうか。
幼い頃のツェリシアによく似た娘がアーチの所から呼びかけてくる。
赤い水玉のワンピースを着た、可愛らしい顔立ちの娘だ。
ツェリシアが成長したらきっとこんな感じだろう。
ツェリシアが………
「おばさま?わたしが誰だかわかりますか?」
アミシュは被っていた帽子を脱いだ。
そして呆然としてアーチに立つ娘を見た。
まさか、
まさか。
「……ツェリ…ちゃん……?」
名前を呼ばれて、自分だと気付いて貰えたツェリシアが満面の笑みをたたえて返事をした。
「はい。ご無沙汰しております、アミシュおばさま」
「ツェリ……ツェリシ……」
知らず、足が動いていた。
前方に立つその存在の元へとひたすら足を動かす。
この瞬間をどれほど待ち望んだ事か。
再びこの胸に抱く日を、どれだけ待ち望んだ事か。
アミシュは目に涙を溜めながらツェリシアの元へと駆け寄り、そして抱きしめた。
「ツェリちゃん……?本当にツェリシアちゃんなの……?」
抱きしめながら、夢ではないかと不安になる。
だけど、寄せ合った体から温もりが伝わり、その柔らかな感触が現実だと教えてくれた。
「ツェリちゃん……!」
「おばさま……」
突然抱きしめられて驚いたツェリシアだが、
昔と変わらない温かさと優しい香りに胸がいっぱいになった。
「おばさまっ……お会いしたかった……!」
「ツェリちゃんわたしもよ、わたしもどれだけあなたに会いたかったか……よく無事に戻って来てくれたわね、ありがとう、本当にありがとうっ……」
「お礼をいうのはわたしの方です。おばさまとおじさまがとても心配して下さった事をアルトから聞きました。長い間心配をかけてごめんなさい。そしてありがとうございました……」
「アルト……?」
その名を聞き、はっとしてアミシュは気配を感じた方へと目を向ける。
そこには、数年ぶりに見る息子の姿があった。
手紙のやり取りはしていたが、実際の姿を見るのは本当に久しぶりだった。
成長を遂げ、すっかり大人の男性になった息子の姿をよく見ようとしたアミシュは、その顔を見て心の中で小さく息を呑む。
息子の片目は……失われていた。
それでも穏やかな表情でこちらを見るアルトに、アミシュは悲しいという感情よりも極限まで力を尽くしたのであろう息子を褒めてやりたいという気持ちの方が勝った。
「おかえりアルト。若い頃のお父さまにそっくりでびっくりしたわ」
母の言葉を聞き、アルトは柔らかな笑顔で答えた。
「ただいま、母さん」
アミシュは片手にツェリシアを抱きながらもう片方の腕を息子の方へと伸ばした。
そして胸に掻き抱く。
色とりどりの花々が咲き綻ぶ庭で、親子三人が身を寄せ合って再会の喜びを噛み締めた。
◇◇◇◇◇
アルトがツェリシアを伴って帰宅した知らせを受け、父であるハルトが急ぎ王宮から戻って来た。
そしてそこでも感動の再会を果たし、再びツェリシアとアミシュはわんわん泣いた。
今はリビングで一緒にお茶を飲みながらアルトはこれまでの事を両親に話して聞かせた。
アブラスでの事の顛末を全て聞き終え、アルトの両親は大きく息を吐いた。
話を聞いている間に、知らず体に力を込めて聞いていたのだろう。
息と共に力も抜ける。
「……本当に……途方もない話だな……まさか、我が子が異界の悪魔と渡り合うとは思いもしなかったぞ。それにツェリシアも精霊王の愛し子になったとは……」
ハルトが呟くようにそう言った。
そしてアルトの顔を見る。
「……その目は、元に戻す事は出来ないのか?」
父の問いかけにアルトは静かに答えた。
「本当は出来るんだ。だけどこの目は悪魔の“供物”として差し出した。向こうにしてみれば自分の贄であり所有物だと捉えていて、再生した左目を寄越せとコンタクトを取ってくる可能性がある。胸くそ悪い話だが、贄を差し出した時点であの欲深悪魔と失った左目の縁が繋がったのは確かだ。万が一にも付け入る隙は与えたくない。だからもう、この目はこのままにしておこうと思うんだ」
アミシュが息子に尋ねた。
「不便はないの?」
「母さん、わかるだろ?精霊使いに死角はない。失った左目の代わりは精霊達がしてくれる」
「そうね。そうだったわね」
もうこれ以上は何も言うまいと両親は思ったようだった。
『わたしの為にアルトは……』
ツェリシアは申し訳なさで思わずうつむきそうになった。
だけどふいにアルトの手がツェリシアの手を包みこむ。
ツェリシアが顔を上げて隣に座るアルトを見ると、
優しげな顔で微笑んでいた。
『そうね、後ろ向きな気持ちになるのは却ってアルトに失礼だわ。感謝の気持ちを忘れずにいれば、それでいい』
そう考え、ツェリシアもアルトに微笑み返した。
互いに微笑む二人を見ながら、アミシュが嬉しそうに言う。
「結婚式はどうするの?いつにする?というかどの国で挙げるの?ハイラム?アブラス?アデリオールなら嬉しいけど……」
母の言葉を受け、アルトは肩を竦めながら答えた。
「師匠はハイラムがいいって言っているけど、俺はツェリの望むようにと思っているんだ」
「ツェリちゃんはどうしたい?」
「うーん……式はどの国で挙げてもいいと思ってるんですが、迷っている事があって……」
“迷いがある”と聞き、アルトが慌ててツェリシアを覗き込む。
「ツェリ?どうした?迷うって何を?」
まさか自分との結婚が……
というアルトの不安がこちらに伝わって来た。
「違うのよアルト。結婚を迷っているんじゃなくて、母と義父を式に呼んだ方がいいのかと迷って……冷たいかもしれないけど、本当は会いたくなくて……」
ツェリシアのその言葉にコルベール家の皆が大きく頷き、そして同時に言った。
「「「その必要はない」」わ」
それについてはアルトの父であるハルトが説明をしてくれた。
ツェリシアの親権を国に売っておきながら、両親は婚約解消の手続きを取ろうとしなかった。
しかもツェリシアが養父に金を借りてまでして支度金を返してきたというのにだ。
これは詐欺に当たるとして、コルベール家は法的な訴訟の手続きを取ろうとした。
しかしそれではツェリシアとの婚約が正式に無くなってしまう。
それはやめて欲しいとアルトに懇願されたハルトは、別の形での報復を考えた。
ツェリシアの実母はともかく、再婚した男の評判は最悪なものだった。
それだけ多くの人間から悪評を付けられる者だ、叩けば必ず何かしら埃が出てくる筈だ。
案の定、少しつつくだけで出てくる出てくる。
詐欺や横領、恐喝に美人局……。
呆れ果てて反吐が出る程の悪行の数々が出て来た。
運良くアデリオール国内で起こした犯行が多く、それら全ての証拠をあげて捕縛した。
「奴は今、二度と出て来られない終身刑を受け、極寒の最北の孤島の牢の中だ」
当然財産は没収。
そしてツェリシアの実母は今、遠く離れた小国で掃除婦として働いて一人で暮らしているという。
一度ツェリシアに救いを求めて近づこうとしたが、陰で見守っていたアルトが当然それを許さなかった。
ツェリシアの部分だけの記憶を消し去り、今いる小国へと強制転移させたのだ。
まぁその事だけはツェリシアが知る必要はないだろう。
両親の事を聞いたツェリシアはどこか怒ったような、どこかホッとしたような面持ちだった。
その後も色々と相談した後、
結婚式はアデリオールで挙げる事に決まった。
長く心配をかけたコルベールの両親、主にアミシュの希望を叶えたいとツェリシアが決めたのだ。
それに結婚式の準備は女親が何かと動きやすい方が良いとの判断もあった。
式の用意には、ツェリシアが毎日転移魔法でアデリオールへ通えば良いのだから。
「ふふふ、ドレスの用意や式場の手配など、これから忙しくなるわよ♪とっても楽しみだわ、もちろんアルトの姉のアシュリにも手伝って貰いましょう」
アシュリはコルベール家の長女でアルトの姉だ。
既に数年前に子爵家へと嫁いでいる。
それからは思い出話をしながら美味しい夕食をご馳走になり、ツェリシアとアルトはコルベール家を後にした。
明日からは毎日、会える。
それがまたツェリシアにとって嬉しかった。
アルトの転移魔法で移動をする。
てっきりアブラスの魔塔に帰るのかと思っていたら、そこは見知らぬ丘の上だった。
あの時、魔鉱脈の封印を終えて精霊界に迎えに来たアルトと共にツェリシアはとりあえずアブラスへと帰った。
ウィルヘルムやバイヤージ、そして六傑の面々に無事な姿を見せたかったからだ。
皆、ツェリシアの姿を見るなり大変だった。
大泣きする者。
抱きついて離れない者。
嬉しさのあまり話が止まらない者。
喜びの筋肉を見せつけてくる者。
皆がツェリシアの無事を喜び、また安堵した。
その時にアルトはちゃっかり魔塔にツェリシアの退職届けを提出していた。
退職の理由はもちろん、寿退社…ならぬ寿退魔塔である。
それを受け更に仲間うちで喜びのお祝いモードでてんやわんやになったのは言うまでもない。
それでもまだ荷物の一式は魔塔の部屋にある。
それなのにそこに戻らず何故こんな小高い丘の上に?
不思議そうなツェリシアの顔を見て、アルトが笑みを浮かべながら理由を教えてくれた。
「ここから見える景色が絶景なんだ」
そう言ってツェリシアの手を引き丘のせり出した所まで歩いて行く。
そこまで行って、目の前に現れた光景にツェリシアは感嘆の声を上げた。
「……わあっ……!」
その場所からは、大きく広がる満天の星空と眼下にはジェスロの港町の夜景と広大な海が一度に見渡せた。
星空の輝きと町の灯り。
夜の海の色と丘の上から浜辺へとなだらかに続く芝生の緑。
きっと昼間の太陽の下で見ても美しい光景なのだろう。
でも夜の静寂の下で見るこの景色の方がきっと好きになると、ツェリシアは思った。
対照的な暗闇と光が織りなす情景が何とも言えない空気感を醸し出している。
「綺麗……」
ささやくようにツェリシアが言う。
「こんな景色が見られるなんて……」
吐息と共に言葉を紡ぐと、後ろからふわりと抱きしめられた。
長身のアルトの体にすっぽりと包み込まれる。
アルトのローブから彼の香りが漂う。
ツェリシアは目を閉じてその香りと温かさにうっとりとした。
アルトが囁く。
「これから……気の遠くなるくらいの長い時を、俺と共に生きてゆく事に悔いはない?」
「?」
どうしてそんな事を聞くのか理解出来ず、ツェリシアはアルトを仰ぎ見た。
「キミに選択の余地なく眠れぬ夜を与えた俺を恨んでくれても構わない。でも……それでも、側に居させて欲しいんだ」
アルトにしては珍しく、自信のない弱々しい声だった。
ツェリシアはなんだかたまらない気持ちになってアルトの腕の中で身動ぎして彼と向き合う。
そしてアルトの頬を両手で包んだ。
「ぷぷ、弱り果てているアルトってばカワイイ」
「ツェリ……俺は……」
「アルト、あなたを恨んで側に居たくないと思うなら、実は婚約解消されていなかったと知った時にあなたの元から去っていたわよ。わたしがどれだけ嬉しかったか、あなたは知らないんでしょ」
「ツェリ……」
「それに逆じゃない?アルトこそいいの?これから長~~い時を、あなたはわたしの面倒を見続けなければいけないのよ?髪にブラシを入れたり、美味しいパンを買いに行ったり、わたしの買い物に付き合わされたり。時には母親か介護か!と怒りたくなるような事になるかもしれないのよ?」
最初は不安げな表情でツェリシアの話を聞いていたアルトだが、じきに嬉しそうに微笑み出す。
「ツェリの世話をやくのが俺にとっての至福の喜びだからね、むしろどんと来いだよ」
「ふふ。それならわたしも長い時をあなたと共にいられるのが至福の喜びだわ。考えてみて?わたしはずっと、明日命が尽きるかもしれないという日々を過ごしてきたのよ?わたしの前の道は常に見えない壁に塞がれていて、その先に行けないの。それが今はどう?果てしない道がわたしの目の前に広がっている。そしてその道をアルトと共に歩いてゆけるなんて最高じゃない!サンキューデュー様ありがとう精霊王っ……
その先を最後まで言う事は叶わなかった。
アルトに唇を奪われたからだ。
最初から深く。
角度を変えて何度も。
吐息まで貪れるような、そんな思いの丈が溢れた口付けだった。
やがて静かに唇が離れ、互いに見つめ合う。
一つだけになったアルトの瞳に映る自分がいる。
生きて、頬を上気させ、瞳を輝かせている自分がいる。
『わたし……生きてるわ……!
そしてこれからも生きてゆける。
大好きなアルトと共に。
彼と共に、長い長い時の中で生きてゆけるんだ』
その事が本当に嬉しかった。
眠れない体と朽ちぬ体で終わりなき日々を過ごす事がどういったものなのか、ツェリシアにはまだ想像もつかない。
嫌になる時が来るだろうか。
虚しくなって死にたくなる時が来るだろうか。
でも、毎日楽しそうにしている良いお手本が近くにいる。
既に600年以上生き、
数多の眠れぬ夜を過ごして来たであろうあの人がいる。
それに自分には素敵な旦那サマもいてくれるのだ。
絶対大丈夫だと思えるこの自信は決してハッタリではないと思う。
ツェリシアはアルトの首に腕を回した。
そしてぎゅっと彼を抱きしめる。
アルトが力強く、でも優しく抱きしめ返してくれた。
「ツェリ……ありがとう」
「アルト……ありがとう」
二人はいつまでも抱きしめ合った。
そしてこれからも何度も互いを抱きしめ合うのだろう。
辛く苦しい時を経て、
これから続く長い時の中できっと何度でも。
頭上には満天の星空。
その星々が今にも溢れ落ちてきそうだ。
ツェリシアはこれからどれだけの星空をこうやって見上げる事が出来るのだろう。
何千何万という夜の数だけ、こうやって彼と星空を見上げてゆこう。
そう思うだけでわくわくする自分がいる。
さあ、明日から何をしようか。
とりあえずはアミシュおばさまとウェディングドレスのデザインを考えよう。
アルトにばかり料理をさせるのも悪いから、料理教室にでも通おうか。
ツェリシアの目の前には、
星の数だけ多くの可能性が広がっていた。
終わり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これにて完結です。
相変わらず最終話に詰め込み過ぎですね。(汗)
以前、いずれ書くとお約束していたアミシュとハルトの息子の話を皆さまにお届けする事が出来てほっとしております。
書く書く詐欺にならずに済んで良かった!
そして今回も短編詐欺にならなくて良かったです☆
しかし短編とは何話まで?
何話を超えたら長編?
“中編”というカテゴリーもあったらいいのにな~と毎回書きながら思ってます。
作者の中では、短編は20話から25話くらいまでかな?と勝手に決めておりますが☆
“賢者の弟子”を書きたくて考えたこの物語。
誕生は意外と古く(作者の中で)、同時期に『後宮よりこっそり出張…』や『だから行ったのに!』の物語を考えていた頃でした。
その頃はわりとファンタジー要素が強めのストーリーを構想していましたね。
しかしこの師弟、書いててとっても楽しかったです。
多分これからも何かの物語で、この師弟が出て来る事があるかもしれません☆
その時は「この師弟、相変わらずだな」と思って読んで頂けると嬉しいです。
次回はオマケとして番外編をお届け致します。
ツェリとアルトのその後、イグリードとの暮らし、それから数年後のお話を描きたいと思います。
一話のつもりでしたが、二話になりました。
どうぞ最後までお付き合いくださいませませ。
どうぞよろしくお願いします!
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