異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、秋のジャッケ その4

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 すでに外は日が暮れ始めています。
 居酒屋さわこさんの店先には、リンシンさんが吊してくださった提灯が周囲を明るく照らしています。

 開店して間もない店内ですが、すでに多くのお客様で賑わっております。

「あら、初ジャッケ? そっかぁ、もうそんな時期かぁ」

 壁に貼っているお品書きを見つめながらクニャスさんが声をあげました。
 カウンターに座っているクニャスさんに、笑顔を向ける私。

「はい、今日たくさん仕入れてまいりましたので」
「そういえば、川の方もすごわったわね。不気味なぐらいなりをひそめていたジャッケがいきなり集団で遡上してきたって」
「ジュ! おかげでいっぱい稼げたジュ!」

 クニャスさんの言葉に、お手拭きで顔をゴシゴシ拭いていたジューイさんが嬉しそうに声をかけておられます。

「確かに、ジャッケ討伐の報奨金は、貴重な収入だもんな」
「ジュ! 雪が積もったら魔獣討伐に行くのも一苦労ジュ。それまでの間にしっかり稼ぐジュ!」

 ジューイさんが言われているように、ここ辺境都市トツノコンベは豪雪地帯です。
 去年もかなりの期間、すごい雪に覆われていました。
 あまりにもすごすぎて、外部からの食糧の輸送まで滞ってしまったほどです。
 そのため、ここトツノコンベにおられる冒険者の方々は、冬の間は南方の都市へ拠点を移されるのがほとんどでして、そのための移動費用などをジャッケ討伐で稼がれるのが常とされているんです。
 酒場や役場、冒険者組合や商店街組合などと専属契約を結ばれている冒険者の方々は、冬の間も賃金が保障されていますので南方へ向かわれはしないのですが……

「最近は、南方での稼ぎがいいもんだから、専属契約を結んでくれる冒険者が少なくなっているんだよね」

 役場のヒーロさんが、そう言いながらため息をつかれています。

 役場では、街の周囲に害獣指定されている魔獣が出現した際に迅速に対応出来るよう、冒険者の方々と専属契約を結ばれているそうなのですが……

「……あの契約形態は、冒険者的には辛い……出動した時にしか満額支払われないのでは」
「リンシンさんの言われる通りなんだけど……役場にも予算があるから、大盤振る舞いは出来ないんだよ……」
「……だから、冒険者が逃げていく」
「そうなんだよねぇ……契約してくれる冒険者の数が少なくなってるせいで役場長にはどやされるし……はぁ、とりあえず今日のところは酒を飲んで憂さを晴らしておこう」

 リンシンさんの言葉に苦笑しながらお酒のコップを口に運んでいくヒーロさん。

「ヒーロさん、心中お察しします」
「今日も役場長室で散々でしたもんね……お酒、お付き合いしますよ」

 ヒーロさんの元で働いておられるツチーナさんとシウアさんも、苦笑しながらコップを掲げておられます。

「せっかくご来店くださったのですから、お酒と料理で癒やされていってくださいね。目一杯頑張らせていただきます」
 
 そんな3人に向かって笑顔で力こぶを作る私。
 もちろん力強さがあるとは思えませんが、そこはご愛敬ってことで。

「そうだね、じゃあせっかくだから新ジャッケのチャンチャン焼きをもらおうかな」
「あ、ボクは焼きジャッケを」
「私はジャッケのおにぎりをお願いします」

 そんな私に、壁のお品書きを見つめながら注文してくださったヒーロさん達。

「はい、よろこんで」

 笑顔で返事を返すと、私は早速調理を開始していきました。
 もっとも、どの品もすでにたくさんの御注文を頂いておりますので、準備にあまり手間はかかりません。

 ジュワ~

 炭火コンロの上に置いている鉄板。
 その上にバターをのせ、そこにジャッケの切り身を乗せていきます。
 焦げ目がついたら、野菜と調味料を加えてお椀型の蓋をして蒸し焼きに。

 焼きジャッケは、網焼き器で焼いていきます。
 同じく、網焼き器で焼いたジャッケの身をほぐして、土鍋ご飯に挟みおにぎりに。

 焼きジャッケとジャッケのおにぎりが出来上がる頃合いに、チャンチャン焼きも出来上がりです。

「さ、おまたせしました」

 カウンター席のお3方へ料理を手渡していく私。

 チャンチャン焼きは丸いお皿に、焼きジャッケは横長なお皿に、ジャッケのおにぎりは2個セットにして小さめのお皿に、それぞれのせています。

「これこれ、去年もよく食べたんだよな」
「焼きジャッケは朝ご飯にもよさそうですよね」
「ジャッケのおにぎりは、お昼にも販売してるんですけど、すぐ売り切れちゃうからなかなか変えないんです」

 そんな会話を交わしながら、3人はそれぞれ料理を口にしていきます。

「うん、うまい! やっぱりこの時期のジャッケは美味いなぁ」

 ヒーロさんの言葉に、ツチーナさんとシウアさんも笑顔で頷いておられます。
 私の料理で笑顔になられている皆さんを拝見していると、私まで笑顔になってしまいます。

「さぁさぁ、食べ物を満喫したら、今度はお酒よね」

 そう言いながらヒーロさん達の後方に、バテアさんが歩み寄られました。
 その手には、当然のように一升瓶が握られています。

 今日、バテアさんがお勧めしているのは純米原酒の「秋刀魚と呑む越路乃紅梅」です。
 名前に「秋刀魚と呑む」とありますように、脂の乗った秋刀魚の旨みに負けず、その旨みを引き出してくれる円熟の旨みと切れの良い酸味がたまらないお酒でして、脂の乗っているジャッケにもとても合うんです。

「うん、確かにこれはジャッケに合うね」

 バテアさんから注がれたお酒を口に含んだヒーロさんは、そう言うとチャンチャン焼きとお酒を交互に口にされはじめました。
 あっという間に、コップの中が空になってしまったのですが、

「あはは、言い呑みっぷりじゃない。さ、もう一杯」

 すかさずバテアさんが、そこにお酒を注いでいかれます。
 バテアさんは、どなたがどれくらい呑まれるかというのはしっかり把握しておられまして、お客様の様子をみながら適量をお勧めしてくださっているんです。
 
「じゃあボクもおかわりを……」
「あら、シウアはお酒に弱いんだから、次の一杯を大事に飲みなさいよ。ツチーナはお水にしておく?」
「あ、はい、それでお願いします」

 バテアさんが笑顔で、ツチーナさんとシウアさんのお相手をしてくださっています。
 そんなバテアさんのおかげで、私は料理に集中出来ているんです。
 こうして、仲良しな皆様と一緒にお店を出来るなんて、居酒屋酒話時ではとても考えられませんでした。

 そんな皆様に負けないように、私も頑張らないといけませんね。

 すると、新しいお客様がカウンター席に座られました。

「いらっしゃいませ。今日のお勧め、ジャッケ料理はいかが……」

 そこまで口にしたところで、私は口ごもってしまいました。
 何しろ、そこに座っておられたのは、誰あろう常連客のゾフィナさんだったのです。

「……えっと、ぜんざいですね?」
「あぁ、いつものそれでお願いするよ」

 私の言葉に、笑顔で頷くゾフィナさん。

 居酒屋さわこさんのぜんざいをとっても気に入ってくださって、いつもぜんざいと甘酒だけを御注文されるお方です。

「ちょっとゾフィナ。たまにはお勧めも食べていきなさいよ」
「そう言うなバテア。私はこの店のぜんざいが食べたくて通っているのだ」

 バテアさんとそんな会話を交わしておられるゾフィナさん。
 でも、私のぜんざいを食べるために、こうして足繁くお店に通ってくださっているんですからね。
 それはそれでとても嬉しいといいますか……

 笑顔を浮かべながら、私はぜんざい用の切り餅を網の上にのせていきました。

 さぁ、今日もまだまだ頑張らないと。

 

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