異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
186 / 343
連載

さわこさんと、エンジェさんのはじめて

しおりを挟む
 朝、目を覚ました私でございます。

 ベッドの中には私とバテアさん……そして、いつもならベルが寝ている場所に、小柄な女の子の姿をしたエンジェさんが横になっています。

 人の姿に変化することが出来たエンジェさんは、気持ちよさそうに寝息を立てています。
 寝息をたてながら、私の腕に抱きついているエンジェさん。

 昨日までのエンジェさんは、机の上のクリスマスツリーの横で天使のオーナメント姿で座り、目を閉じていました。

 そんなエンジェさんが、今日からは私の隣で毎日一緒に寝起きすることが出来るのです。
 こんな嬉しいことはございません。

 今まで、一緒に居酒屋酒話で頑張ってきた、私の友人であり妹であり姉のようなエンジェさん。
 この居酒屋さわこさんでも、こうして出会うとことが出来て、お話が出来るようになったエンジェさん。

 私がそんなことを考えながらエンジェさんを見つめていると、
「……あら」
 エンジェさんが、いきなりパチッと目を開けました。
 しばらく目をパチパチさせたエンジェさんは、私と目が合ったことに気付くと、
「おはよう、さわこ」
 そう言ってにっこり笑ってくれました。
「おはようございます、エンジェさん」
 私も、エンジェさんに笑顔で挨拶を返しました。

 そうですね……これからは毎日こうしてエンジェさんと挨拶を交わしあう事が出来るんですね。

 私とエンジェさんは、そのことを喜びあうかのように、しばらく笑顔を交わし合いました。

◇◇

 人の姿になったばかりのエンジェさんは、
「さわこ!まずは青空市ね!手伝うわ!」
 すごく張り切った様子で一階に駆け下りようとしました。
「あ、エンジェさん、その格好では寒いですから、服を着てください!」
 私は、そう言ってエンジェさんを引き留めました。

 そうなんです。

 エンジェさんは、私のパジャマを着たままなんです。
 しかも、エンジェさんに私のパジャマは少々大きかったものですから手足を織り込んでいる状態なんです。
 背中の羽は小さく折りたためたものですから気にならなかったようなのですが……この格好では少々寒いですからね。

 さて、エンジェさんを呼び止めたものの代わりに何を着てもらうかで、少々困ってしまいます。
 サイズ的には、エンジェさんはベルに近いのですが……ベルよりも微妙に大きいのです。
 そのため、ベルの服を着ると、少々手足が短い状態になってしまうんです……これでは、手足が寒いことになってしまいます。

 そこで私はしばらく考えた後、私の所有しているジャージのですね、手首と足首部分に絞りのあるものを取り出しました。
 絞りがあれば、少々長くてもそこで止まってくれますからね。

 案の定、そのジャージを着るとダボッとなってしまったエンジェさんですが、絞りのおかげで無難に着ることが出来ています。
「これ、さわこの服ね! 私とってもうれしいわ!」
 エンジェさんは嬉しそうに微笑みながら、私の前でくるくる回転していきました。
 その上に、ダウンジャケットを重ね着した状態で、エンジェさんは外へ飛び出していきました。

 一緒に、だるまストーブを移動させ、
 一緒に、だるまストーブに火をつけまして、
 一緒に、その上で豚汁を温めていきました。

 バテア青空市での作業が終わった皆様がやってくると。
「温かいものよ! みんな食べていってね!」
 エンジェさんが笑顔で皆さんに声をかけていきました。
「今日の温かいものはなんなのかな?」
 そう聞かれると、
「今日はぜんざいよ!」
「違います、エンジェさん。今日は豚汁ですよ」
「あ、いけない!? ぜんざいは昨日だったわね」
 期せずして、エンジェさんと私はそんな掛け合い漫才をしてしまいまして、皆様にあたたかな笑いまで提供していた次第でございます。

 青空市でのお仕事が一段落しますと、だるまストーブが冷えてから、それを居酒屋さわこさんの中へと戻していきます。

 この時も、エンジェさんは
「さわこ、まかせて!」
 そう言って、一生懸命だるまストーブを持ち上げようとしてくださいました。

 ですが……まだ人の姿になったばかりだからでしょうか……エンジェさんってばかなり非力なんです。

 そのため、だるまストーブを、右から私が、左からエンジェさんが持ち上げようとすると、だるまストーブは思いっきりエンジェさんの方に倒れていってしまったんです。
 慌てて駆けつけてくれたエミリアが手伝ってくれたおかげでどうにか無事作業を終えることが出来たのですが、
「ごめんねさわこ、ありがとうエミリア。腕立て伏せして鍛えないと駄目ね」
 それでもエンジェさんは、笑顔のままやる気満々の様子でした。

 そんなエンジェさんの姿に、私とエミリアも思わず笑顔になっていった次第でございます。

◇◇

 居酒屋さわこさんに戻り、だるまストーブをお店の中に設置し終わると、
「さぁ、お掃除をするわ!」
 エンジェさんは、気合い満々な様子でそう言うと、バケツに水を入れ、その中に雑巾をいれました。
 雑巾をかたく絞ると、それでまずは床を拭き始めました。

 バタバタバタ

 エンジェさんは、笑顔で床を行き来しています。
 何度も何度も往復していきます。

 その顔はずっと笑顔のまんまです。

「さわこのお手伝いが出来るのが、こんなに楽しいなんて!」
 エンジェさんは、そう言いながら床を何度も何度も往復してくれました。

 その後……

 お店の外の掃き掃除。

 テーブルの上の拭き掃除。

 ベルがうどんを踏み始めると、
「さわこ!私もするわ!」
「にゃ!? こ、これはベルのお仕事にゃ!」
 ベルとそんなやりとりになったりもしていました。

 とにかくエンジェさんは、休む間を惜しむかのように働き続けていきました。
 その顔には笑顔が浮かび続けていたのでございます。

 ……そして、時間は流れまして……

 バテアさんの魔法道具のお店が閉店する時間になりました。

 同時に、居酒屋さわこさんが開店する時間でござます。

 エンジェさんは
「今日はね、着物を着て接客をするわ!」
 そう言って張り切っていたのですが……

 私やバテアさん、リンシンさん達が2階のリビングで着物に着替えている中……エンジェさんの姿はここにはありませんでした。

 今、エンジェさんは、ベッドで横になっています。

 はい……朝早くからフルスロットルで頑張り続けてくれたエンジェさん。
 気がつくと、カウンターに突っ伏して眠っていたのでございます。

 まだ、人の姿になって1日目のエンジェさん。
 張り切りすぎで、疲れが出てしまったのでしょうね。

 リンシンさんに、エンジェさんをお姫様抱っこしていただきまして、ベッドまで運んでもらいました。
 パジャマに着替えさせて、そのまま眠らせてあげているんです。

 皆さんの着物の着付けが終わった私は、自分の着物を身につけていきました。

 その間も、エンジェさんは眠り続けていました。
 ……どうやら、今日は一緒に居酒屋さわこさんで働くことは出来そうにありませんね。

 そんなエンジェさんの枕元に、私は準備しておいた着物をそっとおいて置きました。
 クリスマスツリーにちなんで、濃い緑色の着物でございます。

 すると、エンジェさんがその着物に少しすり寄っていったような気がいたしました。
 エンジェさんは、着物に手をあてながら、その顔に笑みを浮かべました。

「エンジェさんの分まで、がんばってきますね」
 私は、その笑顔に向かってそう囁きかけると、お店に向かって降りていきました。

ーつづく

 
 
 
しおりを挟む
感想 164

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。