=短編集=2

仙 岳美

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何処かの人

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 俺は夏の炎天下の中、若い頃の相棒でもあった少しくたびれた一振りの投げ竿を持ち、焼ける砂漠の様な砂浜をひとり歩いていた。
 やがて当然に頭がクラクラしてきて、倒れる気がした、でもそれは、自分が望んでいる事でもあった……
何故なら……
昨晩思ったからだ……
『元気な時に熱中していた趣味でもある、釣りをしながら……た……ら……』

 やがて海が見えて来ると、そこには、女性の先客が居た、その人は、麦わら帽子のブロンドで、白いワンピースを着ていた、だが、その格好に似つかわしく無い、投げ竿を持っていた。
よく見ると、その人の背に広がる海には、見慣れない街なみが広がっていた……あり得ない事だった、その事から、天国に着いたと思った、でも違う事に気づいた……
何故なら……
何処からか、吹いて来た、涼しい風がひたいに当たり、俺をゆっくりと癒して行くと共に、その風景も、ゆっくりと消えていったからだ。
『蜃気楼だった……」
気がつくと、その人の姿も消えていた……寂しく感じた、でもすぐにその気は晴れた。
何故なら……たまに見させられる覚めた後に、ガッカリとさせられる過去を題材にした淡い夢よりは、マシに思えたからだから。
何故なら……『蜃気楼は、幻であるが、現実……』そう思った時、俺は、自分の世界を狭く狭く考え、窄めていた事に気づかされた……
『出会いは無限にある』
[終]
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