尊き君と永遠に

仙 岳美

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自然の間

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 僕は夜の電車に乗り揺られている、何故なら友達彼女が珍しく夜に来てくれと指定して来たからだ、その訳は、蛍を僕に見せたいからだそうだ。
駅を出ると彼女は改札口で待っていてくれた。
「こんばんは」
「ふむ、では早速だけど行こう」
「ここからどのくらいかかるの?」
「二十分くらいかな」
と彼女の後をついて行くと何やら公園の入り口にらしき所、いや正真正銘の公園入り口だった。
入り口の壁に[摺鉢公園]と名が彫られている。
そして先の闇に浮かび上がる髑髏が!
 「うっ、あれは妖怪ガッシャ髑髏!」
……と思ったら公園によくあるパンダの乗り物だった。

僕は気を取りなおして……。
「ここに蛍いるの?」
と僕が聞くと彼女は振り返り。
「君は、相変わらずビビりで、せっかちだな、この公園の下に川が流れていてね、その近くに人工的に作った産卵場で蛍が見えるそうなんだよ」
「そうだよって、行った事は、ないんだ」
「私も初めてだよ」
と彼女は肩のタバコポケットから何やら折りたたんだ紙を取り出し見始めた。
僕は彼女の肩横からその紙を覗き込むと、「うっわっと! 君近いよ」
「ごめん、何かと思ってさ」
「地図だよ、この公園は大きいのだよ、だからネットの地図を写して来たんだ」

……その名の通り摺鉢状の公園の中を時計逆回りの様に下ること数分、到着した摺鉢の底には、古風な屋敷が建っていた。
その屋敷に灯は無く、人は住んでいない様に思えたが、公園の施設として管理の方は、しっかりとされてるようで、すぐにでも人が住める様な感じを受けた。
この屋敷は『生きている』僕は、そう思った……。
「えーと、この道かなと」
と彼女は独り言を呟きながら、その屋敷の細い脇道を下りて行く……
僕も続いて下りて行く……
到着した場所は、丸い湿地帯で所々浅い人工と思われる小川が流れていて、その上には、丸太橋が所所にかかっていた。
そして肝心の蛍は……
沢山飛んでいた……
僕はその光景を見て思わず。
「ファンタジーの映画が何かの場面みたいだね、これって現実?」
と呟くと彼女は、
「紛れも無く現実だよ、とは言っても産卵場所自体は人工物だけどね、まあそんな事はいいじゃ無いか、それより私も初めて生で蛍を見たけど綺麗な物だね」

 僕は彼女と少しの間その蛍を観ていて変な欲と言うかそんな物が湧きリクエストしてみた。
「ファンタジーだと、ヒロインがはしゃぐもんだけど……」
僕がそう言うと彼女は
キョトンし、
「ヒロイン?」
「うん」
「私しが?、で君は、そのヒーローかね」
「まあ、そんな所かな」
「私にその真ん中でクルクル回れと言うのかね」
「うーん、試しにさ」
「しょうがないな、まあ此処に誘ったのも私だし」
と彼女は園の中央迄行きクルクル回ってくれた。
「何かワザとらしいな」
「それは、そうだよ、ワザとだもん、それになんと言うか、ビビりな君がヒーローという設定も無理がある、私も気分が乗れないよ」
と彼女は呆れた様な仕草な両手平を僕に見せ、ニヤリとした!
「そう! その自然の笑みだよ、僕が観たかったのは」
僕がそう声を荒げると。
「おっけー、これかい」
と彼女は再びニヤリとしてくれた、でも……
「あ、やっぱりワザとらしいかな」
「だからワザとだよ、君もわからない人だな」
「……」
僕は、そう言われ思った……今この時、ワザとらしくふざけあっている時間その間が、かけがえのない自然な物なんだと……。
そして、蛍と星の境界線を曖昧に感じてゆき、風が吹き、森の枝が鳴った時、僕は、宇宙に浮かぶ極小惑星に乗り、彼女と、答えも真理も無限の宇宙を解き明かす旅をしている心持になっていった……。[未完]

※蛍
 説明する迄も無く、お尻が発光する有名な昆虫。
その光は、結集すると目にした者を感動させる。
残念ながら近年その数は減少傾向にある。

※ガッシャ髑髏(伝記の妖怪)
 山中で行き倒れた者達の骨が結集し形を成した巨大な人体骨格。
それは、なりふりかまわず襲いかかって来ると伝えられている。
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