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⑤運命の渦と未知の使者[05狼少年未来録]

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※連載枠・狼少年未来録

⑤運命の渦と未知の使者[05狼少年未来録]

作者・影山 彰

登場人物
主人公の青年 影山 彰  
同居人の女性 島津 美砂
妻      仙  岳美
妻の友人   瀬田 鳴海


 あれからも私はあがき世界中を手探りでさまよっていた……

難産で流産しその影響で脳にダメージを追い、3年近く意識不明で東洋も西洋も両方面の医者に匙(さじ)を投げられ入院中の妻の意識を取り戻すため、世界各国、黒魔術、シャーマン、イタコ、呪術師、未来透視能力者、神と交信できる者、その他、様々な人物の噂を聞けば逢いに行ったが誰1人として妻を救う方法を知る者はいなかった……微かな望みを繋いだ全ての物は故人の妄想を引き継ぐ者達だけの幻だった……現実には異世界も無いし奇跡も無く、あるのは容赦の無い、変わらない現実だけで、そして絶望し用意した旅費も底を尽き、経済的理由もありタイムリミットを迎え帰国した……その日は家に帰らず空港近くのホテルに泊まった……

その深夜、急に金縛りが起き、旅の疲れだな……めんどくさい……そのまま気にせず寝てしまおうと思ったが…声が聞こえてきた、それは聞き覚えのあの声だった……

🪬《ひしぶりだな》

「お、お前はいつしかの…」

《……今日はお前の願いを聞きに来てやった、何でも言え聞いてやる、困ってる事があるんだろうが》
「なっ! 何故? お前に同情される理由は無い!」
《同情では無い、これはある者との契約だ!》
「ある者?それは誰だ!」
《我と契約した者、即ち眷属(けんぞく)、貴様と同じ者だ》
「眷属……」
《さぁ言え、朝が来る前に》
私の今の願いはただ一つ……
「私の意識不明の妻の意識を回復させてく……」
《どうした?》
「俺は、人には頼らない、自分で彼女を目覚めさて見せる!」
《……それでいいのか?》
「……」
《悩んでいるな、一つ忘れてるようだから教えてやる、お前は前に我と合った時、抱えている精神的病の全回復と引き換えにある物を我に差し出したんだよ》
「え!」
《お前の幸せだよ、将来の家族の縁だよ、その当時、お前に差し出す大事な者は何一つもなかった、そこでお前は未来を差し出したのさ、今の彼女がそうなったのも元はお前が差し出し契約した運命が成した形だ! そう、お前は言った『家族なんか今も将来もいらない俺は1人で生きていく』っとな! 素晴らしい将来が待っていたのに差し出したのさ、そして今、お前の願いを聞く様に他の眷者が我に願いでたのさ、自分が死にそうなのにな……それだけの話しだ》
「それは誰なんだ? 私にそんな命を差し出してくれる様な友達はいない……」
《それは言えない……許可を取っていない、一つ言えるの事はお前が差し出し彼女にかけた契約と言う名の運命の定めはお前単独の力では、けして解除はできない! これは最初で最後の運命の選択に成る! さぁ言え! 願いを彼女を助けてくれと!》
私は自らの限界を感じ理解し様々な思いや疑問を封じ縋った、
「助けてくれ、頼むよ」
《承知した》
その時、身体が回る様な、あの時と同じ感じの眩暈が起き、足元に暗黒の渦が発生した!
《さぁ、その渦に飛び込め、これはお前のかつての契約の破棄も兼ねている。その手で中にいる、彼女をその運命の大渦から引っ張り出すのだ》
「契約の破棄?病気はぶり返すのか?」
《心配するな、お前の病気はもう治っている。我との契約で急速に治したが最初から時間が経てば治る物でもあり、即ち今は契約解除したとしても病気はもう、お前の身体には宿っていない、だからといって、我があえて態々またお前を病気にする必要性も無い、我はそう言う下等な存在では無い》

私は安心し頷き、渦に飛び込んだ!

渦の中はゴーとした不気味な音がしており、蒼細い稲妻が神経の伝達の様に渦の溝に沿って無数に走り飛び、周辺には私が今まで人生の中で見てきた光景や人達の姿が彼方此方にバラ撒かれた写真の様に映り込んでいた……その光景を見て過去の様々なヤナ記憶が甦り吐き気がし、身体は何やら泥が纏わり付く様に重く気持ち悪かった、だが私は力強く、(……その時底の方から猫の鳴き声が聞こえて来たその声は呼んでる様であった……)その過去の記憶の泥渦を鳴き声がする底の方に向かって泳いでいった……下に進むに従って周囲の残像風景は最近の物になってゆき、彼女が初めて食品の配送員として家に来た時の映像も映り混んできた、他には初めて彼女と食事をしたレストランの場面も見え、涙が滲んできた……やがて少し先に赤く光る円、渦の中心である底の目が見え、そこにうずくまる人影が見えた! 彼女だ! 記憶にある白いワンピースを着、膝を立てて揃え両脚を両腕で抱える姿勢で座り込み、下を向いていた……私は手を伸ばし妻の名を叫ぶように声を発した! 彼女の身体はその声にピックと反応し、顔が起き、私の方を見上げた、そしてパッと嬉しそうな笑みを溢し、彼女も手を私の方に伸ばしてきた、私は更に力を振り絞り渦沼の中を進み手を伸ばし、彼女のその手をガッチリと掴む事に成功し引き上げ彼女を胸に強く抱きしめた! その時、周囲の暗黒光景が弾け飛び!真っ白な世界に変わった……彼女を抱いて白い宇宙に浮いてる感じに成った……
そして……
《じゃあな》と声が聞こえ……
「待ってくれ、お前は何者なんだ、神か?」
《お前達に理解しやすい様にその様なフリをしているが実際のところ我らは……古代に神と言われていた者達では無い、また悪魔でも無い……この地球と言う名の惑星はもう存在しない遥か未来から来た、かつては実体のあった、亡帝こ……かつての……いや詳しくは言えんがお前らの言葉を借りて解りやすく言えばそうだな……心に穴が開き虚な者の身体に潜り宿り文明を繋ぐ寄生虫よ、それだけの者だ》
「ありがとう、救われたよ、色々と、せめて名を」
《フッ、名か……サカリとでも名乗っておこう後、礼には及ばん契約に則りおこなった行為だ……だがお前は我の眷属だ、これからも見てるぞ、良くも悪くもな》

……私は目を覚ました、
夢だったのか、
そう思った時、
{プルルルル♪}
スマホが鳴った!
彼女の親友で私が世界を廻っている間の緊急連絡先にお願いしていた瀬田さんからの着信だった、ヤナ予感とその反対の期待もしつつ……
「あ、彰君! 今、今、病院から連絡がきて! 仙が目を覚ましたって!」
電話、越して瀬田さんは泣き崩れていた…私もその場に伏せて人生で初めて嬉し泣きをした……⑥へ続く

関連作品
①グローム(作・彰)
②【孤独と真の孤独】(作・仙)
③傘と心の鍵(作・仙)
④金魚鉢(作・彰)
⑤運命の渦と未知の使者(作・彰)
⑥光と影そしてオカリナ(作・彰)
リンク短編シナリオ
⑦【まよいが】(作・仙)
⑧【青年呪術師】(作・仙)
⑨3級・メフィスト(作・彰)
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