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本編
24話 新しい家族
しおりを挟む「今度遊びに行くわね」
「その時は何かお菓子を用意するね」
国王との謁見が終わった後、リリゼットはマリアナと別れて、ギルヴェルトと一緒に馬車でリリゼットの静養先であり、新しい家族となるダンカム商会オーナー、オーガスタ・ダンカムが住んでいる家へと向かったのは、11時になる前だった。
「あの、ギル…聞きたいことがあるのだけど…。ダンカム夫妻とはどんな方達なのでしょうか…?」
ダンカム家へ向かう途中、馬車の中でリリゼットは、自分の養父母となるダンカム夫妻とはどのような人物なのかギルヴェルトに尋ねた。
リリゼットはアルガリータ家で暮らしていた頃から、ダンカム商会が扱っているハーブや薔薇などの香油が入った、良質の石鹸と香水を直に買って使用していた。
だが、アルガリータ家に売りに来るのはガルヴァン国内を担当しているダンカム商会の代表者なので、リリゼットはダンカム商会オーナー、オーガスタ・ダンカムと面識が無く、オーガスタ・ダンカムの顔と人柄を知らない。
「…お前同様に変わった思考を持ったお人好しの夫婦だ」
ギルヴェルトによると、彼はクリスティアに来る前まで、何でも屋をしている老人に雇われていて、その仕事の関係でダンカム夫妻とは以前から面識があったようだ。
ギルヴェルトとダンカム商会との関わりは、ダンカム商会が良質な石鹸と香水を扱う以前、香辛料とハーブをメインに扱ったただの商人だった時代、夫婦で香辛料とハーブを売る為にガルヴァン国内を回っていた時にギルヴェルトは護衛として雇われたのがきっかけだった。
やはり、はじめの頃は赤い瞳を理由に恐れられたが、慣れてくると夫妻の方からギルヴェルトに話しかけてくるようになり、主力商品を石鹸と香水に切り替えて大商人になる前まで、ギルヴェルトを指定して護衛に雇うような間柄になったのだという。
そして現在、ダンカム家はマリアナが職人に作らせた富裕層向けのハーブや花の香油で良い香りがする石鹸や香水をクリスティアのみならずガルヴァン、ユーフォニムなどの大国にも卸して富を得ているが階級は商人のままであるらしい。
こうして、ギルヴェルトと話している間にダンカム家の屋敷の前に馬車が止まった。
ダンカム家の屋敷は、アルガリータ家の屋敷の半分ほどの大きさだったが、これから来るグレンも合わせて4人で暮らす余裕が十分あるように見えた。
ギルヴェルトが戸を叩くと、金髪に緑色の瞳をした中年女性が2人を出迎えた。
「リリィ、こちらのマダムがエリーザ・ダンカム夫人だ」
この出迎えてくれた女性が、今日からリリゼットの義母となるエリーザ・ダンカムであるとギルヴェルトが紹介してくれた。
「本日より、ダンカム家の娘になるリリィと申しまっふ!?」
「あぁ!やっと私達の娘が来てくれたわ!話に聞いていたより可愛い娘が来てくれて嬉しい!!」
リリゼットが自己紹介を終える前に、エリーザはリリゼットが来てくれたことを猛烈に猛烈に喜びながら抱きしめ、歓迎した。
「夫のオーガスタも、この日の為に休みを取ってるから早くリリィちゃんの顔を見せてあげなきゃね!ギルにもリリィちゃんのことを聞きたいから、ギルも中に入りなさいな」
「いや…、俺は仕事が…」
「いいから、いいから」
と、顔見知りの相手であっても、歓迎されることに慣れていないらしいギルヴェルトは、仕事を口実に帰ろうとしていたが、エリーザは強引にギルヴェルトも屋敷の中に招き入れた。
この屋敷には使用人がいないのか、客間へ向かう間、誰ともすれ違うことなく客間に着いた。
客間には、赤みの強い茶髪と茶色の瞳をしたの中年男性が座って待っていた。
「オーガスタ~、ギルがリリィちゃんを連れて来てくれたわよ~」
エリーザが中年男性に言った。
この中年男性がダンカム商会のオーナー、オーガスタ・ダンカムであるようだ。
「おぉ、久しぶりだなギル。そして君が、リリィだね?」
「はい、これからよろしくお願いします」
少々緊張しながら、リリゼットはオーガスタに挨拶をした。
「私は君の養父となるオーガスタ・ダンカムだ。噂以上にとても可愛らしいお嬢さんが私達の娘になってくれるとは、まるで夢の中にいる気分だよ」
リリゼットの養父、オーガスタは穏やかな笑みを浮かべながら、二人の来訪を歓迎してくれた。
「二人ともお腹が空いているだろう?ささやかながら、リリィがうちの娘になってくれたお祝いをするとしようか。エリーザの手料理は美味いぞ」
オーガスタは昼食を兼ねてリリゼットが養女に来てくれた祝いをしたいと、屋敷内にあるダイニングルームへ移動して、オーガスタが待機していた使用人の一人に、エリーザが作ってあった料理をテーブルに並べるよう指示を出した。
「今まであちこち夫婦で移動しながら、慌しい生活をしていたもので、屋敷暮らしというのにまだ慣れなくてね…」
オーガスタによると彼はこの屋敷を購入して夫婦で住み始めたのもまだ1ヶ月に満たず、それ以前はそれなりに富があっても子宝に恵まれず、夫婦であらゆる地方を周りながら、必要最低限の生活をしていたらしい。
そろそろ養子を迎えるつもりでこの屋敷を購入してから、リリゼットの話を聞いて、養女に迎えることを決めたのだという。
そして現在、この屋敷に正式に雇う使用人を選ぶのに時間を掛けている状態で、日中は使用人を派遣してくれる会社から使用人を数人借りながら、エリーザが屋敷での家事の半分を担当している状態なのだとオーガスタが話した。
「さて、長い話はこれくらいにして食事にしよう」
テーブルにはトマトが使われた野菜と豆腐が入ったミネストローネのようなスープ、切り分けられたミートローフ、サラダとパンが並べられた。
「精霊の王よ、恵みに感謝いたします…」
4人は『いただきます』の代わりに、この世界で信仰されている精霊の王に日々の糧を感謝する祈りをする。
「リリィがダンカム家の娘になったことを祝して乾杯!」
祈りをした後、オーガスタが乾杯と言い、まだ昼間なので酒類ではなく、ワイングラスに入った水で乾杯してダンカム家での食事会が開始した。
ーこの二人ならグレンの良い両親になれるわ…。
エリーザの手料理は美味しく、夫妻との会話も楽しいもので、この二人であれば自分だけでなく、後に来るグレンの良き両親になれるだろうと、リリゼットが確信を得られるものであった。
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