空色の娘は日本育ちの異世界人

雨宮洪

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三章 消えた精霊王の加護

31話 蒼炎

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「大変だ!町の外にオークが出た!!」

ギルド『七曜の獣』の仮拠点にカインがオーク出現の知らせに来たのはエイリ達が夕食用のスープの出汁を取っている時だった。

オークという魔物の種類を聞くとアビリオとスオンの表情が一気に険しくなる。

カインはオークの出現を察知したルエンに連絡役として逃がされ仮拠点に来るまでの間に町中に出ている住民達にオークが出現したことを知らせていたという。

ハラスには強い魔物が出現した時に避難できるような大型の建物はないので室内に隠れているように呼びかけることしかできない。

もう1人の連絡役のハロルドは町長にオークが出現したことを知らせに行っということをカインはアビリオに報告した。

そして、ルエンとグランドンが町の外で応戦していることも…。

「おーくってなに?」

「つよいまもの…?」

猫耳姉妹は今までオークを見たことがなかったのかオークと聞いて首を傾げていた。

ーオークってヤバいやつなんじゃ…。

オークはエイリが日本で暮らしていた頃にプレイしていたRPGゲームやファンタジーを題材にした小説に登場する定番の魔物だ。

『スティリア』に出現するオークはどのような姿なのか分からないがエイリがイメージするオークは巨体で棍棒を持っており攻撃力が高くて女子供を襲う魔物というイメージが強い。

そんな魔物とルエンとグランドンの2人が戦っていると思うとエイリは2人の身が心配だった…。

「…分かった、カインはまだ外に出ている人にオークが出たことを知らせて。スオンさん、この子達をお願いします」

「はい、アビリオさんもお気をつけて…」

アビリオは外で応戦している2人の救援すべくスオンにエイリと猫耳姉妹のことを頼むとカインと一緒に外へ出て行った…。

「エイリさん…そんな顔をしないでください。ルエンさんがあなたを遺していくわけないじゃないですか」

ルエンを心配していることが強く顔に出ていたのかスオンは安心させるようにそう言いながらエイリの頭を撫でた。

「さ、私達は倉庫に避難しましょう。エニシ屋の倉庫は大勢は無理でも魔物が出現した時に備えて頑丈に造られてますので」

とスオンはいつもの声と笑顔で言ったがスオンの手は僅かに震えている…。

幼児のエイリに今出来ることは何もない…、作ったスープを冷蔵庫に保存し人数分の飲み水を水筒に入れて用意した。

スオンはエイリ達がエニシ屋の倉庫に避難していることを書いた紙を仮拠点の玄関に貼ると幼児達とクゥ、クロの2匹を『もしも』に備えてエニシ屋にある頑丈に造られた倉庫へ案内し避難させた…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ハロルドとカインを連絡役として逃した後、ルエンとグランドンは町中にオークを入れてたまるかと応戦していた。

2人の周りには12体分のオークの死骸が転がり2人の服にはオークの返り血がべっとりと付いている。

12体狩っても前方にはまだ9体のオークが残っていた。

グランドンはオークの頭部、最低でも棍棒を持っている方の腕めがけ相手の武器を落とさせるつもりで巨大ハンマーを振るい、ルエンはオークの攻撃を上手く避けながら刀で切りつけ、固まって移動しているオークには首、胴体などの急所目掛け戦闘スキル『真空斬』で瞬時に2~3体のオークを屠っているが戦闘スキルは体力を消費する。

ーアビリオはまだか…。

この場所から町までの距離は走って30分と少し。

まだアビリオが応援に来ない。

連絡役に頼んだハロルドとカインはアビリオに知らせる前に住民達にもオークが出現したことを知らせているから時間が掛かっているのだろうとルエンは思った。

オークの群れと応戦してどれ程時間が経ったかは分からない、ただ2人には長い時間に感じる…。

2人の息が上がり体力は限界に近かった…。

「ぐぁっ!」

「グランドン!」

オークが振り上げた棍棒が命中しグランドンの体が吹っ飛び近くの木に叩きつけられ背中を強打したグランドンは意識を失った。

オークの武器は丸太を適当に削って作られたものとはいえオークの攻撃力自体は高い。

グランドンが武器でオークからの直撃を防御し気絶だけで済んだが直撃を受けていればアバラか内臓をやられ命が危うかっただろう…。

ーくっ…、これは厳しいな…。

グランドンが戦闘不能になってしまった今9体のオークをルエン1人で相手にしなければならなくなってしまった。

ルエンにはもはや息が上がり攻撃をかわしながら切りつけるのも戦闘スキルを放つ程の体力も残ってはいなかった…。

ーここを引くわけにはいかん…。

1人で逃げるだけの体力はある。

しかし、ルエン1人逃げれば戦闘不能になってしまったグランドンがどうなるか分からない。

ルエンより体格が良いグランドンを抱え逃げるのは不可能、残して町まで逃げればオークにトドメを刺される可能性が高い。

それだけではない、このオークの群れを殲滅せず逃げれば町に被害が及ぶのは確実だった。

町には愛娘のエイリがいるのだ、オークを殲滅するまで尚更逃げるわけにはいかない。

ーフィリルルのことはいつも肝心な時に守れなかった…。せめて…エイリだけは…死んでも守る…。

ルエンは最愛の妻フィリルルをいつも肝心な時に護れなかった。

ルエンは奴隷時代、自分の所為でフィリルルが魔法を使えることを雇い主に知られ貴族に売られてしまった時は無力な少年だった。

その時から強くなってフィリルルを守ることを決めたというのに結局は魔物から守りきれず死なせてしまったことを長年責め続けていた。

だからこそフィリルルが遺したエイリを今度こそ守りたかった…。

ルエンは強く刀を握り直し、前方にいるオークの群れ目掛けて刀を振り下ろす。

振り下ろされた先から高温の青い炎が放たれ前方にいるオークの身を焼いた。

身体を焼かれたオークは叫び声をあげ、炎による熱と激痛で地面をのたうち回った。

青い炎が自然に消えた頃、前方には炭化したオークの死体が転がり周囲には焼けた肉の匂いが混ざった風が吹いていた。

この青い炎を放つ刀技こそが『煉獄のロウ』と呼ばれるもう一つの由来だった…。

この刀技はフィリルルを喪ってから使えなくなっていた為ルエン自身が驚いていた。

何故今になって使えたのか理由を考えた矢先ルエンは倒れた。

この刀技は魔力を酷く消費する。

特に現在弱体化している上に久しぶりに使ったのだから体に反動も大きい。

ルエンは握っている刀を地面に刺した状態で膝をつき立ち上がろうとしたが身体に力が入らない。

そのままの状態で意識を失わないようにするのが精一杯だった。

「ルエンさん!」

この時になってやっと、町で腕に自信がある男衆を引き連れたアビリオが2人の救援に駆けたのだった…。

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