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三章 消えた精霊王の加護
37話 父親会議
しおりを挟む食堂を後にしたザンザス、ルエン、イアソンの3人は仮拠点の二階端にある団長室として使っている部屋で話し合い…というよりは長年出来なかった元仲間同士での子供自慢をしていた。
「おじさん呼ばわりされたけどやっぱリコ達は可愛かったなぁ」
「そりゃぁオレ達自慢の娘達だから可愛いに決まってんだろ」
リコリスとルティリスの2人は赤ん坊の頃からアビリオと一緒にザンザスが育ててきた自慢の娘達だ。
男親だったので赤ん坊達の世話は大変だったが、フィリルルが存命でエイリが赤ん坊だった頃ルエン達が隠れ住んでいた森へ頻繁に訪れエイリの世話をすることもあったスオンにアドバイスを聞きながらどうにか捻くれることなく素直な子供に育ってくれたとザンザスはフフンッと自慢げな表情で言った。
「いや、俺が引き取ったってあの子達は良い子に育ったはずだ!うちの息子に2人の世話をさせたってあいつはやれば出来る息子だからな!」
とイアソンは言い張る。
イアソンが猫耳姉妹の赤ん坊だった頃を知っているのは彼が左腕を無くす切っ掛けとなったあの黒い魔物の討伐作戦で村の唯一の生存者がこの姉妹だったからだ。
生まれてすぐ天涯孤独になってしまった姉妹をはじめは街にある孤児院に預ける予定でいたのだが移動の最中、姉妹を見ているうちあまりの愛らしさに情が沸いてしまいザンザスとイアソンの2人は親権争いをしはじめた。
赤ん坊が2人なら1人ずつ引き取れば良いとその様子を見ていた者から言われたが双子なのに引き離すのは可哀想だとその案をこの2人の男達は却下した。
イアソンは片腕を失った直後でまだ幼かった息子もおり赤ん坊を育てる余裕なんてないだろ!ということで親権争いに破れ姉妹の親権はザンザスに移ったのだ。
「…お前ら2人重傷者だったんだよな?」
ザンザスから猫耳姉妹の身の上話を聞いた際、イアソンは左腕を失いザンザスは片足が千切れかける程の傷を負っていたという話を聞いていたので思わず良くそんな元気があったなと言いたげにルエンは静かに突っ込んだ。
それから暫しギャースカギャースカとザンザスとイアソンが親馬鹿話をしている様子をウンザリした表情でルエンは眺めていた。
「おい、お前はエイリちゃんのことを自慢しないのかよ」
「そーだそーだうちの子自慢にお前も加われよぉ」
2人はうちの子自慢にルエンも巻き込もうとした。
「エイリはチビ猫と子犬と違って中身は17歳だ。比べ物になる筈がないだろ。元住んでいた場所と違う文字を使っていたからな『スティリア』の文字はまだ勉強中だがお前の息子より文字が書けるぞ」
「文字が書けるって…、丁寧な言葉遣いなのも驚いたが頭も良いとか本当にお前の娘か!?」
イアソンは例え元17歳でも『スティリア』で客人相手に丁寧な言葉遣いと凛とした態度の女性は富裕層の令嬢でもない限りまずいない。
それでいて文字の覚えが自分の息子より良いことにエイリのスキル能力抜きでイアソンは驚いていた。
「エイリは俺やイアソンと違って学がある。ニホンではエイリが使う言葉遣いなんかはギムキョーイクとやらで平民が通う学校で習うらしい」
フンッとルエンはだからお前達の子供とは出来が違うといわんばかりに言った。
「結局お前もうちの子自慢するんじゃねぇか!」
と結局は愛娘を自慢するルエンの言葉を聞いてザンザスは突っ込むのだった…。
「まぁうちの子自慢はこれくらいにしてそろそろ本題を話さなきゃな…。ルエン、アビリオから聞いたが『アレ』をまた使えるようになったのは本当なのか?」
3人が団長室に集まった真の目的はうちの子自慢ではない。
ルエンの能力の件に関しての話し合いだった。
ザンザスがいう『アレ』とはルエンがオークに放った青い炎のことだろう。
ルエンの放つ青い炎は『煉獄のロウ』と呼ばれていた魔脈調律の旅をしていた頃は強敵を焼き払うのに良く使用されていたものだ。
「何故また使えるようになったのか分からんが連続で使うのは無理そうだ」
以前であれば連続で使用することが出来たがたった一回使っただけでも体力と魔力の消耗が激しい。
オークは魔法攻撃に弱いのでこの炎があればオーク討伐が円滑に進む。
ルエンはオーク討伐の際にでも加減をして連続で炎が放てるか実戦で訓練していくつもりだという。
ただ問題もある。
アビリオと一緒に駆けつけた男達から何故ルエンが炎魔法を使えるのかと診療所から出た後に質問責めにあった。
その場では普段は酷く疲れるから使わないがオークを大量に討伐するためにやむなく使ったと答えたが炎魔法をルエンが使えることがもう町中に広まっているだろう。
「お前が『煉獄のロウ』だとバレないと良いがな…」
『煉獄のロウ』の特徴は紅いトカゲが描かれた黒い羽織り、刀に青い炎を纏わせたり炎を放つ刀技を使う、炎の精霊と契約したヤヌワだ。
通常『スティリア』にいる魔法剣士というのは剣を持っていない方の手から魔法を放つのだが武器に属性魔法を纏わせられる者は『煉獄のロウ』と『薄氷のアビリオ』の2人だけである。
『煉獄のロウ』の顔は羽織りについたフードをハーセリアの王都から逃亡していた頃から深く被っていることが多かったのでザンザスと違い素顔が知られていない英雄ではあるが他の特徴でバレてしまう可能性が高かった。
炎を使っている瞬間を住民達に目撃されていないのが幸いだったがルエンの正体がバレてしまったら連れているラメルの血も引いていた娘が『愛し子』との間に生まれた娘だということも知られてしまう。
炎を纏わせた刀技を使えること知られないようルエンの正体を知っている者だけでうまくバランスを調整してオーク討伐チームを分けることに決まった。
「それにしてもなんで今になってまた使えるようになったんだろうな?」
イアソンが言った。
フィリルルが死んでから使いたくとも使えなくなっていた能力。
ルエンだけでなく契約精霊シンクも原因をがよく分かっていないようだった。
そもそも魔法を纏わせた刀技を使えるようになったのは昔ルエンが暴走した炎の精霊からフィリルルを助けた後フィリルルの師、アルフレッドの計らいでフィリルル専属の護衛となり半年経った頃だった。
魔法使いに不向きな種族ヤヌワのルエンには普通の魔法剣士のような片手で魔法を使うことが出来なかった。
フィリルルを守りたいという想いで鍛錬を積み、契約精霊との絆が強まったことで武器に魔法を付加して使えるようになっていたのだ。
ーそれがまた使えるようになったのはエイリを守らねばという思いからだったのだろうか…。
ルエンにとってエイリは妻の忘れ形見であり彼の生きる希望。
ハーセリアの孤児院でエイリを引き取ってから2ヶ月経ちその頃と比べれば少々背丈も伸び瞳の色も茶色、灰色から大分薄く青みかかった色に変化してきていた。
あと少しでエイリの瞳の色がフィリルルと似た空色の瞳になるだろうとルエンは予想していた。
「お菓子ができたのでもってきましたー」
とエイリが幼児らしい可愛い声で作っていたお菓子を団長室の扉の前に持ってきたので3人の父親会議は中断した。
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