自動

雨木良

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自動

「今回で何人目だ?」

「もう7人目ですよ、たったひと月のうちに。」

一般企業で働く先輩後輩の関係にあたる20代の男性二人は、トイレで用を足しながら会話をしていた。

「あれだっけ?」

先輩にあたるタカシが、用を足しながら、顎で斜め後ろの個室を差した。

「いや、その奥の、一番奥の個室っすよ。」

後輩にあたるユウタが指を差しながら答えた。

「15年以上前の話なんだろ?何で今になって。」

「…さぁ、半年前にこの建物いじったのと関係するんですかね?」

「あぁ、空調設備だとか、照明設備を自動設定のやつに替えたんだったな。結構な金使ったらしいぞ。てかさ、そんな設備よりも建物自体を建て直せよって感じだよな。築60年は経ってるみたいだぞ、このビル。」

二人きりだったトイレに50代の男性が入ってきた。

「そんな金あるわけないだろ。」

会話に夢中だった二人はその男性を見て驚いた。

「あ、総務部長。…聞こえてました?いや、耐震とかが…心配…かなって…。」

二人は頭を下げて簡単に手を洗い、そそくさとトイレから出ていった。

部長は不機嫌そうに、奥から二番目の個室に入り、ズボンと下着をを下ろして便器に腰かけた。

しばらくじっと用を足していると、

パチンッ。
トイレ内の照明が落ち、暗闇に包まれた。

部長は舌打ちをして、便器に座りながら身体を左右に揺らした。

パチンッ。
再び照明が点いた。

「感知システムを入れると、便がしづらいな。」

部長が不機嫌そうに呟いた。


トイレから飛び出した二人は、執務室に向かって廊下を歩いていた。

「あぁ、びっくりした。まさか総務部長が来るとは。」

「でも、先輩の言うとおりですよ。エコのために照明を感知式に変えたり、24時間温度を一定に保つために自動空調システムを入れたり、そんなことより地震に耐えられる建物にする方が先ですよね。」

「まぁ、耐震ってのは咄嗟に出た言葉だけどよ。…あ、さっきの続きだけどよ、ひと月で7人って、やっぱり相当だな。」

「そうっすよね。夏にも5人くらい連続で辞めていきましたからね、警備員。」

「…あれだな、秋は特に無かったんだな。真夏と今の真冬だけ、夜の警備員が見たってことか。」

「…言われてみればそうですね。…警備員たち、急に辞めてっちゃうから、まともに話を聞けてないみたいなんですよ。」

「ふーん。…今晩見てみるか…俺たちで。」

「え!?嫌ですよ!」

ユウタは、全力で首を横に振った。

「お前、この前のプレゼン、誰のおかげで成功したと思ってんだ?」

「……うー、…わかりましたよ。」


ー 深夜1時 ー

二人はトイレに向かって薄暗い廊下を歩いていた。

「さ、流石に夜中は自動照明も切ってんのかね。」

「…不気味っすね。」

長い廊下には消火栓の赤いランプが点々と光るのみで、二人は懐中電灯を握りしめながら歩いていた。

「…先輩、例のトイレ使ったことあります?」

「…な、何だよ急に。」

「僕一回あるんですよ。まだ噂を知る前でしたけど。」

「…ふーん、それで?」

「特に恐怖みたいなのは感じなかったんですけどね、その…違和感ってゆーか…。」

「違和感?」

「何かに当たる感触があったんですよ。」

「…どういう意味だ?」

「なにも無い空間なのに、身体が何かに触れた感触があったんです。固くもなく柔らかくもない何かに…。それに、あの個室だけ空調が直に当たって夏なのに寒くて…。」

「…何かに触れた…か。…って、おい見ろ!!」

タカシは例の個室があるトイレを指差した。

誰もいないはずのトイレには、こうこうと明かりが点いていた。

「え?なんで電気が…。」

怯えた様子のユウタを見て、タカシが一歩前に出て、ゆっくり歩き始めた。

「なぁに、きっと当番の警備員が小便でもしてるんだろ。それに…。」

パチンッ。
急にトイレの照明が消え、暗闇に包まれた。

「ちょ、先輩、やばいんじゃ。」

「…あれぇ、誰もいない…のか。」

二人は恐る恐るトイレに近づいた。

パチンッ。
またトイレの照明が点灯した。

「ひぃ!!」

ユウタは怖じ気づいて一歩下がって震えだした。

「…お前はそこにいろ。お、俺が見てきてやる。」

タカシはそう言うと、ゆっくりとトイレの中に足を踏み入れた。

自分でも膝が震えているのが分かったが、もう戻るわけにもいかず、ゆっくりと一番奥の個室を目指して歩みを進めた。

恐怖心を駆り立てる手洗い場の鏡は見ないように視線をずらし、ゆっくりと一番奥の個室の前へとたどり着いた。

真冬だが、自動空調が作動しているため寒さを感じはしなかったが、別の寒さを個室の扉から感じていた。

タカシは、ゆっくりと扉に手を掛けた。

自分でも呼吸が荒くなっているのが分かるくらい、心は恐怖で支配されていた。

開けたいのに手が動かなかった。

気持ちを落ち着かせるため、そのまましばらく固まっていると、

パチンッ。
トイレ内の照明が落ちた。

「先輩!?」

トイレの外から、心配したユウタが声を掛けた。

タカシは、暗闇という更なる恐怖で動けなかった。

パチンッ。
再び照明が灯った。

「…え?俺、動いてないのに…。」

パニックになったタカシは、そのまま扉を思いっきり開けた。

すると、目の前には天井の配管からロープを垂らし、首を吊った状態の中年の男性の姿があった。

「う、うわぁぁぁあああっ!!」

タカシはあまりの衝撃に、声にならない悲鳴をあげ、その場に尻もちをついた。

「せ、先輩!?」

ユウタは慌ててタカシに駆け寄った。

「どうしたんですか!?」

ユウタの問い掛けに、タカシは言葉が出ず、個室を指差し続けた。

ユウタはタカシの指差した方を見た。




「ねぇ、あの話聞いた?」

「聞いた聞いた。営業課の若い二人、急に会社辞めちゃったんでしょ。」

「そう、見ちゃったんだって。例の首吊りした霊を。」

「あれでしょ?男性トイレの一番奥の個室。もう何年も前に、役職者があそこで首吊り自殺したって。何かさ、夜中に勝手にトイレの電気が点くって聞いたんだけど。」

「そうそう。自殺した深夜になると姿を現すらしいんだけど、温度調節のために定期的に出てくる空調の風でその死体が揺れるんだって!特に真夏や真冬は空調の風も強めだから死体の揺れも大きいって話。」

「あ、それで、電気が点くんだ!」



霊は自分を見つけて欲しがっている。

今回の霊は、自動設備を利用して、人を呼び寄せていたのかもしれない。
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