婚約者をNTRれた皇太子をNTRたい

りんごちゃん

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 最近の私は機嫌がいい。初めて友達ができたからかもしれない。鈴木の本名は鈴木達夫って言うんだけど、男らしい名前が嫌だというので、リンと呼んでる。あっちはティティ。私の本名いったら貴族で、しかも皇太子の婚約者ってバレる可能性あるじゃない? だからティティと呼んでもらうことにした。
 リンは美味しいものたくさん作ってくれるから本当いいやつ。試食という名のタダメシは最高だわ。

「お嬢様。皇太子殿下からお手紙が届いております」
「なんて?」
「……今日、ここにくると」
「なんですって!」

 ベッドでゴロゴロしてる場合じゃない!
 すぐさまベッドから立ち上がり、マーズから手紙を受け取る。
 ふんふん、たしかに今日来るって書いてあるわね。
 わけがわからない。今までこんなことなかったのに。家に来るにしても、必ず数日前に連絡をくださるのが基本だった。
 たしかにここ数日は連絡が来ても、体調が悪いのごめんね、みたいな返信で家には来させなかったけど。

 ……あら? そういえば皇太子に最後に会ったのっていつだっけ……。
 夜会のあとに数回会って、そのあとジャポンに行って、リンと親友になって、そのあと一回は会ったわね……。そのあともカーシェ様とのお茶会で何度か登城したけど、皇太子には会ってない。何回かお誘いが会った時は体調が悪いのごめんね、だったし。
 ふむ……。一ヶ月は会ってないや。

「私が悪いのね……」

 放置プレイってやつね、これ。
 ちょっと反省した。

「マーズ、まずはお母様にユージン様がこちらへいらっしゃることを伝えて。あとは、そうね。執事長とメイド長にロビーを念入りに掃除して花を生けるようにと。ユージン様が散々送ってくださったヒマワリがあるでしょう? それも生けてね」
「はい、かしこまりました」

 皇太子、何故かいろんなものをたくさんを贈ってくる。ヒマワリもたくさんあって嬉しいんだけどね。枯れたヒマワリの種はちゃんと美味しくいただいてます。
 これだからヒマワリって好き。見て楽しんで、味わっても楽しめる。菊も好きよ。でも、菊ってお葬式のイメージが強すぎて、ヒマワリほど好きじゃない。
 花だけじゃなくて、装飾品なんかもたまに贈られてくるのよね。でも、高価過ぎてちょっと気が引けるし、なによりタイプじゃないからそれは送り返してる。だって大抵ゴテゴテキラキラなんだもの。私が好きなのはちっちゃいキラキラなの。でかい宝石って成金みたいで好きじゃない。小さいのがキラキラしてるのが好き。
 さすがにタイプじゃないからいりませんとはいえないから、気持ちは嬉しいけど高価すぎるので気が引けます、お気持ちだけで結構です、って送り返してる。送り返してる時点で失礼? いいのよ。だって着けないものを持ってたって仕方ないし、私は控えめ令嬢ってことになってるんだもの。問題なんてないわ。
 それなのに贈ってくる皇太子は本当めげないなぁって思う。

 さて、と。皇太子が来る準備はお母様に丸投げしたし、私はもうなにもやることはないわね。
 よし、寝よう。
 だって、私は体調が悪いんだもーん。



「アスティ、起きなさい」
「んにゃ……ゃーん……」
「殿下がいらしてるのよ。準備なさい」
「あたまいたいので……」
「もうっ! そんなこと言ってるとここに連れてきちゃうわよ!」
「ゃーん……」

 寝ぼけ頭で起き上がる。眠い。寝起きはダメだ。そのまま毛布の中に潜りたい。
 頭痛いって言ったのに。お母様の鬼。悪魔。

「マリアン、やっちゃって」
「はい、奥様」

 お母様付きの筆頭メイドのマリアンが私を無理矢理立ち上がらせる。両脇にもお母様付きのメイドたちが控えていて、テキパキと私の寝間着を脱がせ、コルセットを着け、ドレスを着せていく。相変わらず器用だ。
 すべての準備が終える頃には私も目が覚めてきた。

「お母様、頭痛いのですけど」
「いつもそうでしょ。今日一日くらい我慢して」
「……わかりました」

 私のお母様は見た目儚げ妖精に対して、中身は根性論のスパルタだ。ギャップ萌え好きの私でも、さすがにお母様は見た目のままの性格でも良かったと思う。
 基本は私を甘やかしてくれるんだけどね。体調が悪いって言ったら大抵休ませてくれるし。じゃあどこがスパルタかって? ダンスのレッスンのときは地獄でした。体調が悪いって言っても容赦なしでした。メリハリがついてていいんだけど、つらかった……。

「アスティ、久しぶりだね」
「ユージン様」

 リビングに着くと皇太子がくつろいでた。
 最後に会ってからまだ一ヶ月しか経ってないから久しぶりではない気がする……。なんだろう、なんか圧力を感じる? 気のせい? 気のせいよね。皇太子みたいななよなよ系が圧力なんてかけられるはずもないもの。

「ここのところずっと体調を崩してたから心配で、つい来てしまった。迷惑だったかな?」
「まさか。ユージン様に心配していただけて嬉しいですわ」
「そう。それならよかった」

 はにかみ皇太子の顔に癒された。思わず私も笑みが浮かぶ。
 やっぱり皇太子は絶世の美男子だわぁ。尊い。神様ありがとう。この顔大好き。

「ねぇ、アスティ。アスティの部屋に行ってみたいな。行ったことないし」

 皇太子の顔に癒されていると、突然皇太子が突拍子もないことを言った。
 今の幻聴? そう思うくらいには驚くことだ。
 だって、この国では未婚の女性の部屋に男性が入ることはあまりいいことだとされてない。私の部屋にはお父様でも入ったことがないのに。それは私が入れないだけなんだけど。
 皇太子がそんなことを知らないはずもないし、びっくり。
 婚約者が入るのは問題ない。私の元の婚約者もたまーに入ってたし。だからといってなにもないけど。もちろん部屋の中で二人きりなんてありえないし。マーズがちゃんといたわよ。
 でも、それは正式な婚約者だからであって、お互い恋愛感情がないのにそれは推奨されるべきことなんだろうか。
 うーん……。まあ、いっか。見られて困るようなこともないし。皇太子がそれだけ私との婚約を前向きに考えてるってことよね。

「ええ。案内しますわ」
「ありがとう。少し、大事な話があるんだ」
「それなら外のほうがいいのでは?」
「ううん。アスティの部屋に行ってみたい」

 あ、なんか駄々っ子みたいな皇太子にキュンッとした。かわいい。
 お母様には遠慮してもらって、マーズを連れて皇太子を案内する。
 一応マーズには火傷跡が隠れるような手袋をしてもらってるんだけど、好きじゃないのよね、手袋。マーズの火傷跡は見えるから美しいのよ。高貴な方々に見られたら非難されるのはわかってるんだけどー。

「ここがわたくしの部屋ですわ。あまり面白みのない部屋でしょう?」

 私の部屋は二階の一番奥にある。お母様とお父様はその反対側の奥。
 ごちゃごちゃしてるのは好きじゃないから極端に物が少ない部屋になってる。たぶん令嬢としては間違ってるけど、これでいいの。たくさん物が置いてあったらゴロゴロできないし。

「あ、わたくしの部屋は普通の靴は禁止ですので、この靴を履いてください」
「これは部屋用の靴?」
「ええ。床が汚れるのが嫌で特別に作らせましたの」

 そして私の部屋は改造済みで、玄関のように段差があって、スリッパもどきも置いてある。やっぱり前世の記憶からか、土足って許せなかったの。
 あとたまに床でゴロゴロするのに土足厳禁にしないと汚いじゃない。
 皇太子にスリッパもどきを差し出して、部屋の中へと招く。

「アスティは綺麗好きなんだね」
「そんなことありませんわ。ただ汚れたらその分掃除が大変になるでしょう? ものぐさなだけですわ」
「そうなの? でもこれはたしかにいいね。私とアスティの部屋ができたら、その部屋もこういうようにしようか」

 物珍しそうに部屋を見渡す皇太子にちょっとソワソワしながら受け答えする。私と皇太子の部屋。なんだかその言葉に一層ソワソワした。
 でも絶対に悟られないように笑みを浮かべる。
 なんか悔しいじゃない。負けないわよ、私。

「その、話なんだけど、アスティはどんな宝石なら好きなの?」

 皇太子は私の部屋のクローゼットの縁をなぞりながら呟く。
 大事な話ってそれなの? なんだ。もっと重大なことかと思ったわ。ドルテラとかドルテラとかドルテラとか。そっち関係の。

「アスティはどんな宝石を贈っても返してくるから。あれ、結構傷付くんだよ?」
「そ、それは申し訳ありません」
「謝らなくていいよ。私がアスティの好みがわからないせいだから。アスティはどんなものなら受け取ってくれるのかな?」

 うっと言葉に詰まる。正直なところ、宝石を贈られても困る。だって着けていくところないし。
 皇太子の婚約者になってからお茶会のお誘いはひっきりなしにあるけど、私が行くのは今までも交流があった人と、よほど行っておかないとまずい人だけだし。あとはお母様の判断。極力は行かない。
 だから宝石を贈られても既存のもので済むのよね。
 どうせ贈ってもらえるなら、現金で、自分で宝石を買いに行ったほうがよほどいいわ。無駄がない。

「アスティが彼女と違うことはわかってるのに、君のことがわからなくて彼女と似たようなものを贈ってしまってる自分が情けない……」
「………かわいい」
「えっ?」

 しょぼくれた皇太子がとってもとってもかわいいわ! どうしよう! しゅんとうなだれた犬耳が見える! 頭わしゃわしゃしたい!
 荒ぶる心を落ち着かせるように息を吐いて、皇太子の手を握る。もちろん手袋越しに。

「ユージン様、わたくしのことが知りたいのなら今度一緒にお出かけしましょう?」
「出掛ける?」
「ええ。貴族街でのお出かけならいいでしょう? そのとき宝石商にも行ってわたくしの装飾品を一緒に選んでくださいませ」

 ちゃんと前もって何日も前から予定を決めておけば、私もドタキャンなんてしない。しない。しないわ、きっと。しないわ、たぶん。
 それに今の皇太子はとってもかわいいから、ぜひ近くでずっと見つめてたい。

「でもね、ユージン様。わたくし、本当に宝石などの贈り物はいいのですよ。そんなもののためにあなたと婚約したわけじゃないのですから」

 それに宝石とか欲しくなったら、皇妃になってから買い込むから。皇妃になって贅沢三昧の引きこもりの優雅な暮らし。
 この国の皇妃って子供を産むことだけが仕事! みたいなところあるから。慰問とかも多少はあるけど、それも年に何度かで日も決まってる。それ以外は好きなことだけしてていいんだもの。
 宝石なんて些細な問題。早く結婚したいなぁ。

「アスティは欲がないね」
「まあ。欲ならたくさんありますわ」

 今は上手に隠してるだけですわ。
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