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 なかなか豪華な家ねぇ。ちょっときらびやか過ぎて、私は落ち着かないかも。
 ちなみにここはルマンド公爵の別宅。別宅っていうのがちょっと不安だったけど、ルマンド公爵の所有のものだし、まさかそんなところでドルテラも危険な真似をしないと思ったからこうして乗り込んだ。
 ちなみに家のことはサタンが調べました。さすが私の秘密兵器よね。

「じゃあ帰りもよろしくね」
「はい、お嬢様」

 御者に微笑んでそう言うと家の扉が開く。

「いらしてくださりありがとう、アスティ様」
「お招きいただき感謝いたしますわ、ドルテラ様」

 階段の上から見下ろされてそう言われたけど、負けないわ。ドルテラを見上げながらも胸を張って笑みを浮かべる。
 顔の良さだったら私負けてないわよ。ドルテラも綺麗だとは思うけど、私には勝てないわね。だって私にはマーズやキュリーがいるのよ? あの二人に美肌ケアされてる私には勝てるわけないわ。ユージンの美しさは人外だから同じ土俵に上げないで。

「とても素敵な家ですのね」
「ありがとう。父はあまり好まないようだけどね。わたくしのお気に入りなの」

 家の中を案内されながら、そんな会話をする。
 それにしてもこの方本当にドルテラなの? いや、顔はそうだけど。
 夜会のときに私の頬を傷付けたときとはえらい違いだわ。もっと高慢ちきで過激な人間ってイメージだったのだけど。何かあったのかしら。
 何があっても私には関係ないけど、気になるわ。これが野次馬根性。
 気になるだけで訊きはしないのだけど。

「バルコニーでお茶会をしようと思って。ここからなら庭がよく見えるのよ」
「まあ、綺麗」

 薔薇ばっか。
 薔薇の匂いが充満して、紅茶の匂いが分からなくなりそう。飲まないけど、香りぐらい楽しみたかったのに。
 ドルテラに案内されたバルコニーから見える薔薇園。様々な色の薔薇があるけど、中でも多いのは赤い薔薇。
 そういえばユージンの贈り物の花の中には赤い薔薇が多かったわね。私がヒマワリが好きだと言ってからヒマワリが多くなって、薔薇は一度も贈られてないけど。
 薔薇って嫌いじゃないけど、好きでもない。
 だって棘があるし、匂いがキツいんだもの。柑橘系の爽やかな匂いが好きな私としては、薔薇の匂いは強過ぎてあまり好きになれない。

「他の方はいらっしゃらないの?」
「ええ。わたくしと、あなた。二人だけのお茶会よ」

 やだー。超怖いー。
 にんまりと怪しく笑ったドルテラに、優雅な笑みを返しながらも、嫌な予感に内心ため息を吐く。
 本当に、何事もないといいけど。
 マーズとキュリーにあんな大きく言った手前、変なことになったら心配をかけるわ。

「では、始めましょう?」

 ドルテラのその言葉と同時に、お茶会が始まった。


「そういえばユージンは……あら、またね。つい昔からの癖でそう呼んじゃうわ」
「癖はなかなか直らないと言いますものね。けれど、早く直したほうがよろしいと思いますわ。ユージンはもうすぐこの国一番の尊い方になられますもの。軽々しく名前をお呼びになられては、不敬罪と取られてしまいますわ」

 お茶会という名の嫌味の応酬。
 ユージンとの思い出話とか興味ないわよ! ていうか大体知ってるわよ! ユージンに何回も聞かされたわ。あの頃を思い出すと、なんだか腹が立つわね。ユージンの顔面を殴りたい気持ちになる。大切な顔なのにね。

「うふふ。そうね。けれど優しい彼のことだもの。わたくしのことは許してくれるわ」

 にっこりと笑い合う。湧き上がる殺意。
 ユージンのことだ。そりゃあ許すだろう。周りは別として、ユージンは許す。だって優しいもの。初恋の彼女のことなら、ある程度許すに違いない。
 くっ、ムカつくわ。腹立つわ。心臓がギュッとするわー。

「そうね。ユージンはとても優しいもの。先日もわたくしに高価なドレスを贈ってくださったの。そんなの贈ってくれなくても、わたくしはユージンのこと愛してるのに……。でも、贈り物って愛されてるって実感ができていいものですね」

 女性に自分の色のものを贈るのは男性の独占欲の表れ。私の着ていたドレスの色には気付いてただろうけど、それがユージンから贈られたものだとは思わなかっただろう。
 だってこの女、まだ自分がユージンに愛されてるって思ってるもの。
 今さらなのよ。ユージンは私のものなのよ。
 手触りのいい絹のドレスをなぞりながら、幸せいっぱいです、とでも言うように微笑んでみせる。私の笑みに悔しそうに顔を歪ませるドルテラ。勝った。優勝だわ、私。
 ドルテラの大好きなキモオタにはそんな甲斐性なさそうだもの。男からの贈り物って大事なのにね。キモオタのことだから、貰ってばかりで女性に贈り物なんてしたことないんじゃないかしら。ざまぁ。

「アスティ様はユージン……殿下のことを愛してらっしゃるの? 本当に?」
「ええ、もちろん。わたくしもユージンも、真実の愛に目覚めたと思ってますの」

 真実の愛、という言葉にドルテラが目を見開く。
 ええ、そうよね、驚くわよね。あなたがユージンを振るときに使った言葉だもの。

「いつもユージンはわたくしを気遣ってくださってくださるの。甘い言葉をくださって、けれど優しいだけじゃないときもあって……。まるで愛の激しさに身が焼かれそうです」

 きゃっ、と頬を染める。
 どうせドルテラには私が夜中にユージンの部屋に行ったことはバレてるだろう。それならここまで話しても問題ない。話もぼかしてるから、大丈夫。
 あら、悔しそうな顔が隠れてないわ。そろそろ潮時かしら。時間もちょうどいいわね。

「ところで、ドルテラ様。ユージンの大切なものを返していただけますか?」
「──ああ、そうだったわね」

 忘れられたら困る。私の目的はそれなんだから。

「ねぇ、ユージンの大切なものってなんだと思う?」
「……? 知りませんわ。どうしてそんなことお聞きになりますの?」

 訝しげに眉をあげながらドルテラを見つめる。
 わけがわからない。ユージンの大切なものなんて検討がつかない。民とか? でも、返すって言うくらいだから物よねぇ。というかなんでそんなこと聞くのよ。

「わたくしも知らないのよ」
「え?」
「だって、あの手紙をわたくしに書けと命じたのはショータ様なんですもの」
「っ、やっ!」

 やばい、と思った瞬間に、後ろから太い丸太のような腕が私の口元を塞いだ。
 ふわりと香る甘い匂い。

「ぐふふ、アスティちゃん、つーかーまーえーたー」

 ねっとりと気持ち悪い声が最後に聞いたものだった。
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