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閃光のアンリシャ・ルーテ

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しかし、魔法使いは負けず嫌いだった。おとなしく屈服するのが、死ぬほどいやだったらしい。賢者なら、もう諦めていた状況だったのに、喉の奥から飛び出て来た触手に、負けるものかと歯を立てて俺の触手を噛み千切ろうと最後の力を絞り出した。
けれど、それはゴムよりも強靭で柔軟で彼女のあごの力で食いちぎられるほどやわではなかった。普通の人間の男根なら十分に噛み千切られていただろう、それほど死に物狂いの噛みつきだった。人間も元々は野生動物であり、そのあごには獲物を捕らえたり肉を引きちぎったりする力が潜在しているのだが、それでも俺の触手には無駄な攻撃だった。かなり彼女の歯が食い込んだが痛みはなかった。痛くもかゆくもないというやつだ。無理に噛み千切ろうとしたことで、内臓を這う触手が、余計に蠢いて、彼女を内側からかき回すように刺激した。苦痛はない。むしろ逆だ。蛇のようにうねうねする感触が、快感として彼女の背筋を走る。もし、俺の粘液を飲んでいなければ、内臓を這う触手の痛みに苦悶するはずだが、本当に痛みはなく、魔法使いも賢者と同じように俺の粘液の効能に抗えず結局抵抗が弱まる。
「あ、あぁぁ、あう、な、なかに、ひぐ、ひや、ぁ、ぁ、だめ・・・」
噛みつくという最後の意地を見せただけ、賢者よりは戦う意志は強いようだが、それだけだった。そして、止めとして、魔法使いの膣穴にもヌブリと触手をねじり込んだ。
「ひぐっ、ぁ、ぁぁ。ひぃ・・・」
ビクンと大きく震えて、人形のようにだらんとする。こみ上げてくる快感につい涙がこぼれ、さらに膀胱が緩んだのか、魔法使いはダラダラとお漏らしをはじめた。恥ずかしさより、おもらしの解放感が気持ちいいというような表情をしている。
滴る黄金水の音が聞かれるかと焦ったが、残りの二人はズンズン先に進んでいて、魔法使いや賢者が付いて来ていないのに気づかず奥に消えた。
『素晴らしいチートな触手を、どうもありがとうございます、邪神様』と俺は、だらりとしている魔法使いを触手で抱えながら、内心で神に感謝した。
邪神様に感謝すると、魔法使いも賢者のいる部屋に運び、二人を、その部屋に待たせて、次の獲物へと向かった。
勇者と女戦士に近付くと、するとさすがに、立ち止まって、仲間がいなくなったことに驚いて口論している声がした。
「たく、何やってるのよ」
「何って、そっちがどんどん先に進むから後ろを気にしてる暇がなかったんだって」
「私のせいだって、言いたいの?」
まだ俺の触手を味わっていない二人が言い争う声が、チートな俺の耳に届いた。
魔法使いと賢者が俺の触手に犯されて、すでに心を折られ戦意喪失して、呆けているなんて想像もしていないようだ。
時間が経って落ち着けば、心も回復して、賢者たちも俺に反撃を考えるかもしれないが、俺の粘液が体に染み込みその効果が残っているような状態では、思考もままならないように見えたので、彼女たちは拘束ぜず、ただ放置した。つまり、大声を叫んで俺のことを賢者たちは勇者に伝えることができたのだが、それはしなかった。むしろ逆に、頭の片隅で、残りの二人にもこの素晴らしい快感を味合わせてあげないと可哀そうじゃないかとさえ考えていた。

ふたりがそんなことになっているとはしらず閃光の名を冠する女戦士は、周囲を警戒しつつつ、賢者たちの姿を求めてキョロキョロしていた。勇者と口げんかすよりも、早く二人を見つけないといけないと全身神経を集中している。
武人の家に生まれ、幼き頃より武芸を叩き込まれ、父が戦死して、兵員不足を補うために父の代わりに戦場に出て、その電のごとき鋭角な槍さばきで武勲を上げて、勇者一行に加わった。
だから修羅場の数は、勇者以上にくぐっていた。後方の賢者と魔法使いがいなくなり、槍を強く握り身構えている。それは近接戦もできる短槍だった。剣も扱えるが、短槍の方が体になじんでいた。
「くそ・・・」
近くに二人の気配は感じない。ので、ジッとしていられなくなった槍使いは賢者と魔法使いの姿を求め来た道を逆走した。勇者も慌てて駆け出した。
「ちょ、待って」
足音で二人が来た道を戻ってくるのを聞き取り、俺は天井に張り付いたままで様子を探った。
ただ逆走するだけで、どんな敵が潜んでいるか考えていないようだった。
このままだと戻ってくる槍使いの女戦士と勇者の二人と鉢合わせで戦闘だ。いくら天井に張り付いて息を殺しても殺気立っている彼女たちが俺を見逃すとは思えない。だが、俺の触手は、タコのように体の色を変えられるらしく、その保護色で無意識に天井の一部に擬態していた。
俺は逆走してくる彼女たちを待ち構えながら天井にべったり張り付きながら気づかれないように天井や壁伝いににゅるっと触手を伸ばし始めた。彼女たちの足音の方へ保護色で壁に同化した触手たちをぐんぐん伸ばして、ついには、逆走してきた彼女たちと触手たちが入れ違う。冷静さを欠いていた彼女たちは、壁を這う俺の触手たちをただの壁の模様に感じて擬態と気づいていないようだ。俺が張り巡らした触手の網の中に自分から飛び込んできたようなものだった。
しかも、自分でもおどろくほど、触手は伸びた。また、伸ばした分だけ細くなるということもないようだ。しっかり、一本一本の感触があった。
俺は、伸ばした触手を勇者の背後に回してトントンと勇者の肩を叩いた。
ハッとして勇者が振り替えるがスッと触手を引っ込めるので誰もいない。女戦士が急に立ち止まった勇者を怪訝に思い彼女も足を止めた。そこで、上からスッと伸ばして触手で女戦士の肩も叩く。
「誰!」
思わず声を出してしまうが、振り返ってもやはり誰もいない。俺は天上に飾りのようにピッタリと張り付いていた。
「なに?」
「くそ、だれだっ! こそこそ隠れず出て来い」
そうやって、肩をたたかれて振り返っても誰もいないというイタズラを、天上から伸ばした触手で何度か繰り返して、ふたりの神経を逆なでした。どうも勇者と女戦士は脳筋タイプらしく、頭上に擬態化した敵がいると察する繊細さはないようだ。
槍使いの女戦士はいらいらして、つい我慢できずバッと近くのドアを開けて飛び込んで叫んだ。
「誰だ、出て来い!」
俺はチャンスと判断して、戦士の頭を飛び越えて、触手でバタンと戸を閉じて押さえた。
無数に触手があるというのは本当に便利だ。戸を抑えるのに数本使っても槍使いへの攻撃用に十分余裕がある。戸をふさいだので、今、この部屋で女戦士と一対一だ。
「開けなさい」
外で勇者がそう叫んでいるのが聞こえたが、当然、開けるわけがない。しかも、邪神様の神殿の戸は古くても頑丈で、外で勇者がこじ開けそうと騒いでいるのが聞こえたが、破られそうにない。もしかしたら、この神殿全体に邪神様の加護があり、俺の味方をしてくれているのかもしれない。
「なんだお前は」
彼女は、戸を塞ぐ触手だらけのバケモノを誰何した。
「魔王の娘の味方でね。つまり、お前の敵だよ」
俺は触手を部屋全体に伸ばし、外へと通じる戸を塞ぎ、天上も壁も床も俺の触手で満たした。
エロゲのイベントCGで、触手だらけの空間は見たことあるが、実際に、床や天井を覆うように無数の触手を伸ばした光景はなかなかキモイ。しかも、その触手一本一本が、俺の意志で動かせるのだ。
そうして、触手で囲まれた室内で、女戦士との戦闘が始まった。
彼女の槍さばきは鋭かったが、俺の触手の方が圧倒的に多い。槍一本対無数の触手だ。
こちらの優位ははっきりしていた。


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