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威力偵察

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「では、今から行きましょうか、陛下」
姫様は、俺の決断を知ると、軽い口調で言った。
「は?」
「私の翼なら、ひとっ飛びであそこに行けますよ」
門の方を指差す。
「いや、いくらなんでも今からなんて・・・」
準備を整えてから行くつもりだった俺は、躊躇した。
「ならば、魔王陛下は、こんな危険なことを誰か他の者に命令なさるおつもりだったのですか」
「いや、やるなら俺が出向くつもりだったけど、準備が・・・」
「我が父も、面倒なことは嫌いでしたが、危険なことを他人任せにすることはありません。先の魔王が亡くなった時、自分があの時魔王城に駆けつけていればと後悔しておられました。それに、即行動しないと王女や黒騎士殿が、陛下には危険だと反対されるかもしれません。ここはみなに気づかれる前に行動を」
「うん、そうだな。確かに」
魔王自ら出向くのはおかしいと引き留めらる可能性はある。
「でも、いいのか。危険だよ」
「はい、平気です。その覚悟がないなら、父と一緒にここを去りました。もしかして、魔王陛下は、私が父と同じように引きこもりたがる臆病者だとお思いですか?」
「いや、そんなことは」
「なら、行きましょう。たまには二人きりで、空の遊覧に」
姫様は何かウキウキするように言った。
「・・・しょうがないな」
そうして、俺と姫様は誰にも気取られないように魔王城を抜け出した。
姫の腰に触手を絡まらせるのは何度目だろうか、俺の重さなど感じないように空高く舞い上がり、地平が見える高高度から滑空するように東の門に一気に向かう。急降下爆撃機と要領は同じだ。目標まで急降下で接近し、爆弾のように俺を人間どもの陣のど真ん中に落とす。
ゴムのように柔軟な触手で衝撃を和らげ、俺は人間たちを驚かした。
「敵襲!! 敵襲!!」
俺の落下に気づいた兵の一人が大声で叫んでいる。
すると慌てて武器を手にした兵士たちが俺を取り囲む。
急なことに驚いて混乱しているが、兵たちの動きは冷静だ。ま、こっちは一匹で、数的に圧倒的な差があるので、混乱が広がらないのだろう。いくらたくさんの触手を持っていても魔物一匹におびえるほど、兵の士気は低くないようだ。人間界から魔界に遠征に来てそれなりに滞在の長い者が多いのだろう。
それに、たかが魔物一匹とタカをくくっているのかもしれない。
俺は十分に兵を集めてから触手を爆発させた。無数の触手たちが四方八方に伸びて兵士たちを吹っ飛ばす。邪神様からの授かりものの触手の使い方にも慣れてきていた。人間より俺の触手の方が圧倒的に強く、人間たちは面白いように触手に薙ぎ払われた。俺はブンブンと触手を振り回したが、勇者たちの槍使いのようにその触手を切り払える者は誰もいなかった。
あれ? こんな烏合の衆、俺一人で全滅できるかもとうぬぼれそうになったとき、触手に痛みがあった。
「ちっ」
勇者たちが出て来たかと思ったが、出て来たのは真紅の赤備えの女騎士だった。その剣で俺の触手を二、三本切り落としていた。それなりの猛者ということだろう。ふと、神官らしき者を遠くに観た。強化の神聖魔法が使える者だろう。魔法使いが少ない分、神聖魔法の使える神官が前線に送られ、能力を魔法で底上げされた赤備えの女騎士が、ここにはいたということらしい。威力偵察の成果だ。
賢者以外に神聖魔法の使い手がいて、俺の触手を斬れる赤備えの猛者がいた。攻撃しなければ分からなかったことだ。
しかし、勇者一行と同じ女性ということは、男性の猛者は、先の戦いで本当にだいぶやられたということなのだろう。討ち取られた先代の魔王も魔王城落城までに、タダではやられず、そこそこ人間の猛者を道連れにし、敗れたのかもしれない。
「これ、しっかりせぬか! 触手の化け物が現れたときはどうするんじゃった!」
赤備えの女騎士の叱咤の声が響くと兵士たちに勢いが戻る。
俺に不用意に近づかず、触手の間合いから離れて盾で俺を囲む。
あの小さな軍師が使った戦法と同じだ。次は矢か。小さな軍師がそばにいるようには思えない、たぶん、要注意の触手生物の備えとしてその戦法が敵に伝わっていたのだろう。
潮時かと思い天空に待機していた姫に合図を送る。
すると姫は急降下してきて、俺は触手を伸ばしその腰にしがみつき、さらに地を這うように下から触手を近づけて赤備えの女騎士を触手で捕まえて矢の雨を避けながら脱出と同時にさらった。
敵の情報を得るためには捕虜を捕らえて、その捕虜から聞き出すというのが古典的だが確実だ。それに、女というのも俺にとっては都合がいい。
威力偵察と情報を聞き出すための捕虜も得たという戦果を上げて俺たちは門から離れた。

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