勇者(ヒーロー)、がんばる

木全伸治

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2号

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「今日まで一人で、良く我らと戦ったと誉めてやろう。だが、それも今日までだ、少し考える時間をくれてやる。我らに降伏するのなら命は助けてやる。降伏しないというなら、その正義の誇りを抱いたまま死ね」
「クッ」
「あと5分だ。賢明な判断を期待する」
「ヒーローが降伏だと、笑わせてくれる、ケッ」
強がってはみたが、メタルスーツのヘルメットは砕け、血だらけの素顔をさらしていた。どんな攻撃さえ受け止めてきた全身のメタル装甲も、ボロボロでガラクタで、逆転の手はない。
少し前の戦闘からメタルスーツの調子は悪かった。彼らとの戦いで丸一年ほど酷使してきたのだから、それも当然だった。博士に新しいバトルスーツを頼んでいたが、間に合わず、敵の幹部を相手に大敗北、ほとんど動けず、敵に降伏を促されている最中だった。
「あと4分」
「あと・・・3分、早くしろ」
「あと2分だぞ、・・・どうした、そんなに死にたいのか」
「チッ、時間切れだな、死ね」
俺は思わず目を閉じたが、止めの一撃は来なかった。逆に敵の幹部が右肩を押さえて蹲っていた。地面には、その幹部の右腕が落ちている。
「間一髪でしたね」
ブルーのメタルスーツを着た男が、いつの間にか俺のそばに立っていた。手には青白く輝く光剣を持っていた。
「貴様、何者だ」
腕を切り落とされた幹部が誰何する。
「二号ですよ、二号。ひとりで苦戦している先輩を助けに来た二号です」
「二号、そんなの聞いてないぞ」
助けられた俺も、本気で困惑していた。
「もしものために用意された予備ですから、博士も、出番のないままで終わって欲しかったと思います。とにかく、こいつら、片付けますね」
突然現れた二号は、俺が苦戦した目の前の敵を五分以内に退治して、俺を救った。二号機は俺の実戦データを基に改良が加えられていたのだから、それも当然だった。
「本当は、あなたが完全にやられてから、出てこようと思ったんですけど、見殺しはヒーローとして目覚めが悪いでしょ?」
「何だよ、はじめは見殺しにする気だったのかよ」
「それが嫌だっていうなら、後輩より強くなってください」
初対面だが、こいつとは気が合わないと思ったが、とりあえず、その場は、助けてもらった礼として、黙っていたが、ネットでの人気をやたらと気にしたりする態度から、後日、俺は二号と対立し、調子の悪かったスーツを自分の力で調整して強化し、後輩をぶっ飛ばしてしまった。
ヒーローとはいえ、こちらも人間であり、誰とでも仲良くできるわけではない。先輩にガツンとやられるとは思っていなかった後輩は、その日から、俺の言うことを素直に聞くようになった。
悪でも正義でも、やっぱり、拳は有効なようだ。








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