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新春かるた対決【前編】
しおりを挟む<実況>
「え~、皆様、明けましておめでとうございます。それでは、只今から、時間戦士杯新年かるた大会を始めたいと思います。私、司会を担当致します、旅館の主人です。本章第10話と第13話に登場しております。この小説は、登場人物が極めて少ないため、私が駆り出されてしまいました。どうぞ宜しくお願い致します。そして……」
「解説を担当させて頂きます、遥か未来の技官であります。本章第14話に登場しております。宜しくお願い申し上げます」
「え~、早速ですが、技官さん。本日は、シフプルチームとメコリチームの頂上対決ということですが」
「そうですね、ご主人」
「シフプル、メコリ。これはどういう意味か分かりますか、技官さん?」
「はい、ご主人。共にヘブライ語です。意味については本章ネタバレとなりますので、残念ながらお教えすることはできません」
「はあ、なるほど。では、まずはシフプルチームの選手紹介です。アミカナ=デフォルマ選手と橘志音選手! 振袖姿のアミカナ選手が美しいですね」
「そうですね、ご主人。後でツーショットをお願いしたいと思います」
「え?! でしたら私もお願いします!」
「分かりました。スリーショットでお願いしてみます」
「続いて、メコリチームの選手紹介です。ミカ=アンダーソン選手と覆面X選手! 技官さん、このX選手は本章に登場しているんですか?」
「はい、ご主人。登場しているのですが、本章ネタバレとなりますので、覆面をつけての登場となります」
「分かりました。シフプルチームの二人については、本章をお読みになった方ならよくご存じの、鉄壁のチームワークが自慢ですね、技官さん?」
「はい、ご主人。アミカナ選手には驚異的な身体能力があります。一方、志音選手には、一度見聞きしたものは忘れないという特殊能力があります。この二人のタッグは、正にかるた取りのために生まれたと言っても過言ではありません」
「え~、対するメコリチームですが、ミカ選手はどうでしょう? アミカナ選手にそっくりではありますが、詳しい情報が手元にはありません、技官さん」
「はい、ご主人。ミカ選手は殆ど本章に登場していないため、能力については未知数となります。ただ、アミカナ選手の姉的存在ですので、シフプルチームは油断できませんね」
「ああ、お姉さんなんですね。道理で似てるわけだ。で、X選手については?」
「はい、ご主人。X選手については本章ネタバレとなりますので、シフプルチームの二人に匹敵するほどの素晴らしい能力を持っている、とだけ申し上げておきます」
「分かりました。なお、優勝チームには、次章の主役権が与えられるそうです。どうですか、技官さん?」
「そうですね、ご主人。シフプルチームにとっては特に嬉しいご褒美ではありませんが、メコリチームにとっては喉から手が出るほど欲しい権利ですね。ミカ選手はまだしも、X選手は一度もフィーチャーされておりませんので」
「なるほど。では、今から両チーム、作戦タイムとなります」
<シフプル陣営>
「首尾はどう?」
頭を寄せてアミカナが聞く。志音は自信ありげに頷いた。
「配置は既に覚えた」
「さすが志音!」
「で、どうする?」
そう言われて、アミカナは袖の中からケーブルを取り出した。
「この臍の緒ケーブルで、こっそり私達を繋ぎましょう。それで思考を共有できる。札が読まれたら、志音は場所をイメージして。後は私が取る!」
「……それ、反則じゃないの?……」
眉を顰める志音を、アミカナは小さく小突いた。
「覆面Xに主役を取られたいの?」
一度対戦陣営に目をやった志音は肩をすくめた。
「別に構わないよ。もともと主役は君だし、そもそも彼は……」
「あー!」
志音の言葉を、大きな声を上げてアミカナは遮った。口の前に人差し指を立てる。
「……それ、言っちゃダメなやつ」
「ああ、ごめん……」
「とにかく、やるからには勝つわよ! ほら!」
アミカナに促されて、志音はケーブルの端を掴んだ。
「……わかった……」
<メコリ陣営>
「首尾はどう?」
頭を寄せてミカが聞く。覆面Xは頷いた。
「配置は全て記憶した。心配なのはアミカナの運動速度だ。俺の強化された肉体でも、限界がある」
ミカは、対戦陣営のアミカナに目をやると、鼻先を指で擦った。
「そうね。戦闘特化型アンドロイドだものね。私はどうすればいい?」
「ミカはアミカナの心を攪乱してくれ。できるか?」
「任せて。彼女は私のコピーだもの。ツボは心得てる」
「よし。彼女の戦意を喪失させれば、志音など敵じゃない。我々にも勝機はある」
「了解!」
ミカが離れると、覆面Xは志音を睨んだ。
「シフプルごときがメコリを超えられないことを教えてやる……」
<実況>
「なお、札を読み上げるのは、本章第18話に登場した『球体の中に響く自動音声』さんになります。これは……人ではありませんよね。本当に登場人物が少ないんですね、技官さん?」
「そうなんです、ご主人。ここにいる6名と自動音声以外、本章で声を発している人はいません。あ、いや、ミカ選手も怪しいですね。彼女がしゃべるのは、本章というよりは……」
「あ、ミカ選手が口の前で人差し指を立ててますよ。言うなってことでしょうか、技官さん?」
「そうですね。あまり厳密に判定すると、誰も参加できなくなりますからね」
「なるほど。では、大会、スタートです!」
<会場>
『論より…』
「はいっ!」
青白い稲妻のように、アミカナの手刀が札を弾いた。風圧で周囲の札が飛び散る。
「は、速い?!」
唖然とする覆面Xに、アミカナは余裕の笑みを見せた。彼女の着物の襟や袖から、湯気が立ち昇る。
「どう? 最初からリミッターは外してあるの」
光を孕んだ青い瞳に、覆面Xはたじろいだ。
遠慮がちに、志音がアミカナの袖を引っ張る。
「何よ?!」
「……他の札を飛ばさないで。場所が分からなくなる……」
志音に耳打ちされて、アミカナは肩をすくめた。
『年寄りの…』
「なら、これはどう?!」
腕を振り上げると、彼女は目当ての札に人差し指と中指を突き当てた。そのまま畳に突き刺す。周囲の札は完全に浮き上がったが、そのまま畳へと着地した。指が突き刺さった畳からは、うっすらと煙が上がる。
「オッケーオッケー」
「……やり過ぎだよ……」
満足げなアミカナの後ろで、志音は頭を抱えた。
危うく手を貫かれそうになっていた覆面Xは、ミカへと目配せした。小さく頷くと、ミカの、こちらも青い瞳が光った。
「……調子に乗るなよ、コピー風情が……」
低い声で、ゆっくりと話す。
「……え……」
驚いて、アミカナはミカを見た。
「……あんたは、自信喪失して、シャワールームでのたうち回っていればいいのよ……」
「……ど……どうしてそれを……しかも、それ、本章では書いてない……」
「そう。断章33よ」
全く意表を突いた指摘に、アミカナはみるみる青ざめた。
「え、何、どうしたの? 何の話?」
志音が会話に入り込んできて、アミカナは慌てた。
「違うの志音! あいつの言葉に惑わされないで!」
ミカは冷酷に微笑む。
「畳に穴を開けるほどの力を持っていても、この女はね、あなたの部屋で……」
「違う! やめてやめて!」
アミカナは頭を抱えて激しく振った。肩を震わせる。
ミカは微かに眉根を寄せた。……ごめんね、アミカナ。でも、私も勝ちたいの。勝って……もっとフィーチャーされたい。この苦しみ、主役のあなたには分からないわよね……
「……アミカナの心が弱いのは知ってるよ……」
くず折れそうな彼女の肩に手を置くと、志音は優しく微笑んだ。ハッとしたアミカナはゆっくりと顔を上げた。彼は、彼女の頬についた細い後れ毛をそっと払う。
「そういうのも全部込みで、僕は君に惹かれたんだ……」
「……志音……」
見つめ合う二人の前で、Xは呟いた。
「……俺は一体、何を見せられているんだ……」
<実況>
「さあ、シフプルチームの圧倒的優位で前半戦が終了しました。ここまでの流れをどう見ますか、技官さん?」
「そうですね、ご主人。ミカ選手のヒール覚悟の精神攻撃が功を奏しませんでした」
「はあ」
「実は、メコリチームにとって、志音選手の存在は両刃の剣となっています。彼に弱さを見せたくないアミカナ選手は、彼が近くにいる時に本心を暴露されることを極端に嫌う訳ですが、同時に、彼の存在が精神安定剤的役割も果たしますので、ダメージを急速に回復できる可能性があります。アミカナ選手への精神攻撃は、非常に高度な技術が要求されます」
「そうですか。では、後半戦もメコリチームの劣勢が続くと、技官さん?」
「はい、その通りです、ご主人」
<会場>
待機席に腰を下ろして、志音はしきりに対戦陣営を気にしていた。
「ねえ、いいのかな? ミカさん、めっちゃ睨んでるけど……」
「いいも何も、勝負だから!」
アミカナはペットボトルの蓋を開けた。
「……だいたい、任務で死ぬのはこっちなのに、コピー、コピーうるさいのよ……」
一気に飲み干すと、彼女の中で警報が鳴った。
『不純物あり! 不純物あり!』
「……何これ? 水じゃない!」
アミカナは思わず胸に手を当てた。焼け付く感覚があった。思わず膝をつく。息が乱れる。指先が震え出した。
彼女の様子の急変に、反対側の待機席で、ミカは高らかに笑った。
「かかったわね! そのボトルの中身は、私がおとそに変えておいたのよ!」
「……くそっ……やられた……」
歯ぎしりしながら、アミカナは床に倒れた。慌てて志音が駆け寄る。
「アミ?! しっかりして!!」
顔を赤くして、彼女は荒い息をついていた。
「志音……私、もうダメ……後は、あなたが頑張って……」
気持ちよさそうに微笑むと、アミカナはがっくりと首を落とした。
「アミ!!」
取り乱した彼が揺さぶると、やがて、アミカナからはいびきが聞こえてきた。
「……え?……」
ミカは憐れむように微笑んだ。
「……感謝しなさい。ようやく眠れたんだから。これでもう、『だから、夜は嫌い』なんてセリフ、吐かなくて済むわ……」
<実況>
「さて、後半戦ですが……おや! シフプルチームは志音選手が前に出ますね。アミカナ選手は志音選手に引きずられているようですが、倒れたまま動きません。これはどういうことでしょう、技官さん?」
「そうですね、ご主人。先程休憩中に、ミカ選手が大声で不正を暴露していましたが、アミカナ選手は、おとそを飲んで機能不全を起こしたようです」
「おやおや。アミカナ選手はお酒に弱いんですかね」
「いえ、ご主人。アミカナ選手は水を燃料とするアンドロイドなので、燃料に不純物が混じるのは致命的です。これは分からなくなってきました」
「と言いますと?」
「アミカナ選手不在の今、志音選手一人で、覆面X選手に太刀打ちできるのか、ということです」
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