俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香

文字の大きさ
1 / 112

1話 突然のテンプレ

しおりを挟む
 ここにひとりの疲れたサラリーマンが居た。

-------

 いつものようにだるい朝、駅へ向かう道を歩く。
 会社、休みてぇぇ。電車止まってくんねぇかな。そんな思いが頭をよぎる。ちょっとした遅延でなく思いっきり止まってくれたら、会社に連絡出来るな。

『電車が止まってるんで今日休みます』
 うん、仕方ないよな?だって止まってるんでんだから。いや待て、あのクソ(上司)の事だから歩いて来いとか言いそうだ。

 ここらは都会と違い、他の路線に乗り換えなんて出来ない。そもそも他の路線が無いからな。
 そうきたら『っかりましたー。行けるとこまで行ってみます』とか言って駅前のマックでダラダラしよう。

 俺の中ではもう電車は止まってる一択なんだが、地震、起きないかなぁ。地震くらいじゃダメか、隕石が落ちてくるくらいの事がないと……。

 そう思って空を見上げるが、綺麗に澄んだ青空だ。
 そう言えばいつも騒がしい学生どもやガキ(小学生)がいないな?
 あぁ、そうか。世間は春休みか。今日が3月27日だった事を思い出す。

 と同時に決算事務も思い出した。日中は営業で外回り、その後サビ残で事務だ。面倒くせぇ。会社が小さいとそんな事までやらされる。てかあのクソ(上司)、俺だけに面倒くせぇ仕事を回してないか?

 いっそ、会社辞めるか。もう5年頑張ったからいいよな?
 つっても次の職がなぁ。ハロワで暫く失業保険貰うとしても次の職が見つからないと食いっぱぐれる。

 目の前を歩く高校生はいつのも制服ではなく私服だ。春休みだもんな。いいよなー、子供は親が養ってくれるから。
 高校生の3人は男ふたりと女ひとり、きっと駅で待ってる女がもうひとり、ダブルデートかよ!親から貰った小遣いでデートとは!と勝手な妄想が止まらん。

 自分の地味だった高校時代を思い出して少し悲しくなった。

『くっそぅ、電車止まれ、電車止まれ』
 お前らの幸せを阻んでやるぞ。そう思いながら前を歩く3人を見ていると、ふと気がついた。

 何だ?……あれ。

 3人のうちのひとり、少し後ろを歩く男の頭上にゆっくりと何かが降ってきた。
 降ってきたと言うより、降りてきた?

 黒い、小さい丸い何か。4~5メートル程後ろを歩く俺からはハッキリ確認は出来なかった。最近視力が落ちているのを放置していたせいもある。
 その黒い物、鳥じゃない。虫にしては大きい何か。羽も無い、だいいち羽ばたいていない。

 ただ、スゥっと男子高校生の頭上に降りてきてそこで止まっている。

 何だ?あれ。

 3人は気付かず歩いている。頭上のそれも、一緒に移動している。
 前を歩いていたふたりが話しながら振り返り、頭上の異物に気がつき会話が止まり、足も止まる。

 その時、頭上の黒い物体は、回転し始めた。3人は混乱しつつ飛び退くが黒い物体は付いてくる。
 回転のスピードが上がったのか、最早回転しているのかもわからない。ただ、黒い物体が広がっていくのがわかった。


「おいっ! 離れろっ! そこから離れろ!」


 俺の声が聞こえたのか、パニックになりながらこちらへかけてくる。
 いや、待った、俺にはどうにも出来ねぇ、来んな!そう思うのに俺の足はそこから動けなかった。
 動け!動け、俺の足!

 俺に女子高生がぶつかってきた。その時には男子ふたりもだんごになりすぐ近くまで来ていた。

 黒い渦はどんどんと広がりまるで空間を捻じ曲げているように、景色も渦巻いていく。ふたりの高校生が捻れてひねり曲げられ、渦の中へと吸い込まれていく。

 次の瞬間には女子高生がその渦へと引き込まれて行くが、彼女は
俺の服を掴んでいた。凄い力で引っ張られて俺も渦の中へ、ぐにゅんと肉団子になり意識を失った。




 目が覚めた。

 俺は石がゴロゴロと転がる地面に倒れていた。あの駅へ続く道はこんなに整備の悪い道路ではなかったはずだが。

 そう思いながら身体を起こすと、あー、ヤダヤダ。知らない場所。
 そう、俺は覚えている。気を失う前は駅へ続く道を歩いていた。目の前を歩く親のスネかじってる幸せそうな高校生トリオが羨ましくて、つい妬んだんだ。

 電車よ止まれ、とは願ったけどさ、何なんだよ、この状況。
 あの黒い変な物体は俺のせいじゃないよな?そもそも空間を捻じる力とか無い。今流行りの呪物とかも持ってないからな。勿論、呪術師とかでも全然無い、全く無い、俺はごく普通の疲れたサラリーマンだ。


「ステータス!」


 近くから誰かの声が聞こえた。顔を向けると、さっきの高校生だ。いや、後ろを歩いていたらから顔はよく覚えていないがあんな服装だった気がする。


「あれ? あれ?」

「えっ、ステータス出たのか?」

「あんたまた深夜アニメに影響されてんでしょ! 前は忍者になるとか……」

「ば、ばば、ばか、いつの話だよ! あれは小5の時だろ」


 は、はーん。俺はわかった、わかっちまった。

 これは、あの界隈(どの界隈)でありがちのアレだろ。異世界に転移したやつ。
 俺は、異世界に転移、したのか?それ以外考えられない。

 自分の服をペタペタと触り、駅に向かっていた時と同じである事を確認した。そして脇には通勤鞄(たいしたもんは入っていない)。
 これは『転生』じゃなくて『転移』だな。転生なら異世界人に生まれ変わるはずだ。俺のままの転移か。

 さっき「ステータス」と声をあげた少年は俺と同じ匂いを感じた。オタ……ごほっ、これは自分にも刺さる。そういう方面に詳しいやつだな。

 男子ふたりは女子高生に転移やら異世界やらを一生懸命説明していた。一般人に理解してもらうのは大変だな。
 そんな事を考えつつぼんやりしていると、突然、3人がこちらを見た。

 俺も向こうを見ている。見つめ合う3人とひとり。


 そう、俺は最初、『巻き込まれ召喚(転移)』だと思った。

『巻き込まれ召喚からの~異世界』系の小説ではテンプレの登場人物、武道を嗜む体育会系男子、頭脳を武器とした秀才生徒会長、そして美貌の少女。
 だいたいがその3点セットで、それに巻き込まれたよれよれサラリーマン。
 今や、異世界転移小説の王道だ。

 そして、俺は、巻き込まれたよれたサラリーマンだ。(ほっとけ)

 ……にしては、主人公3人組が地味目……通り越して完全に地味?ガタイの良い武道を極めた……やつは、居ないな?
 天才頭脳……の、持ち主っぽいツンデレイケメン高校生もおらんぞ?

 ふたりの男子学生を観察するが、通勤駅のホームにいつもゾロゾロいる高校生の団体の中の一部。運動部のような活気もみなぎっていない。
 これ、映画なら地味顔俳優のダブル主演か?

 そして女子高生……女性に失礼な事を言うつもりはないが、深窓の御令嬢とか何とか財閥のお嬢様……には見えない。待て、実際にそんな人に会ったことはない。実際はこんなものなのかもしれない。ブスではないが普通中の普通。

 俺は自分を棚に上げて何と失礼な発言(口に出していないが)をしているんだ。
 うんうん、十分かわいいお嬢さんだ。口に出すと変態と間違われるから言わないが。


「……小宮くん、何かあのおっさん、キモい」


 心を読むスキルか!


「倉田さん、解析スキル取ったんだ」


 おお、やはりスキル持ち!
しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...