65 / 299
65話 仲間の安否
しおりを挟む
俺はテレポートでカンさんの自宅に戻った。タウさんに怒られるかとビクビクしていたが、タウさんは忙しいようでその日は会わずに終わった。
その翌日も自宅裏の山にある洞窟からタウさんとカンさんは出てこなかった。洞窟を第二の拠点として整備をしているようだった。
…………まさか、洞窟がダンジョンになっており、2人でダンジョンに篭ってる……とかではないよな?
さらに翌日、俺たちは洞窟へと集められた。ま、まさか、本当にダンジョンに?と思ったが違った。普通に拠点が完成しただけのようだった。
案内された洞窟の中は、共同のトイレ、風呂、食堂などが整備されていた。個室もある。個室と言っても扉は無いが、布を下げたり仕切り板を使ったりして個室感を出している。子供達だけでなく男性達にも評判が良い。秘密基地みたいで男ゴゴロをくすぐられる。
夜はカンさんちの母家に戻るが、洞窟内に個人の荷物も運び込んでる者もいる。俺も一部屋(いや、ひと穴か?)貰った。隣の穴はマルクの部屋だが、マルクはこっちの部屋に自分の布団を運んでいた。
「布団、ここに置くのか?夜は母家だぞ?」
「いいの、何かあった時こっちにも寝るとこがあった方がいいでしょ?」
「お、おう」
この辺りの地域の停電は比較的早くに解消された。町内に住む人達は避難所を出て自宅へと戻っていた。ただ交通は止まったままなので、他所への移動は難しく帰宅できない者達はまだ村民会館の避難所にいる。
洞窟は俺たちだけでなく、この地域の人達が入れる充分な広さだ。
「まだ奥のほうは途中なんですが、とりあえずそれなりの人数が生活出来るくらいにはしてあります。ただ、頑強さを保たさせるのにカンさんのエリアアースが12時間おきに必要ですが……」
「エリアアースは今のところ日々のルーティンにしています」
「カンさんがそれかけないとどうなるんだ?洞窟が崩れるん?」
「いえ、直ぐにどうこうは無いと思います。が、カンさんの負担を考えるとエリアアースの使い手がもう2~3人は欲しいところです」
「エリアアースって土エルフの魔法だよな?」
「ええ……」
「ミレさんがDE、カオるんはWIZ、僕はエルフでも火属性です」
「北海道のゆうごもダークエルフだよなぁ」
ミレさんがステータスを開いて何かを調べているみたいだ。
「ダークエルフはそもそもエルフと異なって、魔法系より自分へのバフスキルっぽいものばかりだからなぁ」
「カオるんの魔法にエリアアースに近い魔法はありませんか?」
「うぅむ……、攻撃魔法以外だと、自分にかけるバフ系と敵にかけるデバフ魔法かぁ。あ、ちなみにシールドはあるけどカンさんの足元にも及ばないヘナチョコシールドだしなぁ」
「カオるん、セカンドがエルフですよね?属性は風でしたっけ?」
俺はビクンと飛び上がった。先日の津軽海峡を越えた迷子の件……まさか、バレてるのか?
「風エルフはどんな魔法が?」
「え、ええと、あぁと、矢が速くなる、足が速くなる、それと矢が3本に分かれる……くらいだ」
「それだけ? ああ、向こうに転移した時に忘れたんですね」
うっ、そうだ、その通り。地球から異世界に転移した時に、ゲームで持ってた魔法を全て使えたわけではない。
自分がゲームでよく使い、覚えていたモノだけが、向こうでも使えた。こちらに戻っても同じ魔法しかなかった。
「……はい。忘却の彼方だ、です」
「そうだ! カオるん、サードキャラ持ってましたよね? 確か、ドラゴンナイト。それはどうです?」
「す、すみません。DKNはもっと忘却の彼方です」
俺はこれ以上ないくらい小さくなった。物理的には変わらないが気持ち的にだ。
10年前…20年前の俺を恨むぜ。何でもっとゲームをやりこんでおかなかったんだろう。
俺を憐れんだミレさんが話の先を逸らしてくれた。
「そう言えばアネさんとはまだ連絡がついてないんだよな。まぁアネさんと連絡が着いてもアネさんはナイトだからな。MPゼロの魔法無し職だよな」
よかった。話が洞窟に戻った。
カンさんが地主の杉田の爺さんにも洞窟の話をして案内もしたが、面白がってくれはしたが、避難場所としては後ろ向きな考えだったそうだ。
「隠れ家としては面白いが、わざわざここに皆で避難せんでもええやろ」
そう言われてしまうと、それ以上は勧められない。
ただ、俺ら異世界からの戻り組は複雑な心境だ。神様からの神託、異世界へ転移した経験、本当は滅亡するはずだった地球、それを知っている自分達。
隕石落下で津波が来た、助かった皆で復興を頑張ろう。
普段だったら俺もそう思っただろう。この地域の人達もそう思っている。だが俺たちは、もっと違う未来を少し知ってしまっている。
タウさんらは、一瞬だが先の地球を神様に見せてもらったそうだ。
先の地球……、隕石落下後の、人類が滅亡はしないが激減する未来。
「隕石落下とそれによる津波で、世界は大打撃を受けました。けれど神が私に見せた一瞬の映像は、もっと、その……まさに地球の終焉のような映像でした」
「僕もです。確かに今の状態でも地域によっては地獄のような状況でしょう。ですが僕は神様の言葉にもっと深刻な何かが感じられました」
俺は、夢に神様が現れた時は戻るつもりが無かったので、何も見せてもらっていない。こちらから質問もしなかった。
タウさんとカンさんは家族の消息を知りたくて、神に色々と聞いたそうだ。そこで地球の映像を一瞬だけ見せてもらったと。
「災害が、これで終わると思えないんです」
「僕もです」
「確かに。隕石や津波を生き抜いた者達がいる未来の地球というだけなら、俺らがゲームのステータスやらアイテムボックスを今も使えるのはおかしいよな。普通の人間で戻って家族と会う、それだけでもいいんだよ。なのにこの特別な力……」
「それと、異世界へ転移して10年生きた記憶もある。ただ俺たちを戻すだけなら、異世界の記憶を消して戻しても良かったんですよ。だが神はそうしなかった。俺達に特別な力を与えた」
「つまり、それは……、つまりそれは、……………何でだ?」
ミレさんがこけた。
「カオるん!」
「いや、すまん。話が難しくなってきて……、俺には何でかわからん」
「僕らも神様の考えはわかりません」
「ええ、そうですね。ただ、備えておきたいんです。僕らの力がこの先必要な事が起こった時のために」
タウさんは、カンさんもだが、何かを恐れているようだ。この先に何が起こるのだろう。
俺は、俺の力は『今』必要とされている気がする。ヒールやアイテムなど災害で1番必要だよな。道に迷ってる場合じゃない。
人生って意味の『道』と、実質的な『道』の両方だ。
だが、方向音痴は迷おう思って迷ってるわけではない、頑張ってるのに迷っちゃうのよ。(号泣)
隣にいたマルクにギュッと手を握られた。マルクはフンスと頼り甲斐のある顔で頷いた。ありがとう、息子よ、頼りにするぞ。
ブホっ
ミレさんが吹き出した。どうした?大丈夫か?年取ってくると唾液が気管に入りやすくなるからな、ミレさん、気をつけろ?
カンさんは横を向き、タウさんは咳払いをしながら話を続けた。
「ネットは繋がりますが、相変わらず情報が溢れすぎてます。逆に国や政府からの情報が全く入りません。警察、消防、自衛隊もバラバラに動いている感がありますね」
「ここらも地元の消防団が主になって動いてます。消防の本部との連絡は取れないと言ってました」
「あ、でも俺の職場の近くに警視庁とか警察庁とか、何だっけか海上保安庁?だったか、何か偉そうな建物に人がいっぱいいたぞ?」
「カオるんの職場は日比谷だもんな、あの辺は色々あるよな」
「カオるん、そこら辺のブックマークはありますか?」
「おう、あるある。迎えに来るまで動くなと言われてたんで、近場を回ってた。ブックマークもしてある」
「一度情報を得に行くのもありですね」
「俺さぁ、カオるんから聞いた話でちょっと気になってる事がある」
ミレさんが神妙な顔つきで俺を通り越してタウさんを見た。
「カオるんの会社の最上階ってホントは役員室だろ? でも隕石落下よりの前に役員が全員出社してなかったってさ。偶然か?」
「事前に知っていたと?」
「だってあのやまと商事だぜ? 日本最大手の商社。場所は日比谷だ。政界や国と繋がりがあっても不思議じゃない。何日の何時までは知らなくても、大まかな情報は掴んでたと思うね」
へ、へぇ。俺はただの派遣だから気が付かなかったが、確かに社員を全員集めておいて役員がひとりも居ないってのは変だな。
「でも、あの日、俺たち社員が全員集められたのは……」
「おそらくですが、隕石落下が『あの日』とまでは聞いていなかったのかもしれません。役員が安全な所に避難しつつ、社員にも軽く伝えるつもりだったのかもしれません」
「隕石が落下するぞってか?」
「いえ、防災のため暫く会社を休業にする、とかです」
「ああ、そう言えばあの頃、事前に閉鎖している企業も出始めていたよな?」
「ええ、知った秘密を抱えきれず漏らした人達もいたのでしょうね」
「うちの社員が集められてのが、その、ドンピシャの日だったのか」
「ええ、そうでしょうね」
汚ねぇな、国や会社の偉い奴らや金持ちが知っていたって事か。そして事前に逃げた。
「何処に逃げたんだ?」
「隕石落下のある程度の情報があれば、無事な土地も事前にわかるでしょう。恐らくそう言った場所のシェルターとかでしょうか」
「そう言やぁ、東京にもデッカい地下シェルターが何箇所もあるって聞いた事があるぞ?」
「えっ、東京のどこ?俺は知らんかった」
「カオるんが知ってたらビックリだw なんか地下鉄のずっと深くに建設しているって話だったな」
「でも、地下とか、大丈夫なんですか? 現在、東京は水の下に沈んでいますよね?」
「そうですね。どこまで想定して造ったシェルターなのか。ただ地震などでの帰宅困難者のためのシェルターだったら、今頃は……」
密閉性の高いシェルターなら中の人間は助かっているだろう。しかしあまり密閉性が高すぎても、それはそれでちょっと疑問がある。空気は?中で酸素を作っても、二酸化炭素を外へ出さなければならない。
あ、でも潜水艦みたいな仕組みもあるか。俺にはわからないけど世の中は頭のいい奴らが山ほどいるからな。
それよりも、何も聞いていない一般人だよな。その瞬間まで知らずにいたんだ。いや、知ってたとして逃げる場所もないか。
夜にはゆうごから定期連絡が入った。ゆうごは今、婆ちゃんと自宅で避難生活をしている。津波を逃れた大学の友人達も一緒に行動しているそうだ。
アネからは相変わらず連絡が来ない。横浜かぁ。アネよ、頑張れ!
そう言えば、ゴンちゃんはどうした?血盟が違うからうっかりしてたが、ゴンちゃんも今回帰還すると言ってたな。
俺が帰還するつもりが無い時に会ったのが最後だ。餞別に大量のバナナを渡したら、お返しにブランクスクロールを山ほどくれた。
ゴンちゃんはゲームでも異世界でも、ウィズ仲間とし仲良くしていた。お互い王都に小さい店を持っていた。ゲームで持ってた店が王都にも出現していたのだ。
俺は『ナヒョウエ』と言うバナナ屋で、ゴンちゃんは『ゴンザエモン』と言うスクロール屋だ。向こうにいた時ゴンちゃんによくスクロールを作ってもらっていた。
俺が地球帰還を決めたのは帰還の3日前なので、慌ただしくてゴンちゃんに戻る事になった事を伝えていなかった。
「俺、ゴンちゃんの連絡先、知らねぇ」
「ゴンザレスさんですか? 確か、彼も神奈川でしたよね」
「ゴンちゃん…………、強く乗り切れよー」
タウさんがゴンちゃんの連絡先を知っていた。帰還前に連絡先を交換したんだそうだ。流石だ、ありがとうタウさん。
しかし、アネさん同様、ゴンちゃんとも連絡はつかないとの事だった。
「そう言えば、カオるんの元職場では、今回帰還した人はいるんですか?」
俺の元職場からは俺を含め102人が異世界へ転移した。まぁ、最初の年に70名ほど亡くなったのだが。
残った32名中、今回戻ったのは、俺以外で4人いた。
俺も戻るまでは知らなかったが、あの隕石落下の直前にフロアに居た4人。開拓村で生活していた立山さん、王都で家族を捜していた大塚さん、大久保さん、あとよくわからん西野さん。
異世界での10年、殆ど付き合いがなかったからな。その後に家族と会えたのか、今どうしているのかは知らない。冷たいと言われるかも知れないが俺の中ではただの『知人』だ。
「連絡先も知らん。俺も聞かれなかったし」
「カオるんは来る者は拒まないのに、去る者は全く追わないな」
ミレさんが呆れたように言う。
そうか?自分ではよくわからんが。
「うぅむ、うん。まぁいつもはそうかもなんだが……、今回は去るみんなを追った」
口に出してから少し後悔した。皆が変な顔になったからだ。皆を追いかけたなんて重かっただろうか?捨てられて縋る女みたいだな。失言だった。
「僕も!僕も父さんを追いかけた!」
マルクが元気に叫んだ。周りを見ると、何故かみんなが笑っていた。嬉しそうな顔だ。
「マルクはいつもカオるんを追ってるぞw」
「いつもじゃない!最近は我慢してるもん」
ふふっーん、ホント、うちの子は良い子だ。
その翌日も自宅裏の山にある洞窟からタウさんとカンさんは出てこなかった。洞窟を第二の拠点として整備をしているようだった。
…………まさか、洞窟がダンジョンになっており、2人でダンジョンに篭ってる……とかではないよな?
さらに翌日、俺たちは洞窟へと集められた。ま、まさか、本当にダンジョンに?と思ったが違った。普通に拠点が完成しただけのようだった。
案内された洞窟の中は、共同のトイレ、風呂、食堂などが整備されていた。個室もある。個室と言っても扉は無いが、布を下げたり仕切り板を使ったりして個室感を出している。子供達だけでなく男性達にも評判が良い。秘密基地みたいで男ゴゴロをくすぐられる。
夜はカンさんちの母家に戻るが、洞窟内に個人の荷物も運び込んでる者もいる。俺も一部屋(いや、ひと穴か?)貰った。隣の穴はマルクの部屋だが、マルクはこっちの部屋に自分の布団を運んでいた。
「布団、ここに置くのか?夜は母家だぞ?」
「いいの、何かあった時こっちにも寝るとこがあった方がいいでしょ?」
「お、おう」
この辺りの地域の停電は比較的早くに解消された。町内に住む人達は避難所を出て自宅へと戻っていた。ただ交通は止まったままなので、他所への移動は難しく帰宅できない者達はまだ村民会館の避難所にいる。
洞窟は俺たちだけでなく、この地域の人達が入れる充分な広さだ。
「まだ奥のほうは途中なんですが、とりあえずそれなりの人数が生活出来るくらいにはしてあります。ただ、頑強さを保たさせるのにカンさんのエリアアースが12時間おきに必要ですが……」
「エリアアースは今のところ日々のルーティンにしています」
「カンさんがそれかけないとどうなるんだ?洞窟が崩れるん?」
「いえ、直ぐにどうこうは無いと思います。が、カンさんの負担を考えるとエリアアースの使い手がもう2~3人は欲しいところです」
「エリアアースって土エルフの魔法だよな?」
「ええ……」
「ミレさんがDE、カオるんはWIZ、僕はエルフでも火属性です」
「北海道のゆうごもダークエルフだよなぁ」
ミレさんがステータスを開いて何かを調べているみたいだ。
「ダークエルフはそもそもエルフと異なって、魔法系より自分へのバフスキルっぽいものばかりだからなぁ」
「カオるんの魔法にエリアアースに近い魔法はありませんか?」
「うぅむ……、攻撃魔法以外だと、自分にかけるバフ系と敵にかけるデバフ魔法かぁ。あ、ちなみにシールドはあるけどカンさんの足元にも及ばないヘナチョコシールドだしなぁ」
「カオるん、セカンドがエルフですよね?属性は風でしたっけ?」
俺はビクンと飛び上がった。先日の津軽海峡を越えた迷子の件……まさか、バレてるのか?
「風エルフはどんな魔法が?」
「え、ええと、あぁと、矢が速くなる、足が速くなる、それと矢が3本に分かれる……くらいだ」
「それだけ? ああ、向こうに転移した時に忘れたんですね」
うっ、そうだ、その通り。地球から異世界に転移した時に、ゲームで持ってた魔法を全て使えたわけではない。
自分がゲームでよく使い、覚えていたモノだけが、向こうでも使えた。こちらに戻っても同じ魔法しかなかった。
「……はい。忘却の彼方だ、です」
「そうだ! カオるん、サードキャラ持ってましたよね? 確か、ドラゴンナイト。それはどうです?」
「す、すみません。DKNはもっと忘却の彼方です」
俺はこれ以上ないくらい小さくなった。物理的には変わらないが気持ち的にだ。
10年前…20年前の俺を恨むぜ。何でもっとゲームをやりこんでおかなかったんだろう。
俺を憐れんだミレさんが話の先を逸らしてくれた。
「そう言えばアネさんとはまだ連絡がついてないんだよな。まぁアネさんと連絡が着いてもアネさんはナイトだからな。MPゼロの魔法無し職だよな」
よかった。話が洞窟に戻った。
カンさんが地主の杉田の爺さんにも洞窟の話をして案内もしたが、面白がってくれはしたが、避難場所としては後ろ向きな考えだったそうだ。
「隠れ家としては面白いが、わざわざここに皆で避難せんでもええやろ」
そう言われてしまうと、それ以上は勧められない。
ただ、俺ら異世界からの戻り組は複雑な心境だ。神様からの神託、異世界へ転移した経験、本当は滅亡するはずだった地球、それを知っている自分達。
隕石落下で津波が来た、助かった皆で復興を頑張ろう。
普段だったら俺もそう思っただろう。この地域の人達もそう思っている。だが俺たちは、もっと違う未来を少し知ってしまっている。
タウさんらは、一瞬だが先の地球を神様に見せてもらったそうだ。
先の地球……、隕石落下後の、人類が滅亡はしないが激減する未来。
「隕石落下とそれによる津波で、世界は大打撃を受けました。けれど神が私に見せた一瞬の映像は、もっと、その……まさに地球の終焉のような映像でした」
「僕もです。確かに今の状態でも地域によっては地獄のような状況でしょう。ですが僕は神様の言葉にもっと深刻な何かが感じられました」
俺は、夢に神様が現れた時は戻るつもりが無かったので、何も見せてもらっていない。こちらから質問もしなかった。
タウさんとカンさんは家族の消息を知りたくて、神に色々と聞いたそうだ。そこで地球の映像を一瞬だけ見せてもらったと。
「災害が、これで終わると思えないんです」
「僕もです」
「確かに。隕石や津波を生き抜いた者達がいる未来の地球というだけなら、俺らがゲームのステータスやらアイテムボックスを今も使えるのはおかしいよな。普通の人間で戻って家族と会う、それだけでもいいんだよ。なのにこの特別な力……」
「それと、異世界へ転移して10年生きた記憶もある。ただ俺たちを戻すだけなら、異世界の記憶を消して戻しても良かったんですよ。だが神はそうしなかった。俺達に特別な力を与えた」
「つまり、それは……、つまりそれは、……………何でだ?」
ミレさんがこけた。
「カオるん!」
「いや、すまん。話が難しくなってきて……、俺には何でかわからん」
「僕らも神様の考えはわかりません」
「ええ、そうですね。ただ、備えておきたいんです。僕らの力がこの先必要な事が起こった時のために」
タウさんは、カンさんもだが、何かを恐れているようだ。この先に何が起こるのだろう。
俺は、俺の力は『今』必要とされている気がする。ヒールやアイテムなど災害で1番必要だよな。道に迷ってる場合じゃない。
人生って意味の『道』と、実質的な『道』の両方だ。
だが、方向音痴は迷おう思って迷ってるわけではない、頑張ってるのに迷っちゃうのよ。(号泣)
隣にいたマルクにギュッと手を握られた。マルクはフンスと頼り甲斐のある顔で頷いた。ありがとう、息子よ、頼りにするぞ。
ブホっ
ミレさんが吹き出した。どうした?大丈夫か?年取ってくると唾液が気管に入りやすくなるからな、ミレさん、気をつけろ?
カンさんは横を向き、タウさんは咳払いをしながら話を続けた。
「ネットは繋がりますが、相変わらず情報が溢れすぎてます。逆に国や政府からの情報が全く入りません。警察、消防、自衛隊もバラバラに動いている感がありますね」
「ここらも地元の消防団が主になって動いてます。消防の本部との連絡は取れないと言ってました」
「あ、でも俺の職場の近くに警視庁とか警察庁とか、何だっけか海上保安庁?だったか、何か偉そうな建物に人がいっぱいいたぞ?」
「カオるんの職場は日比谷だもんな、あの辺は色々あるよな」
「カオるん、そこら辺のブックマークはありますか?」
「おう、あるある。迎えに来るまで動くなと言われてたんで、近場を回ってた。ブックマークもしてある」
「一度情報を得に行くのもありですね」
「俺さぁ、カオるんから聞いた話でちょっと気になってる事がある」
ミレさんが神妙な顔つきで俺を通り越してタウさんを見た。
「カオるんの会社の最上階ってホントは役員室だろ? でも隕石落下よりの前に役員が全員出社してなかったってさ。偶然か?」
「事前に知っていたと?」
「だってあのやまと商事だぜ? 日本最大手の商社。場所は日比谷だ。政界や国と繋がりがあっても不思議じゃない。何日の何時までは知らなくても、大まかな情報は掴んでたと思うね」
へ、へぇ。俺はただの派遣だから気が付かなかったが、確かに社員を全員集めておいて役員がひとりも居ないってのは変だな。
「でも、あの日、俺たち社員が全員集められたのは……」
「おそらくですが、隕石落下が『あの日』とまでは聞いていなかったのかもしれません。役員が安全な所に避難しつつ、社員にも軽く伝えるつもりだったのかもしれません」
「隕石が落下するぞってか?」
「いえ、防災のため暫く会社を休業にする、とかです」
「ああ、そう言えばあの頃、事前に閉鎖している企業も出始めていたよな?」
「ええ、知った秘密を抱えきれず漏らした人達もいたのでしょうね」
「うちの社員が集められてのが、その、ドンピシャの日だったのか」
「ええ、そうでしょうね」
汚ねぇな、国や会社の偉い奴らや金持ちが知っていたって事か。そして事前に逃げた。
「何処に逃げたんだ?」
「隕石落下のある程度の情報があれば、無事な土地も事前にわかるでしょう。恐らくそう言った場所のシェルターとかでしょうか」
「そう言やぁ、東京にもデッカい地下シェルターが何箇所もあるって聞いた事があるぞ?」
「えっ、東京のどこ?俺は知らんかった」
「カオるんが知ってたらビックリだw なんか地下鉄のずっと深くに建設しているって話だったな」
「でも、地下とか、大丈夫なんですか? 現在、東京は水の下に沈んでいますよね?」
「そうですね。どこまで想定して造ったシェルターなのか。ただ地震などでの帰宅困難者のためのシェルターだったら、今頃は……」
密閉性の高いシェルターなら中の人間は助かっているだろう。しかしあまり密閉性が高すぎても、それはそれでちょっと疑問がある。空気は?中で酸素を作っても、二酸化炭素を外へ出さなければならない。
あ、でも潜水艦みたいな仕組みもあるか。俺にはわからないけど世の中は頭のいい奴らが山ほどいるからな。
それよりも、何も聞いていない一般人だよな。その瞬間まで知らずにいたんだ。いや、知ってたとして逃げる場所もないか。
夜にはゆうごから定期連絡が入った。ゆうごは今、婆ちゃんと自宅で避難生活をしている。津波を逃れた大学の友人達も一緒に行動しているそうだ。
アネからは相変わらず連絡が来ない。横浜かぁ。アネよ、頑張れ!
そう言えば、ゴンちゃんはどうした?血盟が違うからうっかりしてたが、ゴンちゃんも今回帰還すると言ってたな。
俺が帰還するつもりが無い時に会ったのが最後だ。餞別に大量のバナナを渡したら、お返しにブランクスクロールを山ほどくれた。
ゴンちゃんはゲームでも異世界でも、ウィズ仲間とし仲良くしていた。お互い王都に小さい店を持っていた。ゲームで持ってた店が王都にも出現していたのだ。
俺は『ナヒョウエ』と言うバナナ屋で、ゴンちゃんは『ゴンザエモン』と言うスクロール屋だ。向こうにいた時ゴンちゃんによくスクロールを作ってもらっていた。
俺が地球帰還を決めたのは帰還の3日前なので、慌ただしくてゴンちゃんに戻る事になった事を伝えていなかった。
「俺、ゴンちゃんの連絡先、知らねぇ」
「ゴンザレスさんですか? 確か、彼も神奈川でしたよね」
「ゴンちゃん…………、強く乗り切れよー」
タウさんがゴンちゃんの連絡先を知っていた。帰還前に連絡先を交換したんだそうだ。流石だ、ありがとうタウさん。
しかし、アネさん同様、ゴンちゃんとも連絡はつかないとの事だった。
「そう言えば、カオるんの元職場では、今回帰還した人はいるんですか?」
俺の元職場からは俺を含め102人が異世界へ転移した。まぁ、最初の年に70名ほど亡くなったのだが。
残った32名中、今回戻ったのは、俺以外で4人いた。
俺も戻るまでは知らなかったが、あの隕石落下の直前にフロアに居た4人。開拓村で生活していた立山さん、王都で家族を捜していた大塚さん、大久保さん、あとよくわからん西野さん。
異世界での10年、殆ど付き合いがなかったからな。その後に家族と会えたのか、今どうしているのかは知らない。冷たいと言われるかも知れないが俺の中ではただの『知人』だ。
「連絡先も知らん。俺も聞かれなかったし」
「カオるんは来る者は拒まないのに、去る者は全く追わないな」
ミレさんが呆れたように言う。
そうか?自分ではよくわからんが。
「うぅむ、うん。まぁいつもはそうかもなんだが……、今回は去るみんなを追った」
口に出してから少し後悔した。皆が変な顔になったからだ。皆を追いかけたなんて重かっただろうか?捨てられて縋る女みたいだな。失言だった。
「僕も!僕も父さんを追いかけた!」
マルクが元気に叫んだ。周りを見ると、何故かみんなが笑っていた。嬉しそうな顔だ。
「マルクはいつもカオるんを追ってるぞw」
「いつもじゃない!最近は我慢してるもん」
ふふっーん、ホント、うちの子は良い子だ。
462
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。
ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。
そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。
主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。
ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。
それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。
ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ガチャから始まる錬金ライフ
盾乃あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる