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105話 ファンタジーだけじゃない②
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-------------(カオ視点)-------------
兄の背中に付いていた弟は痩せていた。蹲っていた兄が顔を擦りながら立ち上がった。
兄の方はもっとガリガリで顔色も酷く悪かった。
救援や救助に向かうと最近はそんな感じの人が多い。だが見慣れる事はなかった。見るたびに、頬がこけて顔色が悪い人が増えていく。
マルクは直ぐに馬車から経口保水飲料とゼリー飲料を出してきた。実際はアイテムボックスから出したのだが、馬車から持ってきたように見せる事にしている。
まだしゃくり上げていたが汚れた袖でゴシゴシと涙を拭く兄の方にマルクがペットボトルを渡した。彼はボトルのキャップを開けると弟の口元に持っていった。弟は両手でそれを掴んでゴクゴクと飲み出す。
マルクはもう一本、兄貴へ渡す。彼はペコリと頭を下げてそれを飲みはじめた。
その横でマルクはカロリーゼリーとビスケットをエコバッグから出した。(さっき馬車の中でアイテムボックスから出したやつだ)
弟の方はボトルから口を離して、ビスケットから目が離せなくなったように見つめていたが、欲しがりはしなかった。だが、唾を飲み込む様子からかなりの期間、空腹を耐えていたのだろう。
マルクは直ぐにそれも渡した。野菜エキス入りの幼児用ビスケットだが少年は貰ったそれを直ぐに口に運ぶ事はなく兄へと渡す。
兄は飲んでいたボトルから口を離して、弟から受け取った。が、ビスケットの袋を破り弟へ。弟は兄とこちらの顔を何度も見ながら、やがて貪るように食べ始めた。
兄貴の方はビスケットを口に入れてじっくりと味わっているようだった。
どれだけ空腹だった事だろう。
キヨカが俺に布を差し出した。
「あ、スマン。ぐずっ」
泣いてないが、鼻水が出ていたようだ。泣いてないが。
「食べながらでいいから聞いてもいいかしら。今はふたりだけなの?その、他のご家族は?」
兄貴の方は少しだけ落ち着いたのか、その後渡したバナナから口を離して話し始めた。
弟は、バナナ、ビスケット、ペットボトルとエンドレスで止まらないようだ。
「あ、あの、ありがとうございました。家族は……、父さんと母さんとひろみと俺の4人だけど、父さんはあの日会社に行ってから連絡取れないです。か、母さんは、母さんもパートにっ、行って、戻って、来ない…です」
あれ?ひろみ?弟だ思ってたけど女の子なのか?薄汚れていて性別不明だな。
「ひろみ…くん?ちゃん?」
キヨカも悩んだようで疑問系になっていた。
「ひろみは弟です。太平洋の洋に海で、洋海(ひろみ)。あ、俺は陸緒(リクオ)、大陸のリクに糸編に者でリクオ」
「僕は、カタカタでマルクです!12歳です! ヒロミは何歳?」
マルクに話しかけられた弟、洋海はおずおずと顔を上げた。
「僕は9歳……四年生」
マルクがひろみと話している間に、キヨカは陸緒と話を続けた。
「陸緒君、家には洋海君とふたりでずっと居たの?」
「はい。いえ、えっと避難所に居た事もあったんですけど、人がどんどん増えて、自宅がある人は戻ってくれって。それで戻ったんだけど食べるものが無くなってくるし、避難所でも分けてもらえなくて。それでネットでみつけて……」
「なるほど。お母さんのパート先はここから近い?」
「ええと、く、車だとそんなに遠くないかな。でも火山灰で道が無くなってて……、歩いて行くには洋海連れてだと無理だし」
「会社の名前はわかる?」
「あ、はい。会社じゃなくてパートなんだけど、ヨーカタウンです」
「ヨーカタウン? もしかして牛久南店かしら?」
「え、昨日行ったとこか?」
「そうです、ヨーカタウン牛久南! 行ったんですか? そこにお母さんいませんでしたか!」
「残念ながらそこには誰も居なかったわ」
一瞬明るくなった陸緒の顔がまた暗くなった。
「あの辺の近場の避難所に避難した可能性もあるな。あの辺りの避難所と連絡は取れるよな?聞いてみよう」
「そうですね。まずは連絡を入れて避難所にいるか確認をしましょう。陸緒くん、お母さんの名前を教えてもらえる?」
「はい、由紀子です。森市由紀子」
ヨーカタウンの近辺に避難所は2箇所あった。キヨカと手分けをして俺も連絡を入れた。
森市由紀子という人物が避難しているかを問い合わせた。確認して折り返すと言われたので、とりあえず4人で陸緒達の家へと移動した。
直ぐ近くの4階建てのマンションの4階だった。もちろんエレベーターは無く、階段だ。有ってもこの状態では動いてないだろうがな。
この辺りは電気が復活していないのか、部屋は窓からの灯りが頼りであった。
部屋の中は散らかっていた。母親が居なかったと言うのもあるだろうが、災害からゴミの収集車が来なくなりマンションの廊下や建物の外にもゴミの山がいくつも出来ていた。
部屋の中も台所や居間にゴミや脱いだ服が積み重なっていた。
そうだな、洗濯機も動かないのでは洗濯も出来まい。タンスにある服を次から次と着ていき、とうとう着替えが無くなった、というところだろうか。当然、風呂にも入ってないだろう。
キヨカと電話を待ちながら、今後について話す。
「一度、洞窟に連れていきたいな」
「そうですね。お風呂と診察と暖かい食事、それから落ち着いてご両親の捜索でも良いかも知れませんね」
「とりあえず避難所からの連絡を待って、その後一旦戻ろうか」
「ええ。あ、陸緒くん、お父さんの勤め先はわかりますか?」
「はい、あ、会社は……名前何だったかな、ええと、生命…会社とかだったかな。あんま興味なくてちゃんと聞いた事なかった」
「場所はわかる? いつもどこに通勤してたとか、電車だったら何線とか…」
「あ、僕わかる! 父さんはじょーばん線で新橋駅だよ、兄ちゃん」
「あ、そうだ! 母さんがよく言ってた。新橋はオヤジの飲み屋が多いって、父さんが遅い日は言ってたな。新橋の立ち飲み屋かって」
「おっ、オヤジさん、新橋なのか?俺が居たとこに近いな」
「カオさん、日比谷でしたね」
「地下鉄だと日比谷、JRだと新橋が最寄り駅だった。あの辺は保険会社がいくつかあったな。うちから近いとこだと保田生命か」
「あっ!ヤスダ、多分ヤスダ生命って言ってたかも!です」
父親の勤め先がわかった時にキヨカのスマホが鳴った。
キヨカが掛けた避難所には該当の人物は居なかったとの返事だった。程なくして俺のスマホも鳴ったので出た。
出たつもりが間違えて切るボタンを押したようだ。慌てていたらキヨカが掛け直してくれた。
「もしもし、すみません今ちょっとその、切れてしまって……はい、……はい。そうですか。ありがとうございました」
陸緒と洋海が俺をじっと見ていた。
「その、お母さんはそこの避難所には居ないみたいだな」
ふたりの顔がガッカリと曇った。その時、再び俺のスマホが鳴った。
よし、今度はちゃんと出るぞ、ここを横にプイっとするんだよな?
電話に出るとさっきの電話の人だった。
「もしもし、はい。はい……えっ、そうなんですか!ありがとうございます」
「どこからですか?」
キヨカは不思議そうに聞いてきた。洞窟メンバーなら念話やステータスからのメールを送るはず、俺がスマホを使うのは珍しいからな。
俺は陸緒達に笑いかけた。
「さっきの避難所からだ。お母さんの知り合いの人がそこに居てな、それでお母さんの場所がわかった」
そこまで話すと、ふたりの顔がくしゃりと歪み泣き出してしまい、俺は慌てた。
「あ、悪い、場所がわかっただけでそこに居るかはまだわからないんだ。お母さんは、あの日はそこのヨーカタウンには行かなかったんだそうだ。一緒に働いてたパートさんの話によると、あの日は他の店舗の応援に行ったそうなんだ」
「どこの店舗ですか?」
「筑波…山南店とか言ってた」
俺の言葉でキヨカとマルクが素早く地図を広げた。マルクはタブレットも出してネットで調べている。
「あ、キヨカさん、ここじゃないですか?」
キヨカがマルクのタブレットを覗き込み頷いていた。
「そうね。あら、拠点から結構近いわね。山の麓を東側に移動……うんうん」
「そこも店舗には人は居なかったですよね?」
「ええ、ここかここ、もしくはこっちの避難所をあたってみましょうか。本部に連絡先を聞いてみます」
キヨカはスマホを掛けている風を装い念話をした。
『すみません、こちらハケンの砂漠、キヨカです。救助者の母親がヨーカタウン筑波山南店で働いていたそうです。その近辺の避難所の連絡先をご存知の方、いらっしゃいますか?』
『地球の砂漠、タウロです。現在、各砂漠チームは外に出ていると思いますが、本部ルームに避難所の連絡先一覧があります』
『じゃあ一旦洞窟に戻るか。タウさん、救助者2名連れ帰っていいか? あ、ハケンのカオだ』
『ブッ、カオるん、それだと派遣のカオに聞こえるぞw』
『ミレさん、ちゃんとタマのミレ、と名乗れよ』
『誰が玉のミレだ! 埼玉の砂漠のミレです、以上!』
『オッケーです。連れ帰ってください。診療所への連絡を忘れないように』
ふたりを洞窟拠点に連れて帰る事になった。
「陸緒くん、洋海くん、私達の避難所が筑波山の麓にあるの。一旦そこに一緒に行きましょう? そこに居てもらってる間ににお母さんが居るかも知れない避難所に連絡をしてみます。……その、絶対居るとは言えないのだけど、どうかしら」
「僕、行きたい!それで一緒にお母さん探す!」
「…………あの、よろしくお願いします」
洋海の勢いに陸緒もつられたようだ。
「じゃあ陸緒くん、もしもお母さんかお父さんが行き違いに戻って来た時の為に、置き手紙を書いてもらいますね」
そう言うとキヨカはカンさんちの住所と自分のスマホの番号そ書いた紙を渡した。
「ここへはいつ戻れるかわからないから、大事な物やどうしても持って行きたい物をバッグに詰めてね」
キヨカは洋海に付き添って荷造りをしている。マルクは散らばっていた汚れた衣類を袋に詰めていた。
洞窟に持ち帰り洗濯をして再利用する為だ。マルクは陸緒から見えない場所で詰めた袋をアイテムボックスにしまっていた。俺も適当に色々とこっそりしまっていく。もしもここに戻るようならその時に返却する。
「そうだ、陸緒。父ちゃんの名前は何だ? そっちも調べるからな」
「あ、はい。父さんは郁夫です」
「おう、森……何だっけ?」
「森市郁夫です」
キヨカから念話が来た。
『カオさん、保田生命の連絡先を知っているのですか?』
『知らん。けど、あの隕石の日、職場周りをウロチョロしててさ、ブックマークした中に保田生命あるんよ。あとでちょっと飛んでみる』
『父さん、あの辺の人は眠らせて埼玉の陸地に置いて来たよね?』
『ああ。保田生命のビルに居なかったら、そっちのブクマも訪ねてみるつもりだ。マルク、悪いな。折角大仏に行ってもらう予定だったのに今日は無理そうだな』
『だいじょぶだよ、また行けるし、絶対に行こう?』
『そうですよ、大仏様は逃げませんから』
『あ、キヨカ、今日この後予定していた店舗での物資収集と午後の予定もちょっとズレそうだな。平気か?』
『問題ありません。タウロさんからは各血盟でプランを任されていますから』
『そっか』
「父さん、準備出来たー」
「おうよ。じゃあ馬車に乗って出発だ」
『マルクの馬一頭で、5人乗って大丈夫か?』
『平気! ウマオーは力持ちだから!』
『STRとエンチャアマをかけとくか。あ、マルク、シールドはかけるなよ。シールドかけるとカンさんのアーススキンが消えるからな』
『はーい。父さん、ウィズのシールドってヘナチョコだね? ちょっと悲しいね』
『そうだな』
「陸緒くん、洋海くん、乗ってください」
キヨカに促されて馬車の乗ったふたりは、物珍しげに中を見回した後、走り出した速さにビビっていた。車より遅いと思うが、馬車はシートベルトが無いからな。カンさんに要相談か?
兄の背中に付いていた弟は痩せていた。蹲っていた兄が顔を擦りながら立ち上がった。
兄の方はもっとガリガリで顔色も酷く悪かった。
救援や救助に向かうと最近はそんな感じの人が多い。だが見慣れる事はなかった。見るたびに、頬がこけて顔色が悪い人が増えていく。
マルクは直ぐに馬車から経口保水飲料とゼリー飲料を出してきた。実際はアイテムボックスから出したのだが、馬車から持ってきたように見せる事にしている。
まだしゃくり上げていたが汚れた袖でゴシゴシと涙を拭く兄の方にマルクがペットボトルを渡した。彼はボトルのキャップを開けると弟の口元に持っていった。弟は両手でそれを掴んでゴクゴクと飲み出す。
マルクはもう一本、兄貴へ渡す。彼はペコリと頭を下げてそれを飲みはじめた。
その横でマルクはカロリーゼリーとビスケットをエコバッグから出した。(さっき馬車の中でアイテムボックスから出したやつだ)
弟の方はボトルから口を離して、ビスケットから目が離せなくなったように見つめていたが、欲しがりはしなかった。だが、唾を飲み込む様子からかなりの期間、空腹を耐えていたのだろう。
マルクは直ぐにそれも渡した。野菜エキス入りの幼児用ビスケットだが少年は貰ったそれを直ぐに口に運ぶ事はなく兄へと渡す。
兄は飲んでいたボトルから口を離して、弟から受け取った。が、ビスケットの袋を破り弟へ。弟は兄とこちらの顔を何度も見ながら、やがて貪るように食べ始めた。
兄貴の方はビスケットを口に入れてじっくりと味わっているようだった。
どれだけ空腹だった事だろう。
キヨカが俺に布を差し出した。
「あ、スマン。ぐずっ」
泣いてないが、鼻水が出ていたようだ。泣いてないが。
「食べながらでいいから聞いてもいいかしら。今はふたりだけなの?その、他のご家族は?」
兄貴の方は少しだけ落ち着いたのか、その後渡したバナナから口を離して話し始めた。
弟は、バナナ、ビスケット、ペットボトルとエンドレスで止まらないようだ。
「あ、あの、ありがとうございました。家族は……、父さんと母さんとひろみと俺の4人だけど、父さんはあの日会社に行ってから連絡取れないです。か、母さんは、母さんもパートにっ、行って、戻って、来ない…です」
あれ?ひろみ?弟だ思ってたけど女の子なのか?薄汚れていて性別不明だな。
「ひろみ…くん?ちゃん?」
キヨカも悩んだようで疑問系になっていた。
「ひろみは弟です。太平洋の洋に海で、洋海(ひろみ)。あ、俺は陸緒(リクオ)、大陸のリクに糸編に者でリクオ」
「僕は、カタカタでマルクです!12歳です! ヒロミは何歳?」
マルクに話しかけられた弟、洋海はおずおずと顔を上げた。
「僕は9歳……四年生」
マルクがひろみと話している間に、キヨカは陸緒と話を続けた。
「陸緒君、家には洋海君とふたりでずっと居たの?」
「はい。いえ、えっと避難所に居た事もあったんですけど、人がどんどん増えて、自宅がある人は戻ってくれって。それで戻ったんだけど食べるものが無くなってくるし、避難所でも分けてもらえなくて。それでネットでみつけて……」
「なるほど。お母さんのパート先はここから近い?」
「ええと、く、車だとそんなに遠くないかな。でも火山灰で道が無くなってて……、歩いて行くには洋海連れてだと無理だし」
「会社の名前はわかる?」
「あ、はい。会社じゃなくてパートなんだけど、ヨーカタウンです」
「ヨーカタウン? もしかして牛久南店かしら?」
「え、昨日行ったとこか?」
「そうです、ヨーカタウン牛久南! 行ったんですか? そこにお母さんいませんでしたか!」
「残念ながらそこには誰も居なかったわ」
一瞬明るくなった陸緒の顔がまた暗くなった。
「あの辺の近場の避難所に避難した可能性もあるな。あの辺りの避難所と連絡は取れるよな?聞いてみよう」
「そうですね。まずは連絡を入れて避難所にいるか確認をしましょう。陸緒くん、お母さんの名前を教えてもらえる?」
「はい、由紀子です。森市由紀子」
ヨーカタウンの近辺に避難所は2箇所あった。キヨカと手分けをして俺も連絡を入れた。
森市由紀子という人物が避難しているかを問い合わせた。確認して折り返すと言われたので、とりあえず4人で陸緒達の家へと移動した。
直ぐ近くの4階建てのマンションの4階だった。もちろんエレベーターは無く、階段だ。有ってもこの状態では動いてないだろうがな。
この辺りは電気が復活していないのか、部屋は窓からの灯りが頼りであった。
部屋の中は散らかっていた。母親が居なかったと言うのもあるだろうが、災害からゴミの収集車が来なくなりマンションの廊下や建物の外にもゴミの山がいくつも出来ていた。
部屋の中も台所や居間にゴミや脱いだ服が積み重なっていた。
そうだな、洗濯機も動かないのでは洗濯も出来まい。タンスにある服を次から次と着ていき、とうとう着替えが無くなった、というところだろうか。当然、風呂にも入ってないだろう。
キヨカと電話を待ちながら、今後について話す。
「一度、洞窟に連れていきたいな」
「そうですね。お風呂と診察と暖かい食事、それから落ち着いてご両親の捜索でも良いかも知れませんね」
「とりあえず避難所からの連絡を待って、その後一旦戻ろうか」
「ええ。あ、陸緒くん、お父さんの勤め先はわかりますか?」
「はい、あ、会社は……名前何だったかな、ええと、生命…会社とかだったかな。あんま興味なくてちゃんと聞いた事なかった」
「場所はわかる? いつもどこに通勤してたとか、電車だったら何線とか…」
「あ、僕わかる! 父さんはじょーばん線で新橋駅だよ、兄ちゃん」
「あ、そうだ! 母さんがよく言ってた。新橋はオヤジの飲み屋が多いって、父さんが遅い日は言ってたな。新橋の立ち飲み屋かって」
「おっ、オヤジさん、新橋なのか?俺が居たとこに近いな」
「カオさん、日比谷でしたね」
「地下鉄だと日比谷、JRだと新橋が最寄り駅だった。あの辺は保険会社がいくつかあったな。うちから近いとこだと保田生命か」
「あっ!ヤスダ、多分ヤスダ生命って言ってたかも!です」
父親の勤め先がわかった時にキヨカのスマホが鳴った。
キヨカが掛けた避難所には該当の人物は居なかったとの返事だった。程なくして俺のスマホも鳴ったので出た。
出たつもりが間違えて切るボタンを押したようだ。慌てていたらキヨカが掛け直してくれた。
「もしもし、すみません今ちょっとその、切れてしまって……はい、……はい。そうですか。ありがとうございました」
陸緒と洋海が俺をじっと見ていた。
「その、お母さんはそこの避難所には居ないみたいだな」
ふたりの顔がガッカリと曇った。その時、再び俺のスマホが鳴った。
よし、今度はちゃんと出るぞ、ここを横にプイっとするんだよな?
電話に出るとさっきの電話の人だった。
「もしもし、はい。はい……えっ、そうなんですか!ありがとうございます」
「どこからですか?」
キヨカは不思議そうに聞いてきた。洞窟メンバーなら念話やステータスからのメールを送るはず、俺がスマホを使うのは珍しいからな。
俺は陸緒達に笑いかけた。
「さっきの避難所からだ。お母さんの知り合いの人がそこに居てな、それでお母さんの場所がわかった」
そこまで話すと、ふたりの顔がくしゃりと歪み泣き出してしまい、俺は慌てた。
「あ、悪い、場所がわかっただけでそこに居るかはまだわからないんだ。お母さんは、あの日はそこのヨーカタウンには行かなかったんだそうだ。一緒に働いてたパートさんの話によると、あの日は他の店舗の応援に行ったそうなんだ」
「どこの店舗ですか?」
「筑波…山南店とか言ってた」
俺の言葉でキヨカとマルクが素早く地図を広げた。マルクはタブレットも出してネットで調べている。
「あ、キヨカさん、ここじゃないですか?」
キヨカがマルクのタブレットを覗き込み頷いていた。
「そうね。あら、拠点から結構近いわね。山の麓を東側に移動……うんうん」
「そこも店舗には人は居なかったですよね?」
「ええ、ここかここ、もしくはこっちの避難所をあたってみましょうか。本部に連絡先を聞いてみます」
キヨカはスマホを掛けている風を装い念話をした。
『すみません、こちらハケンの砂漠、キヨカです。救助者の母親がヨーカタウン筑波山南店で働いていたそうです。その近辺の避難所の連絡先をご存知の方、いらっしゃいますか?』
『地球の砂漠、タウロです。現在、各砂漠チームは外に出ていると思いますが、本部ルームに避難所の連絡先一覧があります』
『じゃあ一旦洞窟に戻るか。タウさん、救助者2名連れ帰っていいか? あ、ハケンのカオだ』
『ブッ、カオるん、それだと派遣のカオに聞こえるぞw』
『ミレさん、ちゃんとタマのミレ、と名乗れよ』
『誰が玉のミレだ! 埼玉の砂漠のミレです、以上!』
『オッケーです。連れ帰ってください。診療所への連絡を忘れないように』
ふたりを洞窟拠点に連れて帰る事になった。
「陸緒くん、洋海くん、私達の避難所が筑波山の麓にあるの。一旦そこに一緒に行きましょう? そこに居てもらってる間ににお母さんが居るかも知れない避難所に連絡をしてみます。……その、絶対居るとは言えないのだけど、どうかしら」
「僕、行きたい!それで一緒にお母さん探す!」
「…………あの、よろしくお願いします」
洋海の勢いに陸緒もつられたようだ。
「じゃあ陸緒くん、もしもお母さんかお父さんが行き違いに戻って来た時の為に、置き手紙を書いてもらいますね」
そう言うとキヨカはカンさんちの住所と自分のスマホの番号そ書いた紙を渡した。
「ここへはいつ戻れるかわからないから、大事な物やどうしても持って行きたい物をバッグに詰めてね」
キヨカは洋海に付き添って荷造りをしている。マルクは散らばっていた汚れた衣類を袋に詰めていた。
洞窟に持ち帰り洗濯をして再利用する為だ。マルクは陸緒から見えない場所で詰めた袋をアイテムボックスにしまっていた。俺も適当に色々とこっそりしまっていく。もしもここに戻るようならその時に返却する。
「そうだ、陸緒。父ちゃんの名前は何だ? そっちも調べるからな」
「あ、はい。父さんは郁夫です」
「おう、森……何だっけ?」
「森市郁夫です」
キヨカから念話が来た。
『カオさん、保田生命の連絡先を知っているのですか?』
『知らん。けど、あの隕石の日、職場周りをウロチョロしててさ、ブックマークした中に保田生命あるんよ。あとでちょっと飛んでみる』
『父さん、あの辺の人は眠らせて埼玉の陸地に置いて来たよね?』
『ああ。保田生命のビルに居なかったら、そっちのブクマも訪ねてみるつもりだ。マルク、悪いな。折角大仏に行ってもらう予定だったのに今日は無理そうだな』
『だいじょぶだよ、また行けるし、絶対に行こう?』
『そうですよ、大仏様は逃げませんから』
『あ、キヨカ、今日この後予定していた店舗での物資収集と午後の予定もちょっとズレそうだな。平気か?』
『問題ありません。タウロさんからは各血盟でプランを任されていますから』
『そっか』
「父さん、準備出来たー」
「おうよ。じゃあ馬車に乗って出発だ」
『マルクの馬一頭で、5人乗って大丈夫か?』
『平気! ウマオーは力持ちだから!』
『STRとエンチャアマをかけとくか。あ、マルク、シールドはかけるなよ。シールドかけるとカンさんのアーススキンが消えるからな』
『はーい。父さん、ウィズのシールドってヘナチョコだね? ちょっと悲しいね』
『そうだな』
「陸緒くん、洋海くん、乗ってください」
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