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151話 現実とゲームと④
しおりを挟む 道に近い家から子供や老人を連れて出てきた。怪我人も居た。
とにかく落ち着いて話を聞きたいのだが、キャンピングカーに乗せるには多すぎる。
ざっと数えて赤ん坊も入れると17人か。
「車より、一旦家の中へ入らせていただきましょうか。子供や怪我人が居たと言う事は室内は安全なのですよね?」
キヨカの言葉に、近くに居た男性が頷く。
「とうきびなら沢山ある、持っていってくれ、その代わりガソリン分けてもらえないか」
「はい。大丈夫です。それより建物の中へお邪魔させてください」
男性は頷き、家から出てきた人らを促して家の玄関へと向かう。カイホAは、車を家の前に付けますと言って運転席へと戻った。
自宅は多少荒れてはいたが、何かに襲われた感じは無かった。
とりあえず怪我人を尋ねるとさっきの包帯の男と、ズボンで見えなかったが足に包帯を巻いている男性も居た。
近くのソファーに座ってもらいヒールをかけた。
かけられた本人は何が起こったのかさっぱりわかっていなかったが、痛みが突然無くなった事に驚き、包帯の上から恐る恐る触っていた。
車を停めたカイホAも来たので話を聞いた。
隕石落下、津波の被害は無かった。多少の地震はあったが建物の被害もなく家族と家で暮らす事に問題は無かった。
ただひとつ、ガソリンの入手が出来なくなった。
北海道は広い、車が無いと移動ができない。そのためのガソリンは不可欠なのだ。
広い畑もガソリンが無いと、足で回れる範囲しか世話が出来ない。仕方なく近場の畑のみ世話をした。
本州のどこかで火山が噴火したらしいが、火山灰も毎日はらい落とせる程度であった。勿論、手が届かぬ遠方の畑はダメになった。
今は自分達が食べるのに困らない程度はある。が、冬が来たら。
電気が届かなくなった。理由はわからない。灯油の入手出来ない。このまま冬が越せると思えない。
畑の向こう(ここから見えないが)の家から2家族が集まった。残ったガソリンや灯油を持って来てくれた。
一緒に居た方が節約になると考えたからだそうだ。つまり今ここには3世帯が集まっているのか。
電話が通じなくなる前は、地元の消防団からの連絡も定期的にあったそうだ。
「ここら辺りはみんなそんな感じだ。隣の家が遠い。電話が通じなくて車も出せなくなるとどこも孤立だろ」
「そうだね」
「それどころか、どうなってるかもわからんよ」
「うちは志波田さんとこに早くに居させてもらって良かった。あんな怖い事……なぁ」
「怖い事? 何がありました?」
カイホBが先を促すと、何人かが顔を見合わせながらおずおずと話し始めた。
「信じてもらえないかも知れんが、木が……歩いてたのよ」
「本当だ、気持ち悪い、ズルっズルっと根っこ引きずってこっちに来た」
そして、何人かがこっちを振り返って、俺がヒールをした男性を見た。
「そんでその時近くに居た高橋のオッちゃんが弾き飛ばされて、そしたら茂吉が突っ込んでって、茂吉が蔓に巻かれて林の中へ……」
「わあああああん、わああああん、もぎぢぃぃ」
突然男の子が泣き出した。
えっ?茂吉……さんが、魔物植物に攫われたのか?
「あ、茂吉は涼くんが可愛がってた犬なんらわ」
あ、ああ、犬か。犬が魔物植物に攫われたのか。ま、まさか魔物植物って肉食……じゃないよな?
いや、どっちにしても許すまじ。イッヌを襲うとは許せん。
「それでその後に男達が何人かでナタとか持って奥の林に入ったけど、何か硬い物がビュンビュン飛んできて、怪我して戻って来たんだわ」
なるほど。やはりここらも魔物植物は居るのか。
「魔物植物は全国的に出現しているのでしょうかね」
カイホAの言葉にお爺さんが驚いた。
「東京にも居るんか、あの変な植物はぁ!」
「どうする?」
「どこに逃げたらいいの」
「とにかく街へ行こう、街のが移動しやすいだろ。そうだ、アンタら、東京からどうやって来た? 飛行機か? 札幌からか? そっちは電気通ってるか?」
「電話とかネットは繋がる?」
「人が多いとこなら避難所とかあるだろ」
皆が口々に喋った後、こちらの返事を待つように黙った。
「私達は、茨城の避難所から来ました」
「イバラキってどこだ?」
「爺さん、茨城は関東だよ。東京の上か横かその辺り」
「ええ、まぁ、関東…東京都の右横の千葉県の隣です」
「デスティニーランドの近くだ!千葉県ってデスティニーランドあるとこだよね!そこに避難しようよ、デスティニーランド行けるよ!」
いや、行けねぇよ。デスティニーランドは今、水の中だ。
とは言えない。子供の夢を壊してはいけない。
カイホBが口を開いた。
「飛行機は飛べません。富士山が噴火いたしました。他にも幾つかの火山が。本州は火山灰が酷い状態です。我々は……」
言葉を探しているようだ。
「私達はね、船で来たのよ。苫小牧からは車で、今外に止めてあるでしょ、あれで」
アネがサックリと答えた。
「あのねー、木が歩いていたでしょ。今どこも、世の中がヘンテコになってるの。こっちが今までの常識に縛られていると生き残れないのよ。それでね、これあげる」
アネがエントのミサンガを出した。
「あの歩く木ってこれを嫌うから、これを持ってると襲われないわよ、あ、はぁーん、疑ってもいいわよ。別に宗教でも教祖でもないから。あくまで親切でこれを渡すだけ。お金も取らないし宗教に入れとも言わない。ってか宗教でないからね」
そう言って差し出したミサンガに手を伸ばしたのは小学生くらいの男の子だった。茂吉?の飼い主の子だ。
アネはその子にミサンガを渡すと、その子に向かってさらに話を進めた。
「大人はどうせ古い常識に囚われて信じないだろうから、君が使いなさい。沢山ないからひとつしか渡せなくてごめんね」
アネに続くようにカイホAが続ける。
「我々は次の地点へ急いでいます。次の地点は千歳ですが、実際に行ってみないとどうなっているかわかりません。千歳に皆さんを連れて行く事は出来ません」
「でも、ここでは冬は越せない、連れて行ってください!」
「行った先で冬が越せる確証はないのですよ?」
「ここでは確実に越せないんですよ!」
「でも、食料や水はあるのに……」
「あの変な怪物が出るのでとうきびも碌に採れない!」
「さっきのミサンガがあれば大丈夫なのですが……」
「なぁ!頼むよ!車に乗れるだけでいい、連れていってくれ!子供や爺さん婆さんだけでも!」
「苫小牧の避難所もいっぱいでしたよね……」
「今、避難所はどこもいっぱいだろうなぁ」
救助一件目からこの状態か。確かにどこも切羽詰まっているだろうから仕方ないのだが、どうしたもんか。
俺たちの重要な仕事は『ブックマーク』だ。救助が必要な先は『救助チーム』を呼ぶ事になっている。
しかし、救助が必要か、と言われると悩む。
食料も住む場所もある彼らに必要なのは灯油やガソリンなのだ。それを俺たちは持っていない。
いや、車一台分くらいのガソリンを渡す事は出来るだろう、しかしそれではどうにもならないだろう。
彼らがそのガソリンで車に乗って避難場所を探したとして、果たして。避難所が見つかったとしてそこに入れるか、入れたとして、その避難所で食料や暖が取れる保証はない。
ぐずぐずしている時間が勿体ない。ここは俺が何とかしなくては!
「あの!聞いてください! ここは家があって食べ物も水もある。襲ってくる植物はさっきのミサンガを持っていれば近くにこない。この家の周りと畑くらいは大丈夫です! ここにとどまれない理由は『暖』ですよね。冬を越せる暖。薪ストーブや暖炉はありませんか?昔はどうやって暖をとってました?木は周りに沢山ありますよね」
何かを言い返そうとした人を爺さんが止めた。
「何とかなる。昔は何とかしてた。……ただ、薪は木を切って直ぐに使えるもんじゃねぇ。乾かさなくちゃならねぇ」
「では、薪があれば暫くは凌げますか?」
俺はアイテムボックスからよく乾燥させた木の枝を出した。
実は洞窟周りの倒してしまった木や枝を集めて置いていたのだ。杉田のジッちゃんちの空き地を借りていた。
火山灰を精霊に吹き飛ばしてもらった時に、乾燥出来るか聞いてみたら、サクッと乾燥してくれた。そしてアイテムボックスへしまって置いたのだ。カンさんちにあった薪ストーブを洞窟で使う時の薪に使おうと思った。
それから魔物植物を倒してシュワシュワっと縮んで消えた後に残った黒い石の様な塊。
これ、報連相を掛けたら何とドロップだった!
『魔物植物の核:最上質の炭、長時間燃え続ける、ひとつでかなりの暖かさ。火が着いた状態で核同士をぶつけると爆発する危険がある』
報連相を聞いたパーティ(当時はゆうご以外)が直ぐに飛んできて、見つけたら拾うように言われた。放置は危険。
それから、アイテムボックスから以前にホームセンターで集めた中に火鉢があったのを思い出して、それも取り出した。
火鉢の中に魔物植物の核をひとつポロンと置き、火をつけた。
うわ、あっつ。
思わず火鉢を家の外へ出して、家の門の外へ置いた。
「これ、近づくと火傷するから気をつけてくださいね。ここ線を引いておきます」
どれくだいの時間保つのか知らんが、とりあえず『熱い』から『暖かい』の間に線を引いた。
家の玄関は勿論、窓を開けると暖かさは家の中にも入ってくる。道路から家を挟んだ畑の方は春くらいの暖かさだ。
核が切れた時ように予備を渡すか悩んだが取り扱いが難しいのでやめておいた。
何が起こっているのかわからずに唖然としている状態の大人達を他所に、やはり元気なのが子供と老人だった。
今ここに居るのが若者だけだったら説得は無理だったが、何とかなりそうで良かった。
キヨカやマルクは、スマホの連絡先やラジオの周波数などを伝えていた。北海道の拠点造りが始まれば、通信が復活する可能性がある。
それから、乳幼児や子供の物で足りない物を女性から聞き出して箱詰めして渡していた。
俺たちはキャンピングカーに乗り込んで次のブックマーク先へと出発した。
車内ではテーブルで今回の事を話す。
「これから内陸部に入ると家が増えてきます。北海道の一番の問題はこの広さですね」
「そうだなぁ。集まるに集まれない、移動が厳しい。通信が通じないのとガソリンが無いのが問題だなぁ。そして冬か」
「でも、冬問題は、否の木やカラ魔ツを倒せばいいんじゃない?」
マルクはそう言うが、一般人に魔物植物退治は難しいだろう。かと言って俺たちには今、それをしている時間はない。
「そうだなぁ、けどブックマークもしないといけないしな…」
「だったらー、さっさとブックマークしちゃって、次は魔植倒しながら燃料配ればいいんじゃない? 両方いっぺんだとカオるんがぐるぐるするからねw」
「そうだよ!父さん!」
アネさんの言う通りだな。ぐずぐず考えるよりも、まさにソレが一番だな。
「よっし、スピードをあげてブックマークをするぞ!」
カイホAにスピードを上げてもらった。サッチョーさんは「法定速度がぁ」とか言っていたが、こんな時代に誰が気にするってんだ。
あ、一応、人を跳ねないようには気をつけてもらう。歩いている人は全くいないが。
「熊とか鹿はどうします?」
「急に出てきたら避けれないよな?」
「その辺は適宜で頼む」
タウさんらには念話でこの事を報告した。まず褒められてそれから少しだけ怒られた。
「こう言う時の為に『救助チーム』を用意しています。救助チームにその辺りをお任せする予定ですので、カオるん達はガンガンと進めてくださってかまいませんよ?」
そうか、そうだったのか。救助って名前だったから何か凄い状態の時にお願いするのかと思ってた。
「千歳です。皆さん降りてブックマークを」
「ブックマークは千歳駅でお願いします」
キヨカに言われた。チトセ駅…と。北海道は漢字が難しいのでほぼカタカナで想像しながら登録をしている。
トマコマイ、サッポロ駅中央口、ワッカナイ…オタル駅、チトセ。
漢字テストがあったら俺、0点取れる自信があるな。ト真子麻衣、殺歩路、輪っか内、小田流、血と背……。北海道、難しすぎるだろ!
マルクはキヨカに聞いて漢字で登録をしているようだ。……スン。いいんだ、息子は父を追い越していくものさ。
「千歳って書くんだー、それでちとせなの?すごいねぇ」
ほうほう、なるほど。聴き耳を立てていたがもうカタカナで登録したからな。変更はしない。
「次は千歳空港でここから直ぐです。皆さん乗ってください」
カイホAに言われて急いで乗車した。
チトセ空港も登録をした。出発した。
「次もそんなにかかりません。北広島駅です」
「北海道なのに広島?」
思わず声に出してしまったが、全国で同じ地名があっても別におかしくないか。銀座なんて各都市にあるくらいだからな。
「そうなんです。元は広島駅だったそうですが、広島県と区別を付けるために北を付けたそうですよ」
「めちゃくちゃ北だな……」
そんな話をしていた時、念話が入った。
フレンド登録の念話で、サンちゃん(自衛隊のサンバ)だった。
とにかく落ち着いて話を聞きたいのだが、キャンピングカーに乗せるには多すぎる。
ざっと数えて赤ん坊も入れると17人か。
「車より、一旦家の中へ入らせていただきましょうか。子供や怪我人が居たと言う事は室内は安全なのですよね?」
キヨカの言葉に、近くに居た男性が頷く。
「とうきびなら沢山ある、持っていってくれ、その代わりガソリン分けてもらえないか」
「はい。大丈夫です。それより建物の中へお邪魔させてください」
男性は頷き、家から出てきた人らを促して家の玄関へと向かう。カイホAは、車を家の前に付けますと言って運転席へと戻った。
自宅は多少荒れてはいたが、何かに襲われた感じは無かった。
とりあえず怪我人を尋ねるとさっきの包帯の男と、ズボンで見えなかったが足に包帯を巻いている男性も居た。
近くのソファーに座ってもらいヒールをかけた。
かけられた本人は何が起こったのかさっぱりわかっていなかったが、痛みが突然無くなった事に驚き、包帯の上から恐る恐る触っていた。
車を停めたカイホAも来たので話を聞いた。
隕石落下、津波の被害は無かった。多少の地震はあったが建物の被害もなく家族と家で暮らす事に問題は無かった。
ただひとつ、ガソリンの入手が出来なくなった。
北海道は広い、車が無いと移動ができない。そのためのガソリンは不可欠なのだ。
広い畑もガソリンが無いと、足で回れる範囲しか世話が出来ない。仕方なく近場の畑のみ世話をした。
本州のどこかで火山が噴火したらしいが、火山灰も毎日はらい落とせる程度であった。勿論、手が届かぬ遠方の畑はダメになった。
今は自分達が食べるのに困らない程度はある。が、冬が来たら。
電気が届かなくなった。理由はわからない。灯油の入手出来ない。このまま冬が越せると思えない。
畑の向こう(ここから見えないが)の家から2家族が集まった。残ったガソリンや灯油を持って来てくれた。
一緒に居た方が節約になると考えたからだそうだ。つまり今ここには3世帯が集まっているのか。
電話が通じなくなる前は、地元の消防団からの連絡も定期的にあったそうだ。
「ここら辺りはみんなそんな感じだ。隣の家が遠い。電話が通じなくて車も出せなくなるとどこも孤立だろ」
「そうだね」
「それどころか、どうなってるかもわからんよ」
「うちは志波田さんとこに早くに居させてもらって良かった。あんな怖い事……なぁ」
「怖い事? 何がありました?」
カイホBが先を促すと、何人かが顔を見合わせながらおずおずと話し始めた。
「信じてもらえないかも知れんが、木が……歩いてたのよ」
「本当だ、気持ち悪い、ズルっズルっと根っこ引きずってこっちに来た」
そして、何人かがこっちを振り返って、俺がヒールをした男性を見た。
「そんでその時近くに居た高橋のオッちゃんが弾き飛ばされて、そしたら茂吉が突っ込んでって、茂吉が蔓に巻かれて林の中へ……」
「わあああああん、わああああん、もぎぢぃぃ」
突然男の子が泣き出した。
えっ?茂吉……さんが、魔物植物に攫われたのか?
「あ、茂吉は涼くんが可愛がってた犬なんらわ」
あ、ああ、犬か。犬が魔物植物に攫われたのか。ま、まさか魔物植物って肉食……じゃないよな?
いや、どっちにしても許すまじ。イッヌを襲うとは許せん。
「それでその後に男達が何人かでナタとか持って奥の林に入ったけど、何か硬い物がビュンビュン飛んできて、怪我して戻って来たんだわ」
なるほど。やはりここらも魔物植物は居るのか。
「魔物植物は全国的に出現しているのでしょうかね」
カイホAの言葉にお爺さんが驚いた。
「東京にも居るんか、あの変な植物はぁ!」
「どうする?」
「どこに逃げたらいいの」
「とにかく街へ行こう、街のが移動しやすいだろ。そうだ、アンタら、東京からどうやって来た? 飛行機か? 札幌からか? そっちは電気通ってるか?」
「電話とかネットは繋がる?」
「人が多いとこなら避難所とかあるだろ」
皆が口々に喋った後、こちらの返事を待つように黙った。
「私達は、茨城の避難所から来ました」
「イバラキってどこだ?」
「爺さん、茨城は関東だよ。東京の上か横かその辺り」
「ええ、まぁ、関東…東京都の右横の千葉県の隣です」
「デスティニーランドの近くだ!千葉県ってデスティニーランドあるとこだよね!そこに避難しようよ、デスティニーランド行けるよ!」
いや、行けねぇよ。デスティニーランドは今、水の中だ。
とは言えない。子供の夢を壊してはいけない。
カイホBが口を開いた。
「飛行機は飛べません。富士山が噴火いたしました。他にも幾つかの火山が。本州は火山灰が酷い状態です。我々は……」
言葉を探しているようだ。
「私達はね、船で来たのよ。苫小牧からは車で、今外に止めてあるでしょ、あれで」
アネがサックリと答えた。
「あのねー、木が歩いていたでしょ。今どこも、世の中がヘンテコになってるの。こっちが今までの常識に縛られていると生き残れないのよ。それでね、これあげる」
アネがエントのミサンガを出した。
「あの歩く木ってこれを嫌うから、これを持ってると襲われないわよ、あ、はぁーん、疑ってもいいわよ。別に宗教でも教祖でもないから。あくまで親切でこれを渡すだけ。お金も取らないし宗教に入れとも言わない。ってか宗教でないからね」
そう言って差し出したミサンガに手を伸ばしたのは小学生くらいの男の子だった。茂吉?の飼い主の子だ。
アネはその子にミサンガを渡すと、その子に向かってさらに話を進めた。
「大人はどうせ古い常識に囚われて信じないだろうから、君が使いなさい。沢山ないからひとつしか渡せなくてごめんね」
アネに続くようにカイホAが続ける。
「我々は次の地点へ急いでいます。次の地点は千歳ですが、実際に行ってみないとどうなっているかわかりません。千歳に皆さんを連れて行く事は出来ません」
「でも、ここでは冬は越せない、連れて行ってください!」
「行った先で冬が越せる確証はないのですよ?」
「ここでは確実に越せないんですよ!」
「でも、食料や水はあるのに……」
「あの変な怪物が出るのでとうきびも碌に採れない!」
「さっきのミサンガがあれば大丈夫なのですが……」
「なぁ!頼むよ!車に乗れるだけでいい、連れていってくれ!子供や爺さん婆さんだけでも!」
「苫小牧の避難所もいっぱいでしたよね……」
「今、避難所はどこもいっぱいだろうなぁ」
救助一件目からこの状態か。確かにどこも切羽詰まっているだろうから仕方ないのだが、どうしたもんか。
俺たちの重要な仕事は『ブックマーク』だ。救助が必要な先は『救助チーム』を呼ぶ事になっている。
しかし、救助が必要か、と言われると悩む。
食料も住む場所もある彼らに必要なのは灯油やガソリンなのだ。それを俺たちは持っていない。
いや、車一台分くらいのガソリンを渡す事は出来るだろう、しかしそれではどうにもならないだろう。
彼らがそのガソリンで車に乗って避難場所を探したとして、果たして。避難所が見つかったとしてそこに入れるか、入れたとして、その避難所で食料や暖が取れる保証はない。
ぐずぐずしている時間が勿体ない。ここは俺が何とかしなくては!
「あの!聞いてください! ここは家があって食べ物も水もある。襲ってくる植物はさっきのミサンガを持っていれば近くにこない。この家の周りと畑くらいは大丈夫です! ここにとどまれない理由は『暖』ですよね。冬を越せる暖。薪ストーブや暖炉はありませんか?昔はどうやって暖をとってました?木は周りに沢山ありますよね」
何かを言い返そうとした人を爺さんが止めた。
「何とかなる。昔は何とかしてた。……ただ、薪は木を切って直ぐに使えるもんじゃねぇ。乾かさなくちゃならねぇ」
「では、薪があれば暫くは凌げますか?」
俺はアイテムボックスからよく乾燥させた木の枝を出した。
実は洞窟周りの倒してしまった木や枝を集めて置いていたのだ。杉田のジッちゃんちの空き地を借りていた。
火山灰を精霊に吹き飛ばしてもらった時に、乾燥出来るか聞いてみたら、サクッと乾燥してくれた。そしてアイテムボックスへしまって置いたのだ。カンさんちにあった薪ストーブを洞窟で使う時の薪に使おうと思った。
それから魔物植物を倒してシュワシュワっと縮んで消えた後に残った黒い石の様な塊。
これ、報連相を掛けたら何とドロップだった!
『魔物植物の核:最上質の炭、長時間燃え続ける、ひとつでかなりの暖かさ。火が着いた状態で核同士をぶつけると爆発する危険がある』
報連相を聞いたパーティ(当時はゆうご以外)が直ぐに飛んできて、見つけたら拾うように言われた。放置は危険。
それから、アイテムボックスから以前にホームセンターで集めた中に火鉢があったのを思い出して、それも取り出した。
火鉢の中に魔物植物の核をひとつポロンと置き、火をつけた。
うわ、あっつ。
思わず火鉢を家の外へ出して、家の門の外へ置いた。
「これ、近づくと火傷するから気をつけてくださいね。ここ線を引いておきます」
どれくだいの時間保つのか知らんが、とりあえず『熱い』から『暖かい』の間に線を引いた。
家の玄関は勿論、窓を開けると暖かさは家の中にも入ってくる。道路から家を挟んだ畑の方は春くらいの暖かさだ。
核が切れた時ように予備を渡すか悩んだが取り扱いが難しいのでやめておいた。
何が起こっているのかわからずに唖然としている状態の大人達を他所に、やはり元気なのが子供と老人だった。
今ここに居るのが若者だけだったら説得は無理だったが、何とかなりそうで良かった。
キヨカやマルクは、スマホの連絡先やラジオの周波数などを伝えていた。北海道の拠点造りが始まれば、通信が復活する可能性がある。
それから、乳幼児や子供の物で足りない物を女性から聞き出して箱詰めして渡していた。
俺たちはキャンピングカーに乗り込んで次のブックマーク先へと出発した。
車内ではテーブルで今回の事を話す。
「これから内陸部に入ると家が増えてきます。北海道の一番の問題はこの広さですね」
「そうだなぁ。集まるに集まれない、移動が厳しい。通信が通じないのとガソリンが無いのが問題だなぁ。そして冬か」
「でも、冬問題は、否の木やカラ魔ツを倒せばいいんじゃない?」
マルクはそう言うが、一般人に魔物植物退治は難しいだろう。かと言って俺たちには今、それをしている時間はない。
「そうだなぁ、けどブックマークもしないといけないしな…」
「だったらー、さっさとブックマークしちゃって、次は魔植倒しながら燃料配ればいいんじゃない? 両方いっぺんだとカオるんがぐるぐるするからねw」
「そうだよ!父さん!」
アネさんの言う通りだな。ぐずぐず考えるよりも、まさにソレが一番だな。
「よっし、スピードをあげてブックマークをするぞ!」
カイホAにスピードを上げてもらった。サッチョーさんは「法定速度がぁ」とか言っていたが、こんな時代に誰が気にするってんだ。
あ、一応、人を跳ねないようには気をつけてもらう。歩いている人は全くいないが。
「熊とか鹿はどうします?」
「急に出てきたら避けれないよな?」
「その辺は適宜で頼む」
タウさんらには念話でこの事を報告した。まず褒められてそれから少しだけ怒られた。
「こう言う時の為に『救助チーム』を用意しています。救助チームにその辺りをお任せする予定ですので、カオるん達はガンガンと進めてくださってかまいませんよ?」
そうか、そうだったのか。救助って名前だったから何か凄い状態の時にお願いするのかと思ってた。
「千歳です。皆さん降りてブックマークを」
「ブックマークは千歳駅でお願いします」
キヨカに言われた。チトセ駅…と。北海道は漢字が難しいのでほぼカタカナで想像しながら登録をしている。
トマコマイ、サッポロ駅中央口、ワッカナイ…オタル駅、チトセ。
漢字テストがあったら俺、0点取れる自信があるな。ト真子麻衣、殺歩路、輪っか内、小田流、血と背……。北海道、難しすぎるだろ!
マルクはキヨカに聞いて漢字で登録をしているようだ。……スン。いいんだ、息子は父を追い越していくものさ。
「千歳って書くんだー、それでちとせなの?すごいねぇ」
ほうほう、なるほど。聴き耳を立てていたがもうカタカナで登録したからな。変更はしない。
「次は千歳空港でここから直ぐです。皆さん乗ってください」
カイホAに言われて急いで乗車した。
チトセ空港も登録をした。出発した。
「次もそんなにかかりません。北広島駅です」
「北海道なのに広島?」
思わず声に出してしまったが、全国で同じ地名があっても別におかしくないか。銀座なんて各都市にあるくらいだからな。
「そうなんです。元は広島駅だったそうですが、広島県と区別を付けるために北を付けたそうですよ」
「めちゃくちゃ北だな……」
そんな話をしていた時、念話が入った。
フレンド登録の念話で、サンちゃん(自衛隊のサンバ)だった。
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【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
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