魔界コンサルタント【アスナト】

愛笑屋(うれしや)

文字の大きさ
4 / 4

最終話

しおりを挟む
「うちの息子が君の店で買った魔剣だがね、これは巨匠オーディンが打った魔剣を復元したモノと聞いていたが?」

 蛇族は狼狽《うろた》えている。

「そ……それを私のお店で買ったと言う証拠があるのかしら? 会長まで連れてきて、とんだ言いがかりですわ」

「でしたらこれはどうですか?」
 
 そこに映るのは蛇女が偽の魔剣を成型するところだが、それはどう見ても青銅《ブロンズ》製の剣だった。

を誤魔化す為に込めた魔法から読み取った映像《ヴィジョン》です。これでもまだ言い訳しますか?」

「そ……そんなのしたに決まっていますわ」

「いい加減にしたまえ!」

 会長の怒声で一気に静まり返る

「ハロー効果のボロが出たな」

「ハロー効果?? なんだよそりゃ?」

「一部の特徴に引きずられて全体の評価をしてしまう効果のことさ。お客はその紋章が付いてるのなら、まず間違いなく巨匠オーディンがと思い込む」

「そんなの詐欺じゃねぇか」

「ああ、こいつらのやり口はこうだ。まず最初の段階で坊ちゃんを選定したら、会員証を渡しVIPルームに案内する。魔剣を選ばせ、倍化魔法をかけておだてりゃ、勝手に人間界に行くってことだな」

「1が倍になったところで変わりませんからね、その後で残った紋章を回収して、同じ手筈で偽の魔剣を作る。これが"無料研ぎ"のカラクリです」

「魔都の中心で商売をしなかったのも、本部《セントラル》の魔界警察に目を付けられたくなかったからだろう? 支部の魔界警察はあまりじゃないからな」

 サイレンが遠巻きに聞こえる。

「魔界警察には通報済みだ。大人しくお縄につきな」

 魔界警察が現れ一気に包囲する。

「オーホッホッホ。私がを選んだ本当の理由をわかってないようですわね」

「おいこれって……」

 しかし、魔銃を向けられ包囲されているのは俺達の方だった。

「この辺の魔界警察は本部《セントラル》のエリート集団に出来損ないのレッテルを貼られて|ここに飛ばされて来たのです。私はそんな方々に私を守るという目的を与えてあげましたのよ」

「えっと、何でしたっけ?」

「ゴーレム効果だ。誰にも期待されないとモチベーションが下がるっていうあれだな。魔界警察だって魔族さ……呪文《ことば》一つで泥人形《デク》にも有能にもなれるってことだな」

「じゃ、やっちゃいましょうか」

「待て」

 構えるレヴィを静止させる

「てめぇらは何のために魔界警察になった!? 蛇女を守るためか? 違うだろ!? 魔界の治安を守るためだろうが! だったらてめーらの正義見せやがれ!!」
 
 魔弾が俺たちに向かって放たれる。

「ちっ! 結局こうなるのかよ」

「やはり魔力《チカラ》こそパワーですから」

「わかったよ。炎魔法ゾネシュヴァルツェ!」

「ウソ……でしょ 魔弾を一瞬で焼き尽くすなんて、こんな業火見たことない……」

「ぷぷぷ。あれがですって……」

「フ……闇夜を照らすの間違いだろう?」
 
 驚きのあまりその場の全員が口をさせたまま身体を硬直させている。

「最初にと聞いた時にわかりませんでしたか? 単純な"asnat⇔satanアナグラム"なんですけどね」

 漆黒の翼を生やしたレヴィのその言葉を聞いた蛇女は、みるみる青ざめていく。

「ま……魔王様! そ……それに魔王軍統括指令レヴィアタン様! とんだご無礼をっっ!!」

「反省は冥府《タルタロス》でされよ。さてにもう一度聞く。このままこの女を守るのか? それとも魔界の治安を守るのか?」

「「「「とんだご無礼を致しました!!」」」」

 俺は魔力《チカラ》を解きの姿に戻る。

「魔力《チカラ》比べで負けたからって凹《へこ》んでんじゃねーよ。魔力にはそれを活かせる魔法《個性》があんだろうが。しゃきっとしやがれ」

 蛇女達を連行していく魔界警察。

「じゃあ、改めて今大会の優勝者を言ってもらおうか」

「と言っても共犯だった運営はいませんけどね」
       
「それなら私がその代わりを務めよう。第8回MM-1グランプリ優勝者は……リザードマン!」

 会長が壇上にあがりの優勝を高らかに宣言する。

「よっしゃあぁぁ!」

「因みにゴブリンに褒美をやって悪戯を唆《そそのか》した元凶もあの蛇女だぜ」

「だろうな……でも、変じゃねぇか? 報酬を与えたらアンダーなんちゃらでやる気は喪失するんだろ?」

「いや、蛇女は"義務"を感じさせなかったんだよ。ゴブリン達が悪戯をもっと楽しめるようにと、褒美に封印魔法を覚えさせた。これが"エンハンシング効果"だ」

「やっぱあんたには適わなぇな。よし……決めたぜ! 今回の分け前はあんたが最初に言った通り半々にしようじゃねぇか」

 俺が魔王だと知っても態度を変えない。
 そんな裏表のない店主が初のお客で俺は誇らしく思う。

「どういう心境の変化なのかは知らないが、お前のその感情は俺が魔族心理を利用しているのかもしれないぜ?」

「得意のなんとか効果か? それならそれでいいぜ! あんた……いや、俺は魔王を気にいったんだよ」

「それなら、俺もお前みたいな権力に迎合しない奴大バカ野郎のことを気にいったから俺達の取り分は変わらず20%だな。それに俺は俺の流儀を買ってくれたお前に感謝してるんだぜ」

 こいつは俺が何かの魔族心理を利用してんじゃないかという猜疑心がありながらも、自分にとって利のない提案をしてきた。
 そういう魔族同士の信頼や想いやりが商売屋……いや、今の魔族にとって一番大事なのかもしれないな。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...