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10※性描写有り

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 着替えを取りに寝室へ行ったとき、枕元から少しはみ出たゴムに気付いた。準備のいいことだと苦笑する。二十六歳といえば、やりたい盛りだろう。俺もまだ清い交際を、と焦らすような年齢でもない。睦さんと別れてから付き合った人はおらず、行為目的で数回だけ会った人もいたがなんとなく合わなくてやめた。それももう二年程前になる。歳上の俺がリードした方がいいのだろうか。いや向こうに任せた方がいいのか。
「めんどくせぇ…」
 どちらにしてもいい大人だ。なんとでもなる。そう考えて風呂場へ向かった。


「清さん、大好きですよ」
 想像以上に彼との行為は気持ち良く、それに気付かれるのは癪で、誤魔化すため家ではやめていた煙草を吸っていると彼が言った。告白してきたときは単に好意があったから了承したが、ホテルで助けに来てくれたあのとき、完全に惚れたのだ。いつも裏表がなく真正面から気持ちを伝えてくれる彼が愛しいと思う。
「──俺も」
 素面で伝えられる精一杯の言葉だ。それだけで彼は心底嬉しそうに抱き着いた。
「火、危ないだろうが」
「だってだって嬉しくて」
 頬にキスされ器用に俺と彼の煙草を取り上げ火を消すと上目遣いで俺を見る。抱き締めていた手が下着の中に滑り込んだ。
「あっ、」
 先程までの行為のおかげですんなりと指が体内に侵入する。
「清さん、もう一回しましょ?」
 耳元で囁かれ耳を甘噛みされると力が抜けた。既に硬くなっている彼のペニスに驚いた。腰を支えられたままぐりぐりと弱い所を責められ殺しきれない声が漏れる。
「ね、だめ?」
「──っ連れてけっ…んんッ」
 答えると指が引き抜かれた。そのまま抱えられベッドへ向かった。俯せに寝かされ枕元のゴムを取り出しさっとつけると後ろから貫かれる。背中を舐められるとびくりと体が跳ねた。後ろから乳首とペニスを触られ目がチカチカした。
「あぁっ…あ、あ、ん、ふ」
 シーツを噛み快感に抗うがそう長くは続かず八尋の手の中に射精した。尚も腰を打ち付けられ頭がおかしくなりそうだ。
「まっ、やひっ…あぅ、ひっ──」
「清さんっ、可愛い、好き…」
 彼の声が頭に響く。気持ち良過ぎて何も考えられない。思考が白く塗り潰されていく。
「あ、いくっ…!」
 ぶるぶると体を震わせて達した俺は意識を手放した。


「あ、おはようございます」
 目を覚ますともう外は明るかった。びっくりして飛び起きると腰がずきずきと痛む。
「──っ」
「すみません、調子に乗っちゃって…」
 へらりと八尋が笑う。綺麗に体が拭かれベッドも整えられており情けなくて俺は両手で顔を覆った。
「何時だ」
「八時過ぎです」
 大きく溜息を吐くと台所へ向かい煙草に火を点けた。
「…怒ってます?」
「怒ってねぇよ」
 怒ってはいないが自分の情けなさに溜息が出た。いい歳してなんてザマだ。
「…朝飯、フレンチトーストでも食うか?」
「はい、いただきます!」
 恐々こちらを見ていた彼は笑顔でこちらに寄ってきた。まさに昔飼っていた犬そっくりで、つい口元が緩んだ。
「今日はなんか予定ありますか?」
「お前はなんか足りない物とかないのか」
「特にない…と思います。仕事の用意も全部持ってきてるし」
「じゃあ今日は何もねぇ。家にいる」
「了解しました!」
 少し遅めの朝食を取り洗濯と掃除を分担して終えると特にすることもなく、家にあったDVDを観たりしてその日は終わった。



 お試しの一週間はあっという間に過ぎた。お互い変に気を遣うこともなく自然体で過ごせたと思う。平日は清さんの方が少し遅くなるので俺が家に着くと洗濯を取り込んだり簡単に掃除をしたりして、彼が帰ると夕飯を作ってもらい一緒に食べた。彼の負担を考え平日はキスだけして並んで眠った。だから当たり前にこの生活をずっと続けられると思っていた。
 その後週に一回は一旦荷物を取りに戻って自宅で過ごしたりもしながら彼が危ない目に遭うこともなく一ヶ月程過ぎた頃、俺は言った。
「清さん、もうずっと一緒に住みませんか?」
 当然了承してくれるものと思っていたが、答えはノーだった。
「何でですか? 俺なんか嫌なことしました?」
「別に一緒に住むのが嫌な訳じゃないが、同棲するとなると親御さんに挨拶もしなきゃいけねぇだろ」
 親に挨拶、とは。
「一緒に住むだけだし別に挨拶なんて…」
「あのなぁ。勝手に誰とも知らんおっさんと住んでるなんて知れたら連れ戻されるぞ」
「そんなこと…」
 確かに俺の親は今時頭が固く、昔から結婚は異性としか許さないと言っていた。同棲したいと八歳差の彼を連れて行けば反対は必至だろう。
「でももうほとんどこっちにいるし…」
「…これも本当はよくないとは思ってる」
「じ、じゃあ引越ししなくていいです。今のままこうやって泊まらせてもらえたら…」
 とりあえずはそうするしかない。俺は軽く考え過ぎていたようだ。清さんはちゃんと考えてくれていたのに。
「…わかった」
 彼は項垂れる俺の頭を撫でてくれた。


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