忘却の召喚少女は次代魔王候補のヒロイン候補に言い寄られています

キャラ☆めり〜ぜ

文字の大きさ
12 / 12
第ニ章

魔法学院の王子様とヒロイン候補(4)

しおりを挟む
 時間はカロンがパンテレイモンに連行される少しだけ前に遡る。

 魔法学院の中等部と高等部を繋ぐ職員棟の学院長室の扉が控えめに叩かれ、部屋の主である銀髪の老婦人の老いてもなお、まだ煌めくような光を宿した金眼が扉のほうに向けられ、、来訪者が何者であるのか分かった上で嬉しそうに返事をする。
「はい。どうぞ」
 ウェーブした長い桃色の髪に赤いカチューシャをし、特徴的な大きなセーラー襟の白黒の魔法学院中等部の制服に身を包んだ少女がスカートをちょこんと摘んで挨拶をする。
「お久しぶりですわ。お祖母様」
「入学おめでとう。エリザ」
 美しく成長した孫娘エリザの晴れ姿に魔法学院院長マリア・シルバニアは孫娘とお揃いの金眼を優しく細めた。
「ありがとうございます。全てお祖母様のお陰ですわ。わたくし、この日を心待ちにしていましたの」
「心配せずともエリザの慕う御方とは貴族同士パンテレイモンが担当するクラスになるというのに、わたしに念押しして魔王様の子供二人と同じクラスにして欲しいと頼むから何事かと思ったよ」
「……ええ、その、あの二人とは初顔合わせから上手くいかなくて……」
「ああ、そうかい。すまないね。本来、シルバニア本家当主であるわたしがあの晩餐会に一緒に出席できれば良かったのかもしれないのに、あの時期、魔獣に襲われた村の調査とオルト山脈に棲む魔獣たちを警戒して学院から離れる訳にはいかなかったからね」
「お祖母様は謝らないでください。お祖母様が野生の魔獣が棲むオルト山脈の麓にあるこの学院を守らなければならない御立場である事はわたくしも理解しておりますわ。貴重な顔合わせの度にいつも素直になれなくて高飛車な態度をとってしまって二人と不仲なのはわたくし自身のせいですもの……」
「エリザ……」
「だから、お祖母様に頼んでいつも一緒ならあの方と仲良くなれると思ってお願いしましたの」
「そうかい!」
 職権濫用に当たるかもしれないが、マリアは思い悩む愛しい孫娘の綺麗な笑顔が見れるなら、手回しした甲斐があったと喜んだ。
 婚約者であるゼノンとの初顔合わせだった平和記念晩餐会で、魔王の娘として紹介された婚約者の義妹カロンを故意はなく、誘惑フェロモンにより意識を失わせた事をエリザはとても悲しんでいた。
 それ以来、ゼノンはカロンを大事にしており、貴族の集まりではいつも二人はべったり一緒で、ゼノンはエリザに対して冷たい態度をとっている。
「魔王妃になるのが、わたくしが果たさなければならない役目ですもの。あの二人と仲良くなれるよう努力をしているつもりなのですけど、上手くいきませんわ」
「大丈夫さ! エリザはこんなに可愛いんだから、王子様もいつかエリザの事を好きになってくれるさ!」
「お祖母様……。わたくし、お祖母様が一番大好きですわ!」
 頭を優しくぽんぽんと撫でるマリアにエリザは抱きついた。
「わたしの可愛い孫はお前一人だからね。パーニャもいつまでも独身を貫かず、貴族の分家の娘と結婚して孫の顔を見せてくれてもいいのに、理想の女性は聖女様なんて言うから困った子だよ」
 マリアは溜息を吐いた。
「え……? パンテレイモン叔父様の理想の女性は聖女なのですか?」
 エリザは怪訝な顔をしてマリアの瞳を見つめた。
 コンコン!
 扉を叩く音にマリアは反応し、扉のほうに手を翳すと、扉に魔法陣が現れて、扉の前に魔法学院中等部の制服を纏った黒髪に紫水晶の瞳の少年が立っているのが、部屋の中にいる二人には透けて見えた。
 エリザはマリアの傍から少し離れる。
「入ってらっしゃい」
 マリアは扉の向こうにいる少年に声を掛けた。
「失礼します。学院長。……エリザ?」
 入室して来たゼノンは予想外の人物がいた事に目を見開いた。
「お久しぶりですわね。ゼノン様。ここの学院長がわたくしのお祖母様だという事は御存知でしょう? わたくしがお祖母様に挨拶にここに来てもおかしくないでしょう?」
 高飛車な態度でエリザがそう言うと、ゼノンは「成る程」と言って大して興味がないように相槌を打って、マリアのほうに視線を向けた。
「何よ、婚約者のわたくしに対して素っ気ないですわね……」
 祖母の前だからか、エリザは大人しく小さな声で悪態をついた。
「ゼノン王子。どんな用件であなたがわたしのところに来たのかしら?」
 マリアは凛とした態度でゼノンに質問した。
「先程、魔法学院の正門に続く並木道で、俺の義妹のカロンが、アカイン本家次男アレクサンドルが放った火球を魔獣で防いだ事でパンテレイモン先生に連行されて行きました。あの並木道はシロノワールの領地です。すぐにカロンを釈放していただきたい」
「話は分かりました。いいでしょう。それにしても問題を起こしたのは、またアカイン本家の子息ですか……」
 マリアは溜息を吐いた。
「わたくしの剣になりたいとか言ってた癖に、わたくしが朝の迎えを断ったら、事件を起こして! あのお馬鹿は何をやっているんですの⁉︎」
 エリザは厳しい顔つきで、婚約者が出来てもエリザの事が未だに好きだと言い続け、学院への朝の迎えを申し出た赤い髪の従兄弟の顔を思い出し、罵った。
「その馬鹿も連行されてる」
 ゼノンはエリザをちらりと見遣り、溜息混じりに、そう言った。
 アカイン本家の当主と分家の純血の母親との間に、その次男として生まれてきたアレクは純血の魔族ではあったが、金眼ではなく、父親であるアスモデウスから冷遇されていた。
 そんなアレクが初めての貴族の集まりで出会ったエリザに告白した事は貴族たちの間では微笑ましい出来事として有名だった。
 貴族の間では従兄弟同士で結婚する事は珍しくない。
 少なからず、アカイン家とシルバニア家の関係者は二人が将来結婚するものだろうと誰もが思っていた。
 それが、ゼノンが十歳の誕生日を迎える前日に、本人たちの意思も訊かず、貴族院でゼノンとエリザの婚約が正式に決まったのだ。
 それ以来、アレクはゼノンの婚約者として振る舞うエリザに好きだと言っても拒否されて、ゼノンを恋敵として、色々と対抗してくるようになった。
 ゼノンはエリザに興味がないのにだ。
 おまけに最近はゼノンの弱点といっても過言ではないカロンにまで因縁をつけてくる。
 ゼノンからしたら、ただの迷惑だった。
「従姉妹のわたくしに恥をかかせて! アレクもあの子と一緒の場所にいるのでしょう? 文句のひとつでも言ってやりませんと気が収まりませんわ!」
 エリザがそう叫ぶ向こうで、院長室の机の上に魔道具である通信電話の受話器を片手にマリアは誰かと会話をしている。
「新任早々悪いね。院長室まで迎えに来ておくれ」
 がちゃりと受話器を置くと、すぐに院長室の扉が叩かれた。
「入りなさい。ルビィ先生」
 マリアがそう言うと、「失礼します」と控えめな声がして、黒いローブに身を包んだルビィが扉を開けて現れた。
「あまり時間がないからね。反省室への案内を頼むよ。ルビィ」
 マリアはふわりとルビィに微笑む。
「はい。二人共ついて来て」
 ルビィは軽く頷いて、新入生であるゼノンとエリザに視線をやり、指示した。
「ちょっと! あなた! 貴族であるわたくしに挨拶も何の説明もしないで命令するなんて失礼じゃなくて⁉︎」
 突然現れ、ルビィの素っ気ない態度に不満を口にしながらも、ゼノンがエリザの方に手を置いて促した為、エリザは黙ってルビィについて行き院長室を出て行こうとした。
「王子様はちょっとお待ち」
 マリアはゼノンを呼び止め、机の引き出しからの中から一枚の何も書かれていない紙を手渡した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...