129 / 197
1000年目
21 お茶 ※チヒロ
しおりを挟む※※※ チヒロ ※※※
【これを……テオが私に?】
ルミナちゃんは恐る恐るといった感じで箱の中身を持ち上げた。
一族の代表者――テオのご両親と二人の男性から感嘆の声があがる。
【それは……髪飾り?だが見たことがない。どうやって作られている?】
テオのお父さんが言った。
その表情が、同じようにつまみ細工を初めて見た時のテオに似ていてつい笑ってしまう。
【それはつまみ細工という手法でできています】
【《ツマミザイク》?】
【ええ。私が教え、テオが作った物です】
【テオが?】
ルミナちゃんが私と髪飾りを交互に見る。
【そうだよ。それはテオがルミナちゃんのために作った物なの】
一輪の、大きな花の髪飾りだ。
ヒダの多い華やかな花びらが幾重にも重ねられ作られた薄紅色の花。
色は中心が濃く、外へ向かうほど淡くなるよう染められている。
結婚祝いでアイシャに贈った髪飾りの花とは違う花びらの折り方で出来ている。
より難しい折りとなっているのだが、教えればテオはそれをすぐに覚えた。
でも花に仕上げるのは難しかったらしい。納得がいかず作りなおしていた。
何度も、何度も……
そうやって作り上げた物が今、ルミナちゃんの手の中にある。
ルミナちゃんは髪飾りを愛おしそうにそっと胸に抱いた。
その目には涙が浮かんでいる。
いい子だ!
テオは見る目がある。
【他にも箱の中に入っているでしょう?】
【他にも?】
ルミナちゃんはもう一度箱の中を見て、手紙と細長い包みを取り出した。
手紙は髪飾りと一緒にいったん丁寧に箱に戻し、細長い包みをあける。
中から出てきた物を見て、首を傾げた。
【これは?】
【ピンセットっていうの。――それで薄い布を摘んで折って。
そうしてその髪飾りを作るんだよ】
【これで?】
【そう。それもテオが作ったの。
《ルミナは絶対、自分でも作ってみたいって言うだろうから》って】
【―――】
【《作りたいと言ったら教えてやって欲しい》って言われたけど。どうする?】
【――っ作りたい】
【やっぱり?】
【はい……あの。教えていただいてもいいですか?】
【もちろんよ】
泣き出したルミナちゃんをテオのお母さんが抱きしめた。
テオのお父さんもルミナちゃんに寄り添う。
あたたかい人たちだ。
ルミナちゃんは身体の弱いお母さんとの二人暮らし。
お父さんと弟を失って以来、テオのお父さんが後見人をつとめていると聞いた。
ドアがノックされ、声がかかる。
【よろしいですか?お茶をお持ちしたのですが】
【ああ】と、テオのお父さんが人を招き入れる。
男性が入ってきた。
手にしたお盆には……湯呑み――取っ手のないカップがいくつかのっていた。
目が釘付けになる。
視線を感じたのか、お盆を手にした男性がすまなそうに言った。
【すみません。なんのおもてなしもできませんが、お茶を】
【とんでもない。私たちが突然押しかけたのに。ありがとうございます】
私は受け取った湯呑みを見つめる。
《お茶》だと言う。
だけど……これは―――――
湯呑みの中で。
《お茶》だと言われた飲み物は、微かだけど黒く光っていた。
息をのむ。
気を落ち着かせてから問う。
【あの、このお茶はどこから?】
テオのお父さんから答えがあった。
【私たちが普段から飲むお茶で。この山に生えている木から作っていますが】
【その木、見せていただいてもいいですか?】
【ええ、もちろん。構いませんよ。ただ少し距離がありますので。
明日でどうでしょうか。部屋を準備させますので】
【部屋?】
【ええ。《植物の調査》にいらしたのでしょう?テオの手紙にありました。
テオから貴女方の《手伝いをして欲しい》と。
もちろん協力いたしましょう。
たいしたおもてなしはできませんが、調査の間はどうぞここへお泊まりください】
◆◇◆◇◆
「ここへ泊めてもらう?!駄目です!」
―――だよね
話を聞いたセバス先生はやはり反対した。
その顔を見れば《この高山にとどまること》がどれだけ《危険》だと思っているのかがわかる。
やっぱり私の読みはあたっていたみたいだ。
でも、と私は食い下がった。
「でも毎日ここまで往復するのは大変だよね。
それに、いくら地元の御者が乗っている幌馬車でも毎日通えば人目につくようになる。
そちらの方が《危険》じゃない?」
「チヒロ様……」
セバス先生は目を見開いた。
この高山を管理するダザル卿をレオンとシンが信頼していないこと。
《危険》な人物だとさえ思っているのだろうこと。
そして私はそんなダザル卿に決して見つかってはいけないのだということ。
それを私が察していることに気付いたのだろう。
私はたたみかける。
「テオのお父さんは私たちが高山に入った初日から、私たちの存在に気付いていたそうよ。
何をしに来たのか様子を見ていたって。三日も続けて来たので声をかけたって。
この高山に《誰か》が入れば彼ら一族が気付く。
彼らといて、協力してもらうのが一番安全だと思う。
あ、服も貸してくださるって。
今、どこに住んでいるのかすらわからない、誰もよく知らない一族よ?
簡単に一員になりすませる。どうかな。
それでもコドリッド伯のお屋敷と行き来する方が安全だと思う?」
「…………」
セバス先生は考え込んだ。
その後ろで《人攫い》が笑った。
「観念しましょうよセバス様。お嬢様の言う通りじゃないですかあ」
「お前……」
「セバス様だって気付いているでしょう?あの男たち、結構やりますよ。
なんせ生まれたばかりの赤ん坊から老人まで。
一族全員を守って《ここ》にいるんですから」
《人攫い》のそのひと言で、お世話になることが決まった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる