私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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13 疑問だらけ




ネイトは自室で一人、頭を抱えていた。


主人マティアスが結婚を申し込むと言った女性なのだ。
マティアスの執事ネイトがスカーレットを調べていないはずはない。

すでに一年と数ヶ月前。
ネイトはスカーレットのことを当然、調べた。
もらった釣書に嘘がないかも確認した。


父親の爵位はマティアスと同じ。
歳はマティアスの三歳下。

家族は両親と二歳下の妹。
社交には滅多に顔を出さない。

父親を支え、領地に多くいて領地経営をしているというスカーレットは
主人マティアスと執事のネイトが人に聞いても《よく知らない》と言われるような令嬢らしからぬ令嬢だった。


それが全く気にならなかったわけではない。


だが、たとえば主人マティアスのことを人に聞いたとして。

王都にいても好んで社交に顔を出す方でない。
跡継ぎの長男に隠れた目立たない二男。

同じように《よく知らない》と言われるだろう。
そう考えれば、問題はないとネイトは思った。

《きっとあまり人の印象に残らない、大人しく地味な令嬢なのだろう》

そんな想像で片付けた。


―――全部。そうやって想像で片付けていたのだ。


今、改めてスカーレットを調べだしてまだ数日。
わかったことはほんの少しだけだ。

それで早くもネイトは頭を抱えている。


まずスカーレットの家のことを調べていたのだが。
全く、理解できなかったのだ。


この国では貴族の跡継ぎは男子しか認められていない。

爵位や領地は男性が持つもの。
女性には持つ権利がない。

女子は親の爵位や領地を継ぐことができないのだ。

だから女子しか子のない家では婿養子を迎えるか、親戚から養子を迎える。


スカーレットは二人姉妹の長女。
本来なら跡継ぎ娘だ。

婿養子をとり家を継ぐ娘。
成人前から婿養子として家に入ってもらう婚約者がいるのが普通だ。

だがスカーレットに婚約者はいなかった。

それはスカーレットの両親には《跡継ぎは絶対に長女》というこだわりがないからだと思っていた。
政略結婚が普通の貴族でありながら、結婚相手は自分で選べと言ったマティアスの両親と同じように。

スカーレットを跡取りと決めているのではないのだろうと。

だからマティアスはスカーレットに結婚を申し込んだのだ。
そして色良い返事をもらった。


それでネイトはまた想像をしていた。


長女のスカーレットはマティアスと結婚して家を出る。
ならばスカーレットの家は妹、ステイシーが婿をとって継ぐのだろうと。

しかしステイシーには色々あって……
最近、ようやく幸せを掴んだ。
自分を心から愛し、寄り添い支えてくれる男性デザイナーと結婚したという。
おそらく平民の。


と、なればあとは。
スカーレットの両親は家を存続させるために養子を迎えるしかない。

普通なら親戚の中から養子に迎えられそうな男子を探す。
―――のだが……これから探すとなれば、幼い子どもでは駄目だろう。
教育が間に合わない。

すると就学している少年でぎりぎり。
できたら成人間近か、すでに成人している者。

しかし、ネイトが調べたところ適している者を見つけることは絶望的だ。
まずスカーレットの家は親戚の数が多くない。
その上、男子が少ない。

ネイトが調べた中で、候補にできたのはただ一人。
スカーレットの父親の弟の息子。

だが、その人物は
スカーレットが言った、14歳のステイシーに《自分の愛人になれ》などとぬかした男だ。

そんな奴をスカーレットの父親が養子にするはずがない。
むしろ縁が切りたいくらいだろう。


スカーレットの両親は家を……跡継ぎを、どうするつもりなのだろう。

ネイトには、どう考えてもわからなかった。


だいたい、最初からおかしいのだ。


父親を支え領地経営をしている。
スカーレットは文句なしに良い跡取り娘なはずだ。

なのに何故、スカーレットの両親は彼女を跡取り娘としなかった?

ステイシーのこと
親戚には、養子に迎えられそうな男子がいないこと


わかっていたはずだ。
家を継がせるのはスカーレットしかいないと。


何故、マティアスのスカーレットとの結婚の申し込みを断らなかった?
跡取り娘を失うのに。


何故、スカーレットを望むマティアスの結婚の申し込みを受けた?


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