私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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21 私は スカーレットside




マティアスの結婚式での暴言は、きっとお父様が言ったように大した噂にもならない。
高位貴族であるマティアスのお父様の力はそれほど巨大なものだ。
それはどうでもいい。

問題は、そのお父様にマティアスが絶縁されたこと。

女性でも爵位と領地を持てるように。
国王陛下に法の改正をお願いすることは……夢の夢になった。


―――だけど……マティアスを責められるような話ではない。

それは私が夢見ただけのことだ。
私が勝手にマティアスに、高位貴族であるマティアスの実家の力に期待しただけ。

そう思って叫びたくなるのを必死にこらえた。


ただ、私の都合のいい夢のような話を
期待させるような話を
聞かせてしまっていたお父様とお母様には申し訳なかった。

けれど二人とも笑った。
そんなことはいいから、それより自分の幸せを考えなさいと。


―――私の……幸せは……


結婚式は中止になったけれど、私たちは終わりじゃなかった。
マティアスと私は夫婦になったのだ。

マティアスと話し合おうと思った。
話し合って、お互いを知って……今後を考える。

―――まずは。

知って欲しい。
私が、何を、許せないかを。


しかし私の話も聞かず、一方的に的はずれな謝罪を繰り返してくるマティアスに
だんだんと怒りが込み上げてきた。

私に許してもらうことしか考えていないのね。
私が、何を、許せないかを知ろうともしないで。


ねえ、それは本当に私への謝罪?

ご両親とお兄様ご夫婦に、絶縁をといてもらうためだけにしているものじゃないの?

単なる憶測だ。わかっていた。
でも疑う気持ちは抑えられなかった。
そうとしか思えなくなった。

悔しかった。
憎らしかった。

絶対に謝罪は受け入れない。
そんな態度をとった。


―――思い知ればいいのよ―――


両親やステイシーには口出しも、何もせずにいてくれるよう頼んで
私はマティアスとの生活を始めた。


執務をするために、日中は王都の実家の屋敷へ行き
そして夜だけマティアスの屋敷に帰るという日々。

それが3ヶ月もすぎる頃。

私は思いきって自分からマティアスに会いに行った。
的はずれだったけれど、彼は謝罪の手紙を毎日くれたから。

話し合おうと思えたのだ。

でも、まず謝罪の手紙を返したら
「償う」とマティアスが言った。

償う?
それはどうやって?

私のことを
何も知らない貴方がどうやって?

ただ、あの日の暴言だけを手紙で謝罪し続ける貴方が
どうやって私に償おうというの?

話そうとしなかった。
顔を合わせようとも。

夜だけとはいえ
私は、屋敷にいるのに。


話し合おうと私は来た。
けれど貴方は、私の話を聞こうともしない。
私と話し合う気はないの?


―――何に対する償いをする気でいるの?


悔しかった。
目の前のマティアスがもうどうしようもなく憎いとすら思った。

だから言った。


「――でしたら。私に良い夫をくださいませ」


結婚前。
やり取りした手紙にように、語り合える夫婦になれると思っていた。
私たちは同じ位置にいるように感じていた。
けれど

―――私たちは……もう駄目なのだ―――

婚姻後一年。
離婚できる時が来たら離婚しよう。

そう決めて執務室を出た。
唇を噛んで涙を堪えマティアスの前から去った。

あとは、ずっと王都の実家の屋敷で暮らそうと思っていた。

そう。
もうマティアスの屋敷には戻るつもりはなかったのだ。


ネイトが私を追いかけて来なければ―――


初めて私に向かって来てくれたマティアスの屋敷の人間。
ネイトに情がわいた。

離婚を思い留まろうとは思わなかったけれど
離婚する前に、ネイトには私に向き合ってくれたお礼をしようと思えた。

そしてマティアスにも、
少しはお詫びをしておこうという気持ちになった。


結婚式での言葉から今までのことは許せなかったけれど
私だって、意地を張って自分からは何も言わずにいた。
何ヶ月も酷い態度を取り続けたのだから……。


ヘレンのこと、使用人の態度、お仕着せ。
屋敷の改善をネイトにしてもらった。

ネイトが執事として成長できるように。
マティアスの屋敷が少しは良いものとなるように。


それで終わりのつもりだったけれど
今度はネイトが私を調べ出したとギルに聞いた。

私は―――笑った。

嬉しかった。

ネイトは私のことを知ろうとしてくれている。
主人マティアスのために。


離婚は決めていた。
両親にも既に伝えてあった。

でも最後に。

私が一番話したかったことを
マティアスが気づいてくれるか、見るのも悪くない。


「ねえ。頑張っているネイトにヒントをあげたいの」


私の言葉に執事のベスは少し驚いたようだったけれど、
頷いて協力してくれた。


ほんの軽い気持ちだった。

私が一番話したかったことが見つけられるかしら。

遊びのような、軽い気持ち。


どうするだろう。

ネイトは
そして、マティアスは。

わからないと諦め、終わりにするか。
それとも……見つけてくれるか。


私は見たかった。

見たかった。

それだけだ。


―――それなのに。


《女性でも爵位と領地を持てるように
国王陛下に法の改正をお願いする》


見つけてくれただけじゃない。
私のその夢を、マティアスは叶えてくれた。

その上、私が爵位と領地を持った後の心配も。
国王陛下が認めてくださらない場合のことまで考えてくれた。


ものすごい後悔に襲われた。


私は、何をしたの?

人を―――マティアスを弄ぶようなことをして。

楽しんで。

どうしてそこまでしてしまったのだろう。


許せなかった。
憎らしかった。


そんな気持ちが
いつの間に、これほど私の心を歪めたの?―――――


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