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第一章
12 暗雲
しおりを挟む「昨夜の宴は王子殿下の妃を選ぶためのものでしたの」
《親切な》侍女たちが笑顔でそう教えてくれた。
わかっていたことだった。
私が、王子の――彼の隣に立つことを認められていないのは。
それでもはっきりと、現実を突きつけられれば……辛い。
彼と生きると決めた。
ならば周りの人たちに認めてもらわなければと
認めてもらおうと、した。
けれど、それは叶わないようだ。
―――私は、どうしたらいいの……
とにかく彼と話をしなければ
そうは思っても、侍女に彼への取り継ぎを頼んでも無視された。
部屋を出ようとすれば外にいる警護の兵士に止められるだろう。
私は仕方なく彼の訪れを待った。
けれど、やってきたのは父、だった。
「この馬鹿が!」
国王陛下に私を連れて帰れと命令されたと言ってやってきた父は、侍女がいることなど構わず私を突き飛ばし怒鳴った。
「今までどこにいた!
国王陛下がどれほどお怒りだと思う?!
お前のせいで家は破滅寸前だ!一時は私の首まで危なかったんだぞ?!
お前が殿下の求婚を断り行方を眩ましたりするから!
何故、王子殿下の求婚を受けなかった!
どこに断る理由があったのだ!
お前がすぐに求婚を受けていれば家がどれだけ恩恵を受けられたか!
目の前にとてつもない幸運が転がっていたというのに!
それを!
新たな妃探しがされてしまったではないか!!
私はいい笑いものだ!」
国王陛下はやはり相当ご立腹のようだ。
私が憎くてたまらないのだろう。
《竜》だとか《番》だとか。
本当のことを話しても理解してもらえるとは思えない。
……憎まれて当然だと受け入れるしかない。
壁に打ちつけた肩が痛かった。
それでも堪えて立っていると、父は私の前まできて声をひそめた。
「だが助かった。
昨夜は宴が催されたものの、王子殿下は全く興味を示されず、国王陛下に促されてもご令嬢たちを見もしなかったそうだ。
《妃はすでにお前に決まっている》と言われてな。
お前はどうやら殿下に溺愛されているらしい。
どうやって殿下をたらしこんだか知らないがそこは上手くやったじゃないか。
いいか?殿下に妃にしてくださいと言うのだ。
殿下たっての頼みとあれば国王陛下も否とは言えまい。
殿下にすり寄れ。
そして家をとり立ててくれるように強請れ。良いな」
「―――」
唇を噛んで涙をこらえる。
慣れている。
これが私の父だもの。
でも父の方は、私が返事をしないことが気に入らなかったらしい。
「おい!聞いてるのか?!」
そう言うとぐい、と髪を掴んで私に頭を上げさせた。
そして
絶叫した。
何が起こったのかわからなかった。
私の足元で転がる父。
押さえている腕からは血が溢れている。
その父の身体を
王子――彼が蹴り私から遠ざけた。
その手には血のついた剣―――――
「汚い手で彼女に触れるな」
彼がそう言ったのと同時に侍女たちから悲鳴があがる。
だが彼は気にした様子もなく
優しく私に言った。
「すまない。ドレスを汚してしまったね」
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