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第二章
27 道は ※サヤside
市場は今日も賑わっている。
色が溢れている。
衣料品、雑貨などの日用品、肉や魚、野菜、果物、チーズ、お菓子、花の。
香りもする。
食欲をそそる料理や香辛料や、微かな花の。
様々な人がいる。
年齢も、手にしている荷物も、着ている服も。
……どのくらい時間が経ったのだろう。
用事を済ませた私は一人、市場が開かれている広場の隅にあったベンチに座っていた。
目の前では数人の子どもたちが楽しそうな声を上げながら遊んでいる。
私はそっと目を伏せた。
お婆さんに、一人で出かけて良いと言われたのは初めてだった。
昨日、ロウとクルスが怪我をして帰ってきて、医師のメイさんは二人についている。
出かける私に付き添えるひとはいないからなのか。
それとも――もう私を一人にしても、安全になったからなのか……。
誰かを捕まえたと言っていた。
私は会わせてもらえなかったから、それが誰なのか。
どんなひとで、どうして捕まえたのか。それはわからない。
捕まえたのは、私には全く関係のないひとだったのかもしれない。
でも私と《彼》の問題を解決するためにやってきたロウの存在が、捕まえたというひとは私や《彼》に関係のあるひとだったのではないかと強く思わせる。
クルスが《病気で》倒れたのすらも関係があるのではないかと思えてしまう。
……何が起こったのか聞きたかった。
けれど。
ただ黙って涙を流し、私と決して目を合わせようとしなかったクルスを見れば。
何があったのか、クルスが私には知って欲しくないのだと気づくには十分で。
私は、お婆さんに知りたいかと問われても首を横にふった。
クルスが私に知って欲しくないと思うことを、聞きたいとは思わなかったから。
頑なに私から目を逸らすクルスを、心臓を握り潰されたような感覚を抱きながら見ているしかなくてもクルスを追い詰めるようなことはしたくなかったから。
……いいえ、違う。
問い詰めて、追い詰めて。クルスに嫌われたくなかったから。
――「そんなに泣かなくていい。
俺はサヤの《番》ではないのだから」――
クルスのあの言葉を聞いてわかったの。
《番》でない私から想われてもクルスは戸惑うだけ。
そうよね。クルスは竜だもの。
自身に《竜気》がなく《番》がいなくても
クルスは『唯一想うのは《番》だけ』という理を持つ竜だもの。
人間の私とは違う―――。
……離れた方がいいのかもしれない……。
自然にそう思った。
……私にも《彼》のように。旅立つ時が来たのかもしれない。
こうして一人で外出することを許された。
もう私が守ってもらう必要は多分ない。
これ以上クルスのそばにいても……辛くなるだけなのかもしれない。
私は人だ。竜のクルスとは生きる時間も違う。
お婆さんが《彼》の持つ《私の妖花の竜気が香るストール》の問題を解決してくれたら。
私は、人の世界で暮らす方がきっといい。
涙が溢れる前にを立ち上がった。
辺りで遊んでいた子どもたちはもういなかった。
近所の子か、市場の店の子か、あるいは買い物に来た親を待つ子たちだったみたいだ。
まだ日はあるが、暗くなる前に帰宅する為だろうか。
市場では店じまいが始まっていた。
それを横目に見ながら、お婆さんの家の方へと歩き始め――ようとして。
私は目の前にひとがいることに気がついた。
何故、と思った。見間違いかとも。
でもこちらを見て黙って立っているそのひとは……。
「―――クルス?」
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