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3 コノヤロウ
しおりを挟む「浮気されてた!」
アイラは家のドアを開けた瞬間に叫んだ。
帰ったらすぐに父親を捕まえて、さっき見てきたことを全部ぶちまけよう。
そう思っていたのだがあまりに頭にきていて、家のドアを開けた瞬間に叫んでしまった。
だがそこに気持ちを受け止めてくれる人はいなかった。
父の姿も母の姿もなかった。
日中だ。
まだ日は高い。
考えたら当たり前なのだが、二人は働いている。
ここ住居兼商会の、入り口の違う仕事場――商会の方にいるのだ。
――誰もいない。
そう思うと急に胸に込み上げてくるものがあった。
ぼろぼろと涙が出てきた瞬間、後ろから声がした。
「――やっと気づいたんだ」
アイラは飛び上がった。
そのまま後ろを振り向けばそこには声の主がいた。
エプロンをして、パンが顔を出す大きな袋を抱えている。
「ヒュー……」
「そこどいて。荷物を台所に持っていきたいから」
「―――――」
家の入り口を塞いでいると気づいたアイラは大人しく道を譲った。
ヒューは黙ってアイラの横を通り過ぎ、大きな袋と共に台所へ向かって行った。
明日の昼食の材料を買ってきたんだ。重そう。
……って、違うー!
アイラはヒューの後を追って台所へと向かった。
台所に入って行くと、ヒューは持っていた袋を机の上に置いて中から食材を出し始めたところだった。
アイラはその机にばん、と手をついた。
「ヒュー!《やっと気づいたんだ》ってどう言う意味?!」
ヒューは食材を出す手を止めることなく答えた。
「そのままの意味だよ。
婚約者の不貞に《やっと気づいたんだ》」
「貴方、知ってたのっ?!」
「まあね。相手はナウリア。二人の関係はもうふた月くらいになる」
「ふた月?!」
「そう。良くやるよね。家族ぐるみで隠蔽すれば隠し通せると思ったのかな」
「そこまで知ってるの?!ならどうして私に教えてくれなかったのよ!」
「――俺が言っても君は信じなかっただろう?」
「―――――」
アイラは何も言えなかった。
ヒューはソルディバ商会の一番下っ端――新人だ。
ソルディバ商会の新人には課せられる仕事がある。
掃除と洗濯と、そして全員分の昼食作り。つまり雑用だ。
入って一年は商会の仕事を全く任せられない。
一年間、雑用をこなした者だけが商会の仕事に就くことができるのだ。
大抵の人はそれで辞めていく。ひと月もてばいい方だ。
そんな中、ヒューは久しぶりに長く続いている新人。
あと確か、ふた月で一年。
最初は酷いものだった掃除も洗濯も、昼食作りも今は手慣れている。
父も母も認めだしている。
それでも……付き合いはまだ一年にも満たない。
ヒューから《エイデンの家族ぐるみの不貞》を聞いていても
アイラは幼馴染の婚約者と、その両親を信じただろう。
それでも……
アイラはぐっと手を握った。
「……それでも……聞きたかったよ……」
それでも話して欲しかった。
信じなかったかもしれないけど。
怒っていたかもしれないけど。
知り合って一年にも満たなくても、毎日顔を合わせていたのだ。
少しは私を心配して欲しかった。
「アイラ……」
ヒューは食材を出す手を止めて、そして、言った。
「でもさ、自分で見て知った方が効くだろう?」
…………コノヤロウ…………
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