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ついで姫の婚約者デヴィッドside3
「父王は激怒されているよ。
お前たちを何度処刑してもしたりないそうだ」
俺と家族のところにやってきたハワードの言葉は鋭かった。
「ありがたいことに、あちらの国の国王陛下は私とレシスティシア王女の婚約が解消されても今まで通りの付き合いを約束してくださったよ。
《婚約解消は王女のわがままでもある》からとな」
コツ、コツ、と。
ハワードがゆっくり歩く音が響く。
「だが二組の婚約で果たされるはずだった国同士の結びつきには遠く及ばない。
あちらはともかく、我が国には大きな痛手だ。
話は二国間の問題だけではないんだよ」
「…………」
「国力はあちらが圧倒的に上だと言っただろう?
――レシスティシア王女がこの国の王太子の婚約者だ。
それだけで、我が国は他国からの信頼を得られた。株も上がった。
そういう多大な恩恵があったんだよ。
だから私はレシスティシア王女に求婚していた。何年も前からな。
他国もだ。多くの他国が同じように王女を欲しがっていた。
だが婚約の話を受けてもらえたのは私だった。
なあデヴィッド。私がどれほど嬉しかったかわかるか?」
「…………」
「そんなレシスティシア王女に婚約を解消された私は廃太子寸前だ。
今、弟王子たちが王女を必死に口説いている。
レシスティシア王女は考え得る中で最高位の女性だ。
王女の新たな婚約者になった者が、この国の新たな王太子となるのは必至だからな」
「…………」
「私の従兄弟――王弟殿下の子息まで参戦しているよ。
あわよくば国王になれる。
レシスティシア王女と歳が近いからチャンスだと思っているのかもしれない。
……しかし皆、難しいだろうな。
王女は大切なセレリア嬢を傷つけたこの国に嫁ぎたいとは思われないだろう。
口説く時間も、もうない。
このままこの国に留まりお前に嫁ぐはずだったセレリア嬢とは違い、レシスティシア王女は今回一時的な訪問だった。
じきに帰国の途につかれてしまうだろう」
ハワードは足を止めて
射殺さんばかりに俺を睨みつけ、地を這うような声で言った。
「何故セレリア嬢を大切にできなかった」
「―――――」
「言ったはずだぞ。頼んだと。
お前が望んだ婚姻ではないかもしれないがセレリア嬢を大切にしろ、と。
これは国同士で結ばれた婚約だ。彼女には敬意を払えと!
お前も!そこのお前の家族も!
国王陛下と、王太子である私の言葉をなんだと思っていたんだ!」
妹のネルダが母にしがみついた。
二人とも声も出せずに泣いている。
がくがくと震えている父が二人を抱きしめる。
俺は一人項垂れた。
王太子……ハワードは話を続けた。
「父王はセレリア嬢を侮辱し嗤っていたお前たち家族と、屋敷の使用人たち全員を処刑するつもりだった。だがセレリア嬢が使用人たちの解放を嘆願された。
使用人だ。主人一家に倣っただけだから、とな。
心優しい女性だ。
ただ、主人一家は投獄され明日には処刑。
他国の《要人》で次期当主の妻となるはずだった女性を貶めていたことは知れる。
次の雇用は期待できまい。
使用人たちは処刑された方がマシだった、と思うかもしれないが」
ガン、と黒く太い格子が鈍い音を立てネルダが飛び上がった。
「大人しいな。どうした?
何も言わないのか?助けてくれと私に縋ったらどうだ?」
格子を打ったハワードが、格子の向こうで白い顔をして笑っている。
格子の中の俺たち四人は壁際に張りついた。
「良い判断だな。私はセレリア嬢のように優しくないのでね。
お前たちがみっともなく縋りついてきたらこの槍で突こうと思っていたんだが。
使う機会はなさそうだな」
トントン、とハワードは槍の柄を叩いている。
薄暗がりの中、鋭い穂が灯りできらりと光った。
ハワードの後ろには牢番がいるが、見て見ぬふりをしていた。
俺たち一家全員、声は出せなかった。
身体の震えも止められない。
「残念だったな。
ここに来たのが私ではなくセレリア嬢だったなら。
跪き、涙ながらに謝罪し、懇願したら命は助けてもらえたかもしれないが。
もう遅い。判断を誤ったことを悔やむがいい。
明日、その命が消えるまでな」
ひっと息を呑んだのは誰だったのか。
ハワードは乾いたように笑った。
そして俺たちに背を向けた。
「デヴィッド。私は、お前を友としたことと。
つまらないプライドから《お前とセレリア嬢の婚約を整えたついでに、11歳のレシスティシア王女に私の婚約の申し込みを受けてもらえた》とは言えなかったことを……一生悔やむよ」
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