ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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ついで姫の婚約者デヴィッドside4※暴力表現あり

※暴力的な表現があります。苦手な方は読み飛ばすことをおすすめします。



その姿を見た瞬間、俺は神に感謝した。
女神だ。そう思った。

「……セレリア嬢」

感極まって名前を呼んだ俺に、セレリアはお辞儀をした。


「こちらの国王陛下に許可をいただき、お別れの挨拶にまいりました」

「別れの……挨拶?」

「はい。三ヶ月と短い間でしたが、お世話になりました」

顔を上げ、すぐにでも出て行ってしまいそうなセレリアを俺は急いで捕まえようとした。
だが太い格子が邪魔をする。

俺は格子に縋りついた。

「待って……っ!待ってくれセレリア嬢!
あ、ありがとう。来てくれて。嬉しい。本当に嬉しいよ」

「…………」

「まずは謝らせてくれ。君には本当に酷いことをした。
申し訳なかった。許してくれ。この通りだ」

俺は硬い床に額を擦りつけた。
何度も「すまなかった」と謝罪する。

そして。
セレリアを見上げた。

「……それで。その。
すまないが……お……俺たちを……助けてくれないか……?」

セレリアは戸惑ったように俺から目を逸らした。

「それは……」

「お願いだ!何でもする!何でもするから命だけは!
助けてくれ!頼む!」

ようやく気づいたのか、両親と妹のネルダも駆け寄ってきて俺がしたように床に額を擦りつけた。

「すまなかった!セレリア嬢!」と父が。
「本当に……ごめんなさい」と母が。
「お願い!何でもするから許して!」と妹のネルダが言った。

俺を含め四人でセレリアを見つめる。
セレリアは仕方ない、というように小さく息を吐いた。

「いいですよ」

そう言って優しく微笑んでくれた。
涙が出た。

「いいですよ。私も貴方がたの命が欲しいわけではありませんし。
ふたつほど、私の願いを聞いてくだされば」

「ふたつ?」

俺が聞き直すとセレリアは小さく頷いた。

「ああ!聞く!もちろん!なあ?」と父が。
「ええ、そうよ!それで助けてもらえるのよね?!」と母が。
そしてネルダが「やった!」と小さく言った。

セレリアはそんなネルダの前に立った。


「ええ、約束します。
ではまず、ネルダさん。謝ってもらえますか?」

「――え?わ、私?」

驚いたネルダを両親が急かした。

「ネルダ!さっさと謝れ!」
「早くしなさい!謝るのよ!」

ネルダは着せられた粗末な服をぐっと掴むと言った。

「わ、悪かったわよ。貴女が《不貞してる》なんて勘違いして騒がせて。
すみませんでした!」

「――ああ。そういえばそんなこともありましたね。
ケンドリックお兄様のところにしつこいほど通われていらしたとか。
でも全く相手にされずにいたところに、私とお兄様の抱擁を見た。
それで頭にきたのでしょう?それはどうでもいいのです」

「「「「え?」」」」

―――どうでもいい?

俺たち一家は首を捻った。
もちろんネルダが聞いた。

「え?じゃあ他に、何を謝れっていうの?」

「……心当たりがないんですか?」

「あ、ああ!あるわ!あるわよ!
貴女が《姫》と呼ばれたのを笑ったことね?
それに《ついで姫》なんて呼んでいたこと。
ごめんなさい!反省しているわ。もう言わない。
もう二度と貴女の悪口は言いません!
本当にごめんなさい!」

「…………」

「……ね、ねえ。これで……許してもらえる?」

「そうですね。ネルダさん。こちらへ」

ネルダは笑ったセレリアを見て、喜んで彼女の前の格子に飛びついた。

「あ、ありがとう!出してもらえるのね!―――ぐぶっ!」

「きゃああああああぁっ!!」

ネルダが後ろに飛び、母が叫んだ。

俺は一瞬、何が起こったのかわからなかった。
呆然とセレリアを見つめる。


「ネ、ネルダ!ネルダ!大丈夫か?!」

父が倒れているネルダに駆け寄った。
母も続く。
見ればネルダは顔から血を流し動かなかった。
気を失っているようだ。

牢番……は見回したがいなかった。
国王陛下の指示なのだと気づいた。

「ネルダ!ああ!なんてこと!
セレリア!貴女、よくも!私の可愛いネルダに!」

母がきっとセレリアを睨んだが
セレリアはにこにこと笑顔で手指の関節を鳴らしていた。

「あら。一発殴っただけですよ?このくらい。
これで処刑を免れるなら安いものではないのですか?
それともやはり家族全員で処刑される方を選びますか?」

「「「―――――」」」

「謝ってもらえれば許して差し上げるつもりだったのですが。
覚えてもいないようでしたので。
口をきけないようにすることで手打ちにしました」


「セ、セレリア嬢……」と父が
「な……なんて酷い……」と母が言って顔色をなくしている。

「――ではもうやめますか?それなら私はこれで」

セレリアが身体の向きを変えようとしたのを見て、俺は慌てて格子に張りついた。

「待ってくれ!これでひとつだよな?
もうひとつ!もうひとつ君の願いを聞けば俺たちを助けてくれるんだよな?」

「ええ、そう言いましたけど。でも――」

「――きく!願いを聞く!どんな願いでも聞く!何でも言ってくれ!」

セレリアは
ゆっくりと俺の方を見ると言った。


「―――貴方の耳です」


「……は?」

「このようなことになった原因は、取り除くべきでしょう?
ですから。
貴方の耳をいただけますか?
私の声が聞こえない耳を。
捨てますので」

「な……」

「ご両親でもネルダさんでも、もちろん貴方でも。
どなたでもいいので、取って私にくださいね。
―――私の声が聞こえない貴方の耳を」

「……み……耳って……」と俺が。
「じょ……冗談……だよな?」と父が。
「し、そうよ。冗談よね?そうでしょう?ね?セレリアさん」と母が言ったが。

セレリアは小首を傾げただけだった。

「いいえ?大真面目ですけど。やめておきますか?
私はどちらでもいいですけれど」

「「「―――――」」」

「早く決めた方がいいですよ。時間がありませんから。
処刑は夜明けだそうです。
それまでに願いを聞いていただけないのなら、私は貴方がたを助けません。
選んでください。
デヴィッド様の、私の声が聞こえない耳を差し出して助かるか。
それとも家族四人、仲良く処刑されるか」

「「「―――――」」」


「刃物も何もない。
大変でしょうが……頑張ってくださいね」

全身総毛立つほど恐ろしい言葉を言われたというのに
俺は彼女から目が離せなかった。

薄暗がりの中、微笑むその顔は
この世の者とは思えないほど妖しく、そして、美しかった。


ああ俺は
何故、彼女を虐げていたのだろう―――――


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