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ついで姫の兄ケンドリックside
夜明けに仕事に戻った牢番が見た光景は壮絶なものだったらしい。
牢内はどす黒い染みがいくつもできていた。
四人で。それも相当激しく喧嘩したようだ。
全員の身体にはそこら中に噛み切られた傷まであった。
身体も、頭も、まともな奴は一人もいなくて何が起こったのか全くわからない。
いったい何故、家族四人で何をしてたんだ?
王女レシスティシア様とセレリア様が助命を願われ、夜明けに釈放されるはずだったのに―――。
ひそひそと囁かれていた噂を聞いた時、俺は口の端を上げた。
そんな俺の横で部下のマルクスが半泣きで呟いた。
「良かった……姫が暴れたのがあいつらの屋敷じゃなくて」
三ヶ月間セレリアに付けられた恋人を心配していたらしいが、失礼な奴だ。
セレリアは辛抱強い。
だから俺はセレリアを一人にしなかったのだ。
セレリアの様子を報告させる侍女をつけた。マルクスの恋人を。
正解だったが、セレリアの辛抱強さは想像以上だった。
マルクスの恋人からマルクス経由でセレリアがどう扱われているかを聞き、レシスティシア様に訴えて婚約をなかったことにしてもらおうと言ったのに。セレリアは決してうんとは言わなかった。きっと私を認めてもらうからと笑うだけだった。
そんなセレリアを本気で怒らせるとは……。
あいつらが何をしたかは知らないが、自業自得だな。
それにしてもセレリアは男運がない。
17歳の時、王女レシスティシア様の侍女となってから急に綺麗になった。
それからは結婚の申込書がいくつも届くようになったが、全て碌な男からではなかった。
強く美しい王女レシスティシア様のお気に入り。
どれもそんな《姫騎士》への求婚だった。
誰がそんな奴にセレリアをやれるか。
両親は片っ端から断った。当然だ。
相手の身分が上で、こちらから断れないものはレシスティシア様の手を借りた。
そうして気づけば妹は23歳になり、さすがにこのままではまずいと思い結婚を促せば妹は異国へ行き結婚すると言い出した。
気持ちは察せたので許したが……レシスティシア様が話を持ってきた相手が、あのデヴィッドだ。
ため息が出てしまう。
「ケンドリック。ねえ聞いて頂戴」
俺と同じ気持ちだろうと思っていたのだが。
部屋に戻った俺を迎えたレシスティシア様は妙にご機嫌だった。
そして言われた。
「当たりだったわ。
この国の主要な鉱山のいつくかは底が見えている。
ふふふ。どうりで何年も前から王太子が私に婚約を持ちかけてくるわけね。
資源が枯渇し国力が落ちそうなら他に何か手を考えるべきなのに。
次はウチの国を頼ろう、なんて。馬鹿にしてるわよね」
俺は目を見開いた。
「待ってください。つまり、ここがそんな傾いている国だと予想していて。それでも婚約の話を受けたんですか?しかもセレリアも―――」
巻き込んで、と言おうとしたが呑み込んだ。
婚約の話を受けたのはセレリアだ。強制された訳ではない。
レシスティシア様はセレリアの気持ちを尊重してくださった。
だが、俺が呑み込んだ言葉をレシスティシア様は見抜いたようだ。
少し拗ねたように言われた。
「セレリアがデヴィッドを愛し、結婚したなら私は王太子と結婚した。そして実質女王となってこの国を立て直すつもりだった」
「女王」
「楽しそうでしょう」
レシスティシア様は侍女に箱をひとつ持って来るように言った。
そして箱が来ると自ら開け、中身を取り出し俺に見せた。
「ケンドリック、どう?綺麗でしょう?
この国に生息する野生の虫が吐く糸で織られた布よ。
この国にしかない、独自の物なの。
良い色でしょう?染めたんじゃないの。初めからこの色なのよ。
―――セレリアの大好きな布よ」
そう言ってレシスティシア様は光沢のある布を優しく撫でた。
薄い緑色。レシスティシア様と、そして……国王陛下の瞳の色の布だ。
「私は王女。いずれ政略で嫁ぐ身だわ。
ならこの国の女王になるのもいいと思ったのだけど……セレリアは婚約を破棄した。
私の婚約も速やかに解消された。だから帰るわ。
けれど、こんな素晴らしい布があるこの国は安泰であって欲しいわね」
レシスティシア様はふふ、と笑われた。
「知ってた?ケンドリック。
この国の王弟殿下はデヴィッド一家などとは違う、優秀な貴族たちから人気があるのよ。
ふふ。私がその王弟殿下やその子息と頻繁に会って親睦を深めたら……どうなると思う?」
レシスティシア様を通じて我が国との繋がりができる。
王弟殿下とその子息の権威は増すだろう。
元より優秀な貴族たちから支持されている方々なら国王に代わる可能性もある。
いや。代えようというのかもしれない。
すでにレシスティシア様は王弟殿下の子息に会われている。
これが三ヶ月にわたる長い滞在の成果か。
この王女をただの少女だと侮った王太子の失態だな。
この国は楽しいことになりそうだ。
俺もレシスティシア様と一緒に笑った。
笑ったが……。
「それで。今度はレシスティシア様直々に選んだ優秀な貴族をセレリアにすすめて下さるのですか?」
「まさか!
今回はセレリアが異国で結婚したいと言うならそれも良いかと思っただけよ」
俺の言葉を聞いたレシスティシア様は心外だと言わんばかりに声を上げた。
「セレリアは私の姫よ。誰にもあげないわ」
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