彼と彼女の日常

さくまみほ

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冬の朝1-3 side彼

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前に来たのっていつだったっけ……?
マンションの前で鍵を出しながら考えたのはそんなことだった。

「去年だったのはほぼ確。クリスマス前……?」

合鍵でオートロックを通り、エレベーターに乗る。
時刻は深夜2時。
昼過ぎからの仕事だったから、まあ許容範囲と言えば許容範囲か。
ただ、取材と撮影が2件、その後ツアーのダンス入れだったから身体が限界きてるのは確か。
頭の中で、復習をしながらエレベーターを降りて部屋へ。
玄関には誕生日にあげたサンダルがちょこんと揃えて置いてあった。

「ふっ……」

玄関近くの仕事部屋のドアは少し開いていたが、電気はついていない。
そりゃそうか、この時間に作業してたらさすがにヤバいだろ。
カバンから1枚のCDケースをデスクに置き、仕事部屋のドアを静かに閉めて、洗面所にいくも真っ暗。
手洗いうがいを済ませて、風呂場を開ける。
まだ湯気が残ってて、湯船も入れる温度ギリって感じか。
追い焚きスイッチを押して、リビングへ移動する。
ドアを開けても間接照明が自動で着くくらいだった。

「そりゃ寝てるわな」

多分風呂の温度から逆算して、ちょうど深い眠りに入るくらいの時間じゃないか?と思いつつ、寝室のドアを開けると真っ暗だった。
自分の荷物を自分のベッドに放り投げ、彼女の顔を覗き込む。
「顔に髪の毛がつくのが嫌だから、寝る時は髪の毛を上にあげて寝るの」ってドヤ顔で言うだけあって、こちらに背を向けて横向きになっている彼女の細いうなじは、きれいにでていた。
微かに聞こえる呼吸の音で深い眠りに入っていることを確認して、耳にキスを落とす。

「久しぶり」

ーーー

「全員、明日の撮影夕方からに変更になったから」

休憩時間中にマネージャーからの連絡事項が通達され、メンバー各々が応答する。
それを聞きながら、携帯を取り出して、メッセージアプリを起動した。

<今日行くわ>

既読はつかない。
時間を確認すると15時過ぎ。
ちょうど集中してる時間帯か、と気づいたのと同時に、休憩が終了した。

撮影が少し押して、リハ場までの移動車の中で携帯を確認すると、返信が来ていた。

<何時着?泊まり?ごはんは?>

「ふはっ業務連絡にも程があんだろ」
「え?なんか言った?」
「んにゃ、なんでもねぇ」
「えーうそやん!絶対なんか言うてたやーん」
「はいはい、言ってない言ってない」

思わずつっこんでしまったら、隣に座っていたメンバーに聞かれてた。
目線を上げることなく、返信を打つ。

<夜中 泊まり 食ってく>
<了解>
<あ、アルバム持ってくわ>
<おーありがと。じゃ、また明日ねー>

「寝てますんで、ご勝手にどうぞ」と言う副音声が聞こえてくるくらいの潔さ。
こちらとしてもいつもだったらそのスタンスは有り難かったりする。
けど、だいぶ久しぶりなんですが……

<おう>

まあ、「起きて待ってて」と素直に言えたらまだいいんだろうけど、正直時間が読めないのも事実で、いつも通りの返信しかできない。
時間読めてても一緒かもしれないけど。

ーーー

風呂上がりのスキンケア。

「あいつやってんなぁ……」

俺がライン使いしているクリニックでしか買えない基礎化粧品が、記憶よりも減っている。
置きっぱなしにしてるのをいいことに、しっかりちゃっかり使っているらしい。

「まぁいいけど……いや、明日詰めるか」

髪を乾かし、適当に着替えて寝室を開ける。

「うーさむっ」

くる時にはまだ降っていなかったが、カーテンをチラッと開けたら白いものが舞っていた。
明日夕方からでよかったと、心底思い、自分のベッドに移動する。

「つめたっ!」

ダメだ、これは寝れねぇ。
早々に諦めて枕を持って彼女のベッドに入る。
一度寝ると起きないのをいいことに、寒い時は彼女で暖を取るようにしている。
人で暖を取るなっていつも怒っているけど、寒いもんは寒い。



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