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おにぎり1-2 (彼女)
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閉店間際のスーパーは、大体仕事帰りのおひとり様がビールと安くなった惣菜を買う。
今日のスーパーも惣菜はほぼ売り切れだった。
ここに来る途中で口の中のものは無くなったけど、反対に罪悪感がぐるぐると巡った。
多分彼も仕事終わりに空腹で家に来たのだろう。
シンクに手をついて気持ちを整理した自分を思い返すと、申し訳ない気持ちが大きい。
思い返せば、シンクのお釜の横に中身が空になったパックがあった。
冷蔵庫を見た時、朝との違いに若干の違和感を感じた。
いつもだったら、見落とすことがないのにと、商品棚から子持ち昆布をピックアップし、カゴに入れる。
空腹というのは、本当に良くない。
高くつくから普段は買わないレンチンのご飯も、カゴに入れる。
他にも明日の朝食用にパンとカット済みの野菜、インスタントのスープを入れ、レジに並ぶ。
レジ前にあるお菓子コーナーには、彼が所属しているグループがイメージキャラクターをしているチョコが置いてあった。
それを一つ、カゴに追加する。
精算を終えてバックの中にいつも入れているエコバッグを取り出し、荷物をまとめる。
思ったより多くなってしまったのは、お腹が空いているせいだと言い訳して、店を出ると、帽子とマスクをした彼が立っていた。
無言で手を差し出す彼に、エコバッグを渡す。
受け取ってもまだ手を差し出してくるので、首を捻ると、肩にかけていたカバンを渡せと、顎で指示される。
「そんな重くないから大丈夫」
「あっそ」
数歩先を歩く彼の背中を、一定の距離を保ってついていく。
お互いの手にはスマホ。
<何も言わずに出てくのやめて>
<だって口の中いっぱいだったんだもん>
<しかも無表情で出てくから、いみわかんないだろ>
<すみませんでした>
<ほんと心臓に悪い>
パニックになりつつも、行動パターンからスーパーに来てくれたんだろう。
わかりにくい優しさに、ちょっと顔が緩んでしまう。
<迎えにきてくれてありがとう>
<湯冷めして風邪ひいたらおまえのせいね>
<心を込めて看病させていただきます>
そう返したら、前から「ふっ……」と吹き出す声が聞こえてきた。
思わず顔をあげると、視線の先の彼は周りを確認して、立ち止まった。
「子持ち昆布あった?」
「うん、あった」
隣に私が並ぶと、それだけ確認して、同じ歩幅で歩き始める。
住宅街だからこそ、静かで人もいない。
くっつくこともなく、適度な距離感で家に向かう。
「家に帰ったら絶対にお茶漬け食べようって思ってたの」
「ふーん」
「ミーティング続きで、今日何も食べてないから、あのおにぎり見た時、握ってくれたんだと思って食べちゃった」
「一食目が俺のおにぎり?」
「そう。具に到達しなかったけど」
「ふはっ。確かに到達してなかった」
「帰ったらのこり食べる」
「俺が食った」
「えぇー……」
「どうせ米も買ったんだろ」
「まぁ、これから炊くのは待てないからねぇ」
「ふーん」
マンションのエントランスを通り、エレベーターに乗っても静かな時間がすぎる。
玄関を開けて、先にリビングに行く彼の背中をチラ見しつつ、部屋着に着替えることにした。
メイクも落として、リビングに入ると、ダイニングテーブルの上に、さっきより小さめのおにぎりが置いてあった。
今度は小皿の上にはみ出すように。
「食えば?」
ソファにだらんと寝転びながら携帯をいじりつつ、こちらを見ずに言う彼を二度見してしまう。
「ふふ……」
「……んだよ、いらないなら俺が食う」
「ありがとう、いただきます」
ツンなのか、デレなのか。
今日は短い間にいろんな彼の表情がみれた。
昼間は散々だったけど、終わりよければ全てよし、なのかもしれない。
こんな日があってもいいよね。
ーおまけー
「なんであんなにおっきかったの?」
ソファに座った彼の股の間に体育座りをして、髪を乾かしてもらった状態から、そのままリラックスタイムへ。
キッチンから、飲み物を取りに行った彼が戻ってくる時に、気になることを聞いてみた。
「ん」
「ありがと。で、なんで?」
「なにが」
「おにぎりの大きさ」
「……知らん」
「ふーん」
「……んだよ」
「2回目は小さかったなって思って」
「いいじゃん別に……」
後ろに座る彼を振り返って見上げると、前髪をくしゃくしゃとしながらこちらを見ていた。
「……子持ち昆布全部入れたかったの!いいだろ!」
「ふふふそっかー」
完全に振り返って、彼の膝に腕を乗せて、下から顔を覗き込むと同時に目を塞がれる。
「もーおまえうざい、こっちみんな」
「……わかりましたー寝ますーおやすみなさいー」
彼の手を外しながら立ち上がると、手首を掴まれて彼の上に座らされた。
耳が真っ赤な彼の首に手を回し、軽く体重をかけると、そのまま抱きしめられる。
そういえば、今日会ってからハグしてなかったなと思い出していると、耳元で彼がふふっと笑いをこぼした。
「……寝るか」
「……そだね」
今日のスーパーも惣菜はほぼ売り切れだった。
ここに来る途中で口の中のものは無くなったけど、反対に罪悪感がぐるぐると巡った。
多分彼も仕事終わりに空腹で家に来たのだろう。
シンクに手をついて気持ちを整理した自分を思い返すと、申し訳ない気持ちが大きい。
思い返せば、シンクのお釜の横に中身が空になったパックがあった。
冷蔵庫を見た時、朝との違いに若干の違和感を感じた。
いつもだったら、見落とすことがないのにと、商品棚から子持ち昆布をピックアップし、カゴに入れる。
空腹というのは、本当に良くない。
高くつくから普段は買わないレンチンのご飯も、カゴに入れる。
他にも明日の朝食用にパンとカット済みの野菜、インスタントのスープを入れ、レジに並ぶ。
レジ前にあるお菓子コーナーには、彼が所属しているグループがイメージキャラクターをしているチョコが置いてあった。
それを一つ、カゴに追加する。
精算を終えてバックの中にいつも入れているエコバッグを取り出し、荷物をまとめる。
思ったより多くなってしまったのは、お腹が空いているせいだと言い訳して、店を出ると、帽子とマスクをした彼が立っていた。
無言で手を差し出す彼に、エコバッグを渡す。
受け取ってもまだ手を差し出してくるので、首を捻ると、肩にかけていたカバンを渡せと、顎で指示される。
「そんな重くないから大丈夫」
「あっそ」
数歩先を歩く彼の背中を、一定の距離を保ってついていく。
お互いの手にはスマホ。
<何も言わずに出てくのやめて>
<だって口の中いっぱいだったんだもん>
<しかも無表情で出てくから、いみわかんないだろ>
<すみませんでした>
<ほんと心臓に悪い>
パニックになりつつも、行動パターンからスーパーに来てくれたんだろう。
わかりにくい優しさに、ちょっと顔が緩んでしまう。
<迎えにきてくれてありがとう>
<湯冷めして風邪ひいたらおまえのせいね>
<心を込めて看病させていただきます>
そう返したら、前から「ふっ……」と吹き出す声が聞こえてきた。
思わず顔をあげると、視線の先の彼は周りを確認して、立ち止まった。
「子持ち昆布あった?」
「うん、あった」
隣に私が並ぶと、それだけ確認して、同じ歩幅で歩き始める。
住宅街だからこそ、静かで人もいない。
くっつくこともなく、適度な距離感で家に向かう。
「家に帰ったら絶対にお茶漬け食べようって思ってたの」
「ふーん」
「ミーティング続きで、今日何も食べてないから、あのおにぎり見た時、握ってくれたんだと思って食べちゃった」
「一食目が俺のおにぎり?」
「そう。具に到達しなかったけど」
「ふはっ。確かに到達してなかった」
「帰ったらのこり食べる」
「俺が食った」
「えぇー……」
「どうせ米も買ったんだろ」
「まぁ、これから炊くのは待てないからねぇ」
「ふーん」
マンションのエントランスを通り、エレベーターに乗っても静かな時間がすぎる。
玄関を開けて、先にリビングに行く彼の背中をチラ見しつつ、部屋着に着替えることにした。
メイクも落として、リビングに入ると、ダイニングテーブルの上に、さっきより小さめのおにぎりが置いてあった。
今度は小皿の上にはみ出すように。
「食えば?」
ソファにだらんと寝転びながら携帯をいじりつつ、こちらを見ずに言う彼を二度見してしまう。
「ふふ……」
「……んだよ、いらないなら俺が食う」
「ありがとう、いただきます」
ツンなのか、デレなのか。
今日は短い間にいろんな彼の表情がみれた。
昼間は散々だったけど、終わりよければ全てよし、なのかもしれない。
こんな日があってもいいよね。
ーおまけー
「なんであんなにおっきかったの?」
ソファに座った彼の股の間に体育座りをして、髪を乾かしてもらった状態から、そのままリラックスタイムへ。
キッチンから、飲み物を取りに行った彼が戻ってくる時に、気になることを聞いてみた。
「ん」
「ありがと。で、なんで?」
「なにが」
「おにぎりの大きさ」
「……知らん」
「ふーん」
「……んだよ」
「2回目は小さかったなって思って」
「いいじゃん別に……」
後ろに座る彼を振り返って見上げると、前髪をくしゃくしゃとしながらこちらを見ていた。
「……子持ち昆布全部入れたかったの!いいだろ!」
「ふふふそっかー」
完全に振り返って、彼の膝に腕を乗せて、下から顔を覗き込むと同時に目を塞がれる。
「もーおまえうざい、こっちみんな」
「……わかりましたー寝ますーおやすみなさいー」
彼の手を外しながら立ち上がると、手首を掴まれて彼の上に座らされた。
耳が真っ赤な彼の首に手を回し、軽く体重をかけると、そのまま抱きしめられる。
そういえば、今日会ってからハグしてなかったなと思い出していると、耳元で彼がふふっと笑いをこぼした。
「……寝るか」
「……そだね」
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