彼と彼女の日常

さくまみほ

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過去1-3 side 彼

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いつのまに寝落ちていたのか、彼女が胸元で動いたことで覚醒した。

「ん……寝れた?」

掠れた声でそういって、ベッドの下に落ちていた手で、彼女の目元をする。

「腫れてる……」
「ふふ」

彼女が恥ずかしそうに顔を埋めてくるので、滑り落ちていたもう片方の手で、彼女の頭を撫でた。

「…………話せるなら、聞く」

心からの言葉だった。
あんな彼女を二度と見たくない。
彼女はこくんと小さくうなづき、ボソボソと過去と悪夢の話をし始めた。

相手の男を探してボコボコにしてやりたくなる。
彼女に優しくない環境に、もっと早く出会いたかったと悔しくなる。
会ったことのない彼女の親友に感謝をする。
渦巻くさまざまな感情を、背中とか頭とか髪とかを撫でて浄化させる。

一言も聞き漏らさないと、彼女の声を捕まえにいき、一言も聞き逃さないと、彼女をぎゅっと抱きしめた。

「ねぇ」
「ん?」
「少しずつでいいから、わがまま言って」
「え?」
「……俺が……いれば寝れんなら、……全然来るから」

耳が真っ赤になっているのはわかってる。
こんな事さらっと言えるほどかっこよくなれない。
でも、ちゃんと伝えたい事だから真剣な顔で彼女を見た。
俺の気持ちが伝われって。

「うん、ありがとう」
「わかってくれれば、それでいい。遠慮とかさ……無茶だけはしないで」
「……ん」

ふわっとした笑顔を浮かべて、また胸元に顔を擦り付ける彼女を抱きしめる。

いきなりは無理でも、少しずつでいいから、不安を払拭したい。
俺がいる事で、少しでも安心できるのなら、いくらでも一緒にいる。
たまに見せてた怯えた顔も、原因がわかれば対応可能だ。
言葉にすることが苦手だから、行動で示す。
上手いことなんて言えないから、ただ抱きしめる。
それでも彼女はちゃんと汲み取ってくれるはず。

「仕事、何時から?」
「今日は午後から」
「そっか。じゃあもうちょっとゆっくりできるね」
「ん」

肩口から小さなあくびの声を聞いて、彼女の背中に回っていた手を頭に回す。

「ゆっくり寝な」
「んーでも私仕事……」
「何時?」
「10時」
「今は?」
「7時……ゆっくりする」

サイドテーブルに置かれたスマホを手にしてアラームをかけると、本格的に寝る姿勢に入る彼女。
なんとなく流れで腕枕しちゃってるけど、まぁいいかなんて考えてたら、腕を外される。

「ん?」
「こっちがいい」
「ふーん」

俺の腕を抱き込むように引っ付いて、瞳を閉じた。
そんな彼女の穏やかな寝息に引っ張られるように、俺も意識を手放した。
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