自立したい僕を社長が甘やかしてきます

春夏

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14.お土産の思い出

60.僕だけが残された理由

「というわけでさ、冬休みに神戸に行くんだ。マナーとか上手くできなかったら…嫌われちゃうかも」
「葵なら大丈夫だろ。奥山さんがそんなことで葵を嫌いになるわけないし」
「うん…そうだよね、僕もそう思う。智秋さんのこと信じる」
「神戸かぁ。オシャレ、ってカンジ」
「だよね。斉藤は行ったことある?」
「あるわけないじゃん。ウチに旅行なんてする余裕ないない。俺も兄弟達も修学旅行だけ」
「日光行ったよねぇ。中学の時はどこだった?」
「京都。葵は?」
「僕も京都!金閣寺とか清水寺とか。神戸のお土産買ってくるね」
「!!いらない!!土産なんかいらないから…今度はちゃんと帰ってきてくれよ……」

『……斉藤がね、泣いちゃって……僕達があの旅行から帰ってこなかったから』
夜の電話で、僕は初めて事故のことを智秋さんに話した。
智秋さんは静かに相槌をうちながら聞いてくれる。
『千葉の鴨川に行ったんです。いちご狩りして、ホテルに泊まって。次の日は水族館に行って、温泉に泊まって。斉藤…しんちゃんにイルカの絵が書いてあるボールペン買ったんです。僕のとお揃いで、中学生になったら使おうと思って。でも…渡せなかった』
『…そか…』
『僕は後ろに座ってたんです。父さんと母さんといろいろ話したり、オヤツ食べたり、うとうとしちゃったり。帰ったら今日は早く寝ようね、って』
『…うん』
『目が覚めたら病院だったんです。伯父さんがいて、父さんと母さんのことを教えてくれた。僕だけ…僕だけ死ななかった』

こんなふうに落ち着いてあの日のことを思い出せるようになるなんて、それはきっと、今の僕が幸せだからだ。
『…葵が…生きててくれてよかった』
なんで僕だけ生き残っちゃったの、って、ずっと思ってた。
痛くて、苦しくて、悲しくて、不安で、僕だけ、なんで僕だけ。

でも今は。
『僕も…生きててよかったです。智秋さんに出会えたから』
『葵…ありがとう……あぁ!なんで今、葵の隣に居らんのやろ!』

ううん、電話でよかったよ。
隣にいたら、きっと僕は泣いちゃって、こんなふうに事故のことを整理することなんかできなかった。
電話のむこうの、僕よりも辛そうな声で返事をくれる人。
この人に出会うために、生きていたんだ。
『智秋さんが好きです』
何度でも伝えるために、生きていくんだ。
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