1 / 5
教訓と初恋
しおりを挟む
プロローグ
あの時の僕に伝えたいことがある。
一番目、初恋の相手に早く告白をすること。
二番目、死神の甘い囁きに耳を傾けてはならないこと。
三番目は…絶対に金◯を渡してはいけないこと!!
世界には多くの秘密がある。エルフの長寿の秘密、そして死神が魂を刈り取る理由。だが、僕がこれから語るのは、ある愚かなエルフの——僕自身の恋物語だ。
第一話 初恋の人
まんまるの月の光が静かに森を照らす中、親友のアルフレッドの煉瓦作りの家の外から鋭い狼の遠吠えが響いた。それは胸が熱くなるような情熱的な声だった。
「ひっ!おおかみ!」
銀髪のエルフである僕、ルカスは親友のアルフレッドのベッド横から勢いよく立ち上がった。
「ルカス、そんなに狼は嫌いか?」
「アルフレッド。牙が鋭くて怖くて嫌いだよ!」
「子供の頃に一度かまれたもんな」
赤毛のアルフレッドが、シーツの上で目を細めながら笑っている。その笑顔に、僕の心は密かに高鳴った。
「からかわないで!それより薬師として、君の病を治せないのは僕が未熟なせいだ」
常世の森と呼ばれる我らエルフの聖域は、永遠に枯れないマリウスの純白の花が咲き乱れ、人間界といにしえの結界により隔てられている。
僕の名はルカス・シルヴァリス。薬草学と治癒魔法を専門としている。
「ルカス、もう十分だ。看病を諦めてくれないか」
アルフレッドの声は、かつて明るくて元気な声は枯葉のようにカラカラなった。僕は寝台に腰掛け、彼の額に浮かぶ汗を拭った。
「諦めるなど言わないでくれ。必ず治療法を見つける」
僕は指先から放つ治癒の青い光でアルフレッドの体を包み込んだが、その光は病の黒い影に飲み込まれていった。
彼の肌に浮かぶ発疹は、日に日に広がりを見せている。
「人間の疫病には、僕らの魔法も無力か」
ラベンダーの精油を含ませた布で彼の額を拭いながら、僕は呟いた。
窓から差し込む月光が銀の糸となって部屋を照らし、アルフレッドの苦悶に歪む顔を浮かび上がらせる。
「俺を見捨てろ。お前まで感染したら、村は二人の若者を失うことになる」
「そんなことはできないよ」
僕は自分のエメラルドの瞳を彼の蒼い瞳に向け、決意を込めた。銀色の長い髪を一つに結び直し、親友の世話を続ける手を止めない。
「初恋の人を見捨てられない」
僕は小さな呟きは空気に溶けていく。
「ルカス、何か言ったか?」
「ううん。べつに」
かつてはエルフの一族の中でも美しさを誇ったアルフレッド。今やその麗しい容姿は病に蝕まれつつあった。それでも僕の目には、彼は輝くように美しく映る。
「俺に触れるな。エルフは数少ない。お前が病に倒れれば、種族の存続にも関わる」
「かまわない。親友のために命を賭けることもある」
僕の言葉に、アルフレッドの目から涙が零れた。彼の涙は、花の露のように透明で美しかった。
「お前は強いな。人の為に強くなれる」
その言葉に、僕の喉がキュッと締まった。初恋の人が苦しまない為にできることが少なすぎる。
「ルカス、長老は俺を見捨てろと言ったんだろう?」
彼の問いに、僕は黙った。南方から持ち込まれた疫病は、エルフの村にとって未知の脅威だった。
長老会議では、感染拡大を防ぐため、アルフレッドを隔離し、自然の摂理に委ねるべきとの結論が出ていた。
「人間の街には、この病を治す薬があるという噂なんだ」
僕は静かに告げた。アルフレッドの目が驚きで見開かれる。
「馬鹿な。エルフが人間の街に降りれば、捕らえられるか、最悪の場合は娼館に売られる」
「知っている。けれど他に方法がないよ」
僕は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。月明かりに照らされた森の向こうには、人間の帝国の灯りが小さく瞬いている。
その間に潜む危険は、幾度となく長老から聞かされていた。
「危険すぎる。お前は美しすぎることを自覚しろ!エルフの耳と銀髪が人間に知られれば、珍しい商品として扱われるぞ」
アルフレッドの懸念は正しかった。エルフは長寿と美しさゆえに、人間世界では珍重され、時に奴隷や見世物として扱われる。だが、僕の決意は固かった。
「変身の魔法を使う。短時間なら人間の姿を保てる」
「無茶だ」
「無茶でもやるしかない」
アルフレッドの青い瞳と僕の緑の瞳の視線がぶつかる。生まれたころからの親友情以上の、名付けられない感情が胸の内で膨らんだ。
「ルカス、お前は…」
彼が何かを言いかけたとき、僕は思わず手を上げて彼の言葉を遮った。今、その感情に名前を与えれば、帰れなくなる気がした。
「心配しないで。もしもの時のために使い魔を連れていく」
そう言って、僕は家を出た。背後からアルフレッドの声が聞こえた。
「無事に戻ってこい。約束だ」
心の中で微笑みながら、僕は振り向いて一言叫んだ。
「病気が治ったら、二人で広い世界に旅に出よう」
そして小声で付け加えた。
「アルフレッドに告白するんだ」
僕は希望を胸に村の中央へと向かって、マリウスの花を踏みながら歩く。
この時は気づかなかった。夜の闇に紛れて、どこからか低い呼吸音が聞こえること。そして、何かが僕を見つめていることを。
「見つけた!高潔な魂を持つエルフ!門番の狼と戦った甲斐がありました!!」
あの時の僕に伝えたいことがある。
一番目、初恋の相手に早く告白をすること。
二番目、死神の甘い囁きに耳を傾けてはならないこと。
三番目は…絶対に金◯を渡してはいけないこと!!
世界には多くの秘密がある。エルフの長寿の秘密、そして死神が魂を刈り取る理由。だが、僕がこれから語るのは、ある愚かなエルフの——僕自身の恋物語だ。
第一話 初恋の人
まんまるの月の光が静かに森を照らす中、親友のアルフレッドの煉瓦作りの家の外から鋭い狼の遠吠えが響いた。それは胸が熱くなるような情熱的な声だった。
「ひっ!おおかみ!」
銀髪のエルフである僕、ルカスは親友のアルフレッドのベッド横から勢いよく立ち上がった。
「ルカス、そんなに狼は嫌いか?」
「アルフレッド。牙が鋭くて怖くて嫌いだよ!」
「子供の頃に一度かまれたもんな」
赤毛のアルフレッドが、シーツの上で目を細めながら笑っている。その笑顔に、僕の心は密かに高鳴った。
「からかわないで!それより薬師として、君の病を治せないのは僕が未熟なせいだ」
常世の森と呼ばれる我らエルフの聖域は、永遠に枯れないマリウスの純白の花が咲き乱れ、人間界といにしえの結界により隔てられている。
僕の名はルカス・シルヴァリス。薬草学と治癒魔法を専門としている。
「ルカス、もう十分だ。看病を諦めてくれないか」
アルフレッドの声は、かつて明るくて元気な声は枯葉のようにカラカラなった。僕は寝台に腰掛け、彼の額に浮かぶ汗を拭った。
「諦めるなど言わないでくれ。必ず治療法を見つける」
僕は指先から放つ治癒の青い光でアルフレッドの体を包み込んだが、その光は病の黒い影に飲み込まれていった。
彼の肌に浮かぶ発疹は、日に日に広がりを見せている。
「人間の疫病には、僕らの魔法も無力か」
ラベンダーの精油を含ませた布で彼の額を拭いながら、僕は呟いた。
窓から差し込む月光が銀の糸となって部屋を照らし、アルフレッドの苦悶に歪む顔を浮かび上がらせる。
「俺を見捨てろ。お前まで感染したら、村は二人の若者を失うことになる」
「そんなことはできないよ」
僕は自分のエメラルドの瞳を彼の蒼い瞳に向け、決意を込めた。銀色の長い髪を一つに結び直し、親友の世話を続ける手を止めない。
「初恋の人を見捨てられない」
僕は小さな呟きは空気に溶けていく。
「ルカス、何か言ったか?」
「ううん。べつに」
かつてはエルフの一族の中でも美しさを誇ったアルフレッド。今やその麗しい容姿は病に蝕まれつつあった。それでも僕の目には、彼は輝くように美しく映る。
「俺に触れるな。エルフは数少ない。お前が病に倒れれば、種族の存続にも関わる」
「かまわない。親友のために命を賭けることもある」
僕の言葉に、アルフレッドの目から涙が零れた。彼の涙は、花の露のように透明で美しかった。
「お前は強いな。人の為に強くなれる」
その言葉に、僕の喉がキュッと締まった。初恋の人が苦しまない為にできることが少なすぎる。
「ルカス、長老は俺を見捨てろと言ったんだろう?」
彼の問いに、僕は黙った。南方から持ち込まれた疫病は、エルフの村にとって未知の脅威だった。
長老会議では、感染拡大を防ぐため、アルフレッドを隔離し、自然の摂理に委ねるべきとの結論が出ていた。
「人間の街には、この病を治す薬があるという噂なんだ」
僕は静かに告げた。アルフレッドの目が驚きで見開かれる。
「馬鹿な。エルフが人間の街に降りれば、捕らえられるか、最悪の場合は娼館に売られる」
「知っている。けれど他に方法がないよ」
僕は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。月明かりに照らされた森の向こうには、人間の帝国の灯りが小さく瞬いている。
その間に潜む危険は、幾度となく長老から聞かされていた。
「危険すぎる。お前は美しすぎることを自覚しろ!エルフの耳と銀髪が人間に知られれば、珍しい商品として扱われるぞ」
アルフレッドの懸念は正しかった。エルフは長寿と美しさゆえに、人間世界では珍重され、時に奴隷や見世物として扱われる。だが、僕の決意は固かった。
「変身の魔法を使う。短時間なら人間の姿を保てる」
「無茶だ」
「無茶でもやるしかない」
アルフレッドの青い瞳と僕の緑の瞳の視線がぶつかる。生まれたころからの親友情以上の、名付けられない感情が胸の内で膨らんだ。
「ルカス、お前は…」
彼が何かを言いかけたとき、僕は思わず手を上げて彼の言葉を遮った。今、その感情に名前を与えれば、帰れなくなる気がした。
「心配しないで。もしもの時のために使い魔を連れていく」
そう言って、僕は家を出た。背後からアルフレッドの声が聞こえた。
「無事に戻ってこい。約束だ」
心の中で微笑みながら、僕は振り向いて一言叫んだ。
「病気が治ったら、二人で広い世界に旅に出よう」
そして小声で付け加えた。
「アルフレッドに告白するんだ」
僕は希望を胸に村の中央へと向かって、マリウスの花を踏みながら歩く。
この時は気づかなかった。夜の闇に紛れて、どこからか低い呼吸音が聞こえること。そして、何かが僕を見つめていることを。
「見つけた!高潔な魂を持つエルフ!門番の狼と戦った甲斐がありました!!」
40
あなたにおすすめの小説
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる