「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)

文字の大きさ
15 / 28

第14章:風と火の舞踏

しおりを挟む

顔を上げると、カリシアの目と合った。彼女は中庭の中央で、こちらをじっと見つめていた。その表情は、血の気が引くほど冷たいものだった。

まさか、本当に心が読めるんじゃ…?

ああ、ダメだ!やばいぞ!

姉さん、違うんだ、誤解だ、許してくれ…!

——「何ジロジロ見てんだよ、バーカ」

彼女はそう言って、片方の眉をひそめた。

はぁ…びっくりした。一瞬、本当に心を読まれたかと思った。怖かった、本当に。

すぐに言い訳を考えた。

——「それは…」
ごくりと唾を飲み込む。
——「今日の姉さん、すごく綺麗だなって思って」

信じてくれるといいけど。でも、考えてみれば嘘じゃない。彼女は綺麗だ、昔からずっと。

その言葉の効果はすぐに現れた。彼女の頬が、炭のように真っ赤に染まった。

——「な、なにバカなこと言ってんだよ!」どもりながら、明らかに慌てた様子で——「わ、私はずっと綺麗だったし!」

——「うん、知ってるよ」
僕は微笑んだ。
——「でも、今日は特に」

——「だからって…」
彼女はうつむき、服の端をいじりながら——「あ、ありがと…」

思わず声が出た。透き通った笑い声が、銀の鈴を鳴らすように唇からこぼれ落ちた。それは伝染する笑い声で、僕の頬を熱くし、目をいたずらっぽく輝かせた。

隣では、リリアが手で口を覆って必死に笑いをこらえていたが、震える肩がそれを物語っていた。

——「な、なに笑ってんだ、リリア!」
姉さんのその憤慨した口調がおかしくて、僕はもっと大笑いした。

——「おい、アイト」
カリシアが僕に向き直る。
——「お前も笑ってるだろ!」

——「許してよ、姉さん」
僕は笑いながらどうにか言った。
——「でも、姉さんがそんな風に可愛いからさ」

——「そ、そんなこと言うな、アイト!」
彼女は叫んだが、その声には怒気がこもっていなかった。むしろ…わからない。恥ずかしそう?嬉しそう?両方?

こうして、笑いと幸せの涙の中で、僕たちはゼキン老師を待っていた。太陽はすでに中庭全体を照らし、近くの庭の花々は香りを漂わせ、僕は人生で最も大切な二人(家族以外で)に囲まれて、この世でこれ以上ない場所にいるように感じた。

いや、そうでもないか。きっと世界中にたくさんの知りたい場所がある。でもこの瞬間、まさに今、ここが最高の場所だった。

——「何をそんなに笑っとるんじゃ」
ゼキンの低い声が中庭に響き、三人の頭が同時に向いた。

老師は入り口からこちらを見ていた。手には訓練用の剣を持ち、厳しい表情を作ろうとしているが、わずかに浮かんだ笑みは完全には隠せていなかった。

——「なんでもないです、おじいちゃん」
まだ笑いで目を輝かせているリリアが言った。
——「子供たちのことです」

ゼキンは鼻を鳴らしたが、それ以上何も言わなかった。彼は中庭の中央に向かい、そこではカリシアがすでにストレッチを再開しており、セッションの準備を始めた。

——「今日は」
彼は宣言した。
——「連携を鍛える。アイトとカリシア、お前たち二人で俺を相手にしろ。リリアは見学したいなら、そこで見ていろ」

リリアはうなずき、自分の石に座って観戦の準備を整えた。

僕は立ち上がり、装備を置いている中庭の端に向かった。慣れた動きで、ほとんど機械的に防具を身につけ始めた。長年の練習の賜物だ。

黒い長袖の薄手のTシャツを着ている。快適で柔軟性があり、自由に動ける。その上に、腹部までの胴体だけを守る軽量の銀の防具。腕も肩も覆わない。この防具をTシャツに例えるなら、半袖にも満たない、袖なしのベストのようなものだ。

前腕には、同じく軽量の銀のプロテクターをつけている。騎士が使うものはもっと重いのかもしれないが、これはまるで第二の皮膚のようだ。戦闘中にずれないようにしっかりと調整する。

ズボンはTシャツと同じく黒くてタイトなもので、左脚の太ももには小さなポーチが付いたハーネスがついている。老師は道具などを入れるためのものだと言っていたが、まだ何にも使っていない。でも、念のためつけている。

腰まで届く黒い髪は、ゴムで高い位置で一つにまとめた。ポニーテール、あるいは尾を持つどんな動物の尾のようにも見え、歩くたびに揺れる。

木刀を手に取る。重さは慣れ親しんだものだ。手に持ち、バランスを感じ、その手触りを確かめる。数え切れないほどの時間をこの剣と共に過ごし、今では自分の一部となっている。

中庭の中央へ向かう。そこにはカリシアがすでに待っていた。彼女の防具は僕と似ているが、縁に赤みがかった色合いがあり、まるで炎そのものが口づけしたかのようだ。彼女の髪もまとめられ、決意に満ちた顔立ちを際立たせている。

——「準備はいい?」
彼女は獰猛な笑みを浮かべて尋ねた。

——「いつでも」
僕も笑みを返した。

ゼキンは向こう側から僕たちを見ていた。相変わらず堂々として、いつものように。木刀を肩に乗せ、その目には期待の光が宿っていた。

——「始め」

そして、世界が動き出した。

---

カリシアが先に飛び出した。

彼女の剣は瞬時に炎を纏い、炎はまるで生きているかのように強化された木材の周りで踊った。彼女は驚異的な速さで移動し、足は地面をかすめるだけで、熱と光の軌跡を残した。

彼女は老師の前に到達し、大きく弧を描いて剣を振るった。ゼキンは防いだが、カリシアはすでに回転し、軌道を変えて別の角度から再び攻撃する。

カキン、カキン、カキン、カキン

打撃は次々と続き、心拍のように速い。老師はそれぞれの攻撃をミリ単位の正確さで防ぐが、カリシアは止まらない。何度も何度も、彼女の炎の剣は隙間、開口部、ゼキンの防御の弱点を探す。

それは空中に描かれた振り付けだった。狂気の、危険で、美しい舞踏。炎は螺旋と円を描き、ゆっくりと消えていく赤い軌跡を残す。

だが、僕は見ているだけではいられない。僕の番だ。

僕は動いた。

風が僕を包み、前へと押し出す。僕の属性だけが与えうる速度で。左側面に回り込み、カリシアが右から攻撃するちょうどその瞬間、老師の死角を狙った。

風を帯びた僕の剣は、流れるような弧を描いて動く。

ゼキンはありえないほどの周辺視野で、一つの動きでカリシアの攻撃をそらし、別の動きで僕の攻撃を防いだ。

バキッ!

衝撃が腕に響く。今回は今までの対戦よりもずっと強い力で老師が打ち込んできた。ずっと強く。振動は全身の筋肉、骨、繊維の隅々まで駆け巡った。

しかし、剣は放さなかった。

この二年間で腕は強くなった。痛みに慣れた手は、鋼の決意で柄を握りしめた。

——「よし!」
叫んだ。痛みからではない。興奮からだ。純粋で、絶対的な興奮から。

そして、打ち合いが始まった。

カキン、カキン、カキン、カキン、カキン

打撃、防御、反撃、回避。衝撃のたびに腕は震えたが、僕は笑っていた。なぜなら、僕たちは踊っていたからだ。三人で。一つの動きが言葉であり、一つの打撃が文であり、一つの防御が応答である、致命的な舞踏を。

ゼキンが斬りかかろうとしているのがわかった。彼の目に、剣の動きに見えた。ギリギリで後退し、何百回も練習した動きで、手をついて後方に宙返りした。ついさっきまで僕の頭があった場所を、空気が切る音がした。

しゃがんだ状態で着地し、息を切らしながらカリシアを見た。

彼女も僕を見た。

言葉は必要なかった。必要ない。何年も共に訓練し、数え切れないほどの時間を練習と戦いに費やしてきた後、僕たちは視線だけで意思疎通ができるほどよく知り合っていた。

同時にうなずいた。

そして飛び出した。

——「うおおおおっ!」
二人の声が一つになり、一つの戦いの咆哮となった。

【 降り注ぐ旋風 】

風を纏った剣が、僕が跳躍する間に回転を始め、激しく空気を切り裂く渦を周囲に作り出す。

【 地獄の一撃 】

カリシアの剣は、周囲の空気が熱で歪むほど激しい炎を帯びる。彼女が何ヶ月も秘密裏に磨き上げてきた、最強の技だ。

(地獄の一撃?マジか、姉さん…)落ちながら考える。(まあいいか、お前の技だし…俺も巻き込むなよ?)

だが、彼女を信頼している。彼女も僕を信頼している。

二人の攻撃は、完璧に同期して、反対の角度から老師に収束する。相容れないはずの火と風が、致命的な振り付けで共に踊る。

ゼキンは迫る二人を見た。

そして、彼の剣が自身の魔力を纏った。

かつて見たことのない輝きだった。今まで知っているものとは全く違う。より濃密で、より深く、より…古い。

彼はわずかに膝を曲げ、かつて見せたことのない構えをとった。

そして、防ぐ代わりに…

攻撃した。

ドォーン!

激突の衝撃はあまりに凄まじく、足元の地面がひび割れた。破片が四方八方に飛び散り、小さな石と埃が立ち上り、三人を包む雲となった。

一瞬、すべてが静寂に包まれた。

そして、埃が晴れ始めた。

三人ともそこに立っていた。動かずに。僕の腕は疲労で震えていたが、剣は無事だった。カリシアの剣も。どちらも折れていなかった。

成果だ。小さな、しかし大きな成果だ。

ゼキンはゆっくりと体を起こし、笑みを浮かべた。本物の、心からの笑みが彼の顔に浮かんだ。

——「よくやった、二人とも」
彼は言った。彼の声は、いつもの厳しい口調ではなく、初めて温かかった。誇らしげだった。
——「本当によくやった。誇りに思う」

胸が熱くなるのを感じた。戦いとは違う温かさが僕を包んだ。

(老師…そんなこと言わないでくださいよ)
馬鹿な笑みを浮かべながら思う。
(そんなこと言われたら、もっと好きになっちゃうじゃないですか)

隣のカリシアも微笑んでいた。どんな炎よりも彼女の顔を輝かせる、大きくて心からの笑顔で。

——「本当ですか、老師?」
彼女は感動で震える声で尋ねた。

——「本当だ」
ゼキンは答えた。
——「お前たちの連携は飛躍的に向上した。技はより確実になった。そして最も重要なのは…」
彼は二人を見た。
——「最も重要なのは、お互いを信頼していることだ。それは教えられるものではない。勝ち取るものだ」

リリアは自分の石から、熱心に拍手を送った。

——「ブラボー、アイト!ブラボー、カリシア!」
彼女は叫び、席から飛び降りた。
——「すごかったよ!」

カリシアは彼女に向き直り、一瞬、その表情は…奇妙だった。どう感じればいいのか、よくわからないような。

——「ありがとう、リリア」
彼女は丁寧だが、距離を置いた口調で言った。

リリアは何かに気づいたとしても、それを表に出さなかった。彼女は笑い続け、いつも全てを明るく見せてしまうその笑顔で。

——「休んだほうがいい」
ゼキンが言った。
——「全力を出し切った。水を飲んで、ストレッチして、その後はもう上がっていい。また明日な」

うなずき、中庭の端へ向かう。そこには冷たい水の入った水差しが待っていた。カリシアは石の上に座り、僕も別の石に、遠くない場所に座った。

リリアが近づいてきて、隣に座った。肩が触れ合いそうなほど近くに。

——「はい」
彼女はきれいな布を差し出した。
——「汗を拭いて」

——「ありがとう」
受け取って答えた。

カリシアは自分の石から僕たちを見ていた。その表情は読めなかった。

——「ねえ、アイト」
リリアが小さな声で言った。
——「本当に世界中を旅したいの?」

うなずいた。

——「うん。何よりも」

——「怖くないの?」

——「もちろん怖いよ」
僕は答えた。
——「でも、怖くて止まってられない。怖さに支配されてたら、何もできないから」

リリアはゆっくりとうなずき、僕の言葉を噛みしめていた。

——「私…」
彼女は言いかけて、止まった。

——「何?」

彼女は首を振った。

——「ううん。大したことじゃない」

問いただそうとしたその時、カリシアが石から立ち上がり、こちらに近づいてきた。

——「アイト」
彼女が言った。
——「母さんがあなたに会いたがってる。話したいことがあるんだって」

すぐに立ち上がった。

——「何か悪いこと?」

——「わからない。ただ、あなたを探してきてって」

リリアを見ると、彼女は微笑んでうなずいた。

——「行って」
彼女は言った。
——「私はもう少しおじいちゃんと一緒にいるから」

うなずき、中庭を走り去った。黒いポニーテールを背中で揺らしながら、二人の少女を後にして。彼女たちが、互いを見つめるだけで無言の会話を始めているとも知らずに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

処理中です...