天下無双の鍵使いー引き継がれるものー【挿絵付】

サマヨエル

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ー第35話ー

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父の不在のまま2年。



それはとても辛く長い時間だったように思えるが、過ぎ去ってみれば短かったようにも感じる。



毎日のように会える日を待望していたからであり、同じような日の繰り返しが何も思い出というものを刻まなかったからである。



そんなウララの日常に変化が起きたのは、15歳の誕生日であり授与式を受ける日の2週間前だった。待ちに待った父からの便りが届いたのだ。




「お父さんからの手紙!」




ウララの顔に笑みがみなぎる。久しく見ることのなかった父の痕跡に喜びを隠せなかった。その手紙に対しに気づかないほどのに。




母の手にある手紙から目の離せないウララだったが、なんと母は手紙をすっと懐に仕舞ってしまったではないか。




「お、お母さん!なんで・・・」





これから封を開け二人で手紙を読むものだと思っていたウララにとって、待ちに待った手紙を見ずに仕舞うという驚きの行動に対し、思わず声を大きくする。





、ウララ」






今にして思えば、そのときの母の声は少し震えていたような気がした。





「これはお父さんからあなたへの、お誕生日と神職授与をお祝いするお手紙。まだお誕生日まで2週間あるじゃない、これはそのとき開けるようにとお父さんと約束しているのよ」






「お祝いの・・手紙!」





去年は結局くる事のなかった、ウララの誕生日を祝う父からの手紙。やはり自分は忘れられてなどいなかった、一度は抱いた母に対する疑念も一瞬にして吹き飛んだ。




「やっぱり覚えてたんだよ、お母さん!お父さん忘れてなかったんだ!」





「だからいったじゃない、忘れるわけないって」




母はウララをぎゅっと抱き寄せる。





「もうすぐよ・・・もうすぐお父さんに会えるわ・・・」





(あと2週間!15歳になって職業を与えられて・・・お父さんの手紙を読める!ふふっ!楽しみだなぁ!)





ウララは14日間を指折り数えていた。いつもは3,4回しかはねない石も向こう岸に届くくらい跳ねてとんだ。野に咲く花々は鮮やかに祝福し、蝶が自分のために舞ってくれているようだった。



村人の目線も気にならない。何を言われようとなんとも思わない。父がいなくなり色を失いかけた世界は再び輝きだしたのだ。





ただひとつ、ウララは心のそこで不安感を抱いていた。それは日に日にやつれていく母の姿であった。




食事の量は減り、口数も少なくなった気がする。心配するウララだったが、母は決まってこういった。




「あなたの神職授与式が近づいてきて、緊張しているのよ。娘の人生を左右する行事なのよ?今からどきどきしちゃって・・・」






その言葉にウララは納得した。いや、納得させた。




今は幸せなことだけを考えていたかった。わずかな不安も最悪の事態も悪夢だって見たくなかった。



父の不在に耐えて、耐え続けて、ようやく出口が見えた今、限界の際にたつウララはそのすべてを無意識のうちに見て見ぬ振りをした。






そして悲劇は訪れる。ウララの人生を急転させた神職授与式の日。
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