天下無双の鍵使いー引き継がれるものー【挿絵付】

サマヨエル

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ー第42話ー

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(私は、魔物じゃない・・・?)



ウララは湯船に肩まで浸かる。久しく入っていなかった風呂は至極の時間であった。ちょうどよい温度の湯は全身を温めほぐす。



突如訪れた非日常。目まぐるしく変わる状況を整理するにはうってつけの時間だ。




(本当に変な人だ。困惑、悲しみ、驚き、怒り・・・浮き沈みのなかった私の感情がかき乱される。この姿を恐れないし、普通に接してくれる)



そっと頭部に手を添える。濡れた髪とコツンと当たる角。



(人間に戻ったんじゃないかって、勘違いしそうになる。言っていることはよくわからないけれど、きっとあの人はすごいいい人なんだ)



ウララは湯船にすっぽり鼻まで沈んだ。脳裏にはカインが最後に言った言葉がこびりついている。



(嘘を言っているようには見えない。でもどうして断言できる?何も知らないあの人が。気休め?それとも無責任な励ましの言葉?)




カインの存在が、これまで踏み固め続けていた『無関心にただ生き続ける』生活の地盤を崩壊させる。足場が無くなり落下し続けるウララの心はいつまでも着地のしない、不安定な浮遊感の中揺れ動いていた。




「・・・はぁ」




結局考えはまとまるどころか余計結び目を増やすばかりとなった。これ以上思考を巡らすことに耐え兼ねたウララは湯船からゆっくりと上がる。





「何をごちゃごちゃと・・・いつも通りでいい。変わる気力も死ぬ勇気もない私は無関心に生きるだけで」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あぁ、どうやらサイズはちょうどいいみたいだね。女性用の服の貯えがあってよかった」



カインの家のクローゼットには必要以上に服がそろえられていた。サイズもバラバラでちゃんと男女別の服が大きなクローゼットに所狭しと収納されている。



(一人で住んでいるわけじゃないのかな・・・それにしても多い気がするけど)



カインはウララが入浴している間に紅茶を淹れてくれたようだ。促されるままウララはソファに体を沈める。カップに注がれた紅茶からは優しい香りがふわりと漂う。




「さて、腰を落ち着けたところでさっきの話なんだけど・・・」



「それなら結構です」



バッサリと一刀両断したウララに対し、カインはえ?と目を丸くした。





「私が魔物ではないという話ですよね。何を説明するつもりかはわかりませんが、先ほど会ったばかりの貴方から真実が聞けるとは思えません。気休め程度の話であれば、結構です」



一見すると失礼ともとれる言葉だが、ウララの表情から察するに一切の悪気はない。



惨憺たる出来事を経験し壊れたウララの心はこれ以上の変化を拒絶してしまっている。下も上もなく淡々と、変わらない日々を機械的に過ごすことでしか、ウララは自分で自分を守れない。



予想外の返答に開いた口の塞がらないカイン。ははっと苦笑いをするとどっと背中をソファに預ける。




「これは強敵だ・・・。もうちょっと信用してもらう必要があるみたいだね。だったらまず俺の話を・・・」




「いえ、それも結構です」




「・・・」



カインが石化する。



「私はどうやらお役に立てたみたいなので、普段の生活に戻ります。その上であなたを知る必要はなさそうなので」




ウララは空になったティーカップをテーブルに静かに置くとすっと立ち上がり玄関へと向かう。



「ごちそうさまでした、それでは私はこれで」




ぱたんっ




しばしの沈黙。ようやく石化が解けたカインはふぅーっと深く息を吐くとぼすっとソファーに寝転がる。





「取り付く島もないとはこのことだなぁ。・・・・・・・え?まぁ目的は達成したけどさ。なんだか気になるというかほっとけないんだよ、昔の俺みたいで。あの子もきっと職がすべてのこの世界に振り回された被害者だ。せめてあの子がもつ力がだってのは教えてあげたいよ」
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