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日常編

発作

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「…ううんやっぱり何でもないわ…。
それよりフィル一緒に踊らない?」

「姉さんが言うなら…喜んで!」

雨の中手を取り合い二人は踊る。
音楽がなくても狭くても微笑み合う二人は幸せそうだった。

「ねぇ痣が薄くなってるんじゃない?」

「ほんと?気づかなかったな…」

内心オーロラ嬢との出会いが近いのではと考える。先ほど自分の記憶について話そうとしてしまったローズは気を引き締め直す。
─モブはモブらしく主役を邪魔しない

「姉さんのお陰だね」

フィリップが嬉しそうに言う。その笑顔にくらりとなりつつ彼女は話題を変えた。

「そ、それよりフィルはどんな女の子が好みなの?」

「…なんでそんなこと聞くの?」

一転不機嫌そうな表情で彼女を見つめる。
彼女は慌てた。え?そんなに怒らせるようなこと言った?一般的な恋バナだよね…?

「気に障った?…ただフィルの好みを知りたかっただけなの」

「他の女とくっつけようっていう意図はないんだね…安心したよ」

フィリップが嬉しそうに笑う。扱いが思ったより難しいわとローズは思い思考を彼方に飛ばしていたのでその後の発言を聞き逃した。

─姉さんみたいな女の子が好みだよ

雨の音が強さを増した。
ローズは何か言った?とフィリップに聞いたが、答えてくれなかった。少し不満そうな彼を不思議に思いつつ、そろそろ部屋に戻りましょうと誘う。


部屋でフィリップの濡れた髪を拭く。わざとくしゃくしゃと乱暴に拭くと彼が楽しそうに笑った。

「もうっ止めてよ姉さん」

「くすくすごめんなさい」

「僕が今度は拭くよ」

フィリップが優しく髪をぬぐうのに任せていると突然心臓が嫌な音を立てた。

ドクリ

ローズは胸を押さえてうずくまった。

「姉さん、姉さん!!ねえしっかりして!」

フィリップの叫ぶ声が聞こえた気がしたが、ローズの意識は闇に包まれていった。

─本来の持ち主から身体を奪ったばちが当たったのかもしれない

薄れゆく意識の中そう思いながら…。


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