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毒花
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「お願い…!止めないで!
私は、クラウド様と将来を誓い合ったの…!」
ふくよかな肢体を、そうと見られないよう、胸を強調するようなワンピースで隠し、エリーは主張する。
心配そうな顔で見るのは、彼女の両親と、
村のアイドルになりつつある美貌の妹だ。
「どうしても、あの人と結婚するのかい?」
顎髭を蓄えた父親が聞く。
「さっきから、そう言ってるでしょ…!
あんなに素敵な人、他にいないわ!
あの人だけが私のことを分かってくれてる!」
「あなたは、騙されているのよ。どこかの国の王子だなんて、本当に信用できるの?」
母親もなんとか思い止まってはくれないかと、エリーの肩を優しく包む。
しかし、彼女の心には響かない。
「母さんだって、父さんと結婚するの、散々反対されて押しきったんでしょ?
どうして、私だけが我慢しなくちゃいけないの!?」
そのとき、涼やかな声がした。
「姉さんの好きにさせてあげたら、いいじゃない」
妹のカリンだった。
エリーは驚いたように妹の顔を見る。
「あなたは、賛成してくれるの?」
「もちろんよ。私は大事な姉の幸せを願ってる」
「…ありがとう」
マリーは複雑な思いで礼を言った。
自分とは何もかもが違う、美しい妹。
村の住人から敬われる巫女の家系なれど、皆から人気があるのは、いつも妹。
そんな妹に、性格の面でも負けてしまうのか…。
いつも、悔しい思いをしていた彼女の心に、彼─クラウドは蛇のように忍び寄った。
「君の方がずっとかわいいよ。みんな、見る目がないね」
それから、マリーの心にずっと彼が棲んでいる。
**
深夜、妹のカリンは考えていた。
─結婚でもなんでも、好きにさせたらいいのよ。あの場でなんて言ったところで、姉さんは耳を傾けなかったでしょうし。
我が家の血の力は、富を生むもの。
姉の力は、その中でも先祖返りと呼べるほどに強い。
将来の相手も、それ相応の家の中から選ばれるはずだった。
それを羨んだこともあったけれど、今となってはどうでもいい。
仮に、クラウド様とやらの家が、王子など‥とんでもない、黒い噂が絶えない家だと知っていて、姉の情報を売ったのだとしても、誰に知られることもないでしょう。
遠からず、殺されて、死ぬ男。
私の未来視という力が、教えてくれたのです。
姉は、出戻ってくるでしょう。
身体と価値を汚されて。
私は、ただ口を噤んだだけ。
それに何の咎があるというのでしょうか?
私は、クラウド様と将来を誓い合ったの…!」
ふくよかな肢体を、そうと見られないよう、胸を強調するようなワンピースで隠し、エリーは主張する。
心配そうな顔で見るのは、彼女の両親と、
村のアイドルになりつつある美貌の妹だ。
「どうしても、あの人と結婚するのかい?」
顎髭を蓄えた父親が聞く。
「さっきから、そう言ってるでしょ…!
あんなに素敵な人、他にいないわ!
あの人だけが私のことを分かってくれてる!」
「あなたは、騙されているのよ。どこかの国の王子だなんて、本当に信用できるの?」
母親もなんとか思い止まってはくれないかと、エリーの肩を優しく包む。
しかし、彼女の心には響かない。
「母さんだって、父さんと結婚するの、散々反対されて押しきったんでしょ?
どうして、私だけが我慢しなくちゃいけないの!?」
そのとき、涼やかな声がした。
「姉さんの好きにさせてあげたら、いいじゃない」
妹のカリンだった。
エリーは驚いたように妹の顔を見る。
「あなたは、賛成してくれるの?」
「もちろんよ。私は大事な姉の幸せを願ってる」
「…ありがとう」
マリーは複雑な思いで礼を言った。
自分とは何もかもが違う、美しい妹。
村の住人から敬われる巫女の家系なれど、皆から人気があるのは、いつも妹。
そんな妹に、性格の面でも負けてしまうのか…。
いつも、悔しい思いをしていた彼女の心に、彼─クラウドは蛇のように忍び寄った。
「君の方がずっとかわいいよ。みんな、見る目がないね」
それから、マリーの心にずっと彼が棲んでいる。
**
深夜、妹のカリンは考えていた。
─結婚でもなんでも、好きにさせたらいいのよ。あの場でなんて言ったところで、姉さんは耳を傾けなかったでしょうし。
我が家の血の力は、富を生むもの。
姉の力は、その中でも先祖返りと呼べるほどに強い。
将来の相手も、それ相応の家の中から選ばれるはずだった。
それを羨んだこともあったけれど、今となってはどうでもいい。
仮に、クラウド様とやらの家が、王子など‥とんでもない、黒い噂が絶えない家だと知っていて、姉の情報を売ったのだとしても、誰に知られることもないでしょう。
遠からず、殺されて、死ぬ男。
私の未来視という力が、教えてくれたのです。
姉は、出戻ってくるでしょう。
身体と価値を汚されて。
私は、ただ口を噤んだだけ。
それに何の咎があるというのでしょうか?
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