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お姉様を助けたい

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「ねぇ今、どんな気分?」

「……。」

蜂蜜色の髪をふわりと靡かせて、悲しそうに女は問う。指は鉄格子に軽く触れている。

「味方なんて誰もいなくて、後、数時間もしない内に一人寂しく処刑されるんだよ?
嘆かないの?絶望を感じたりしないの?」

「ふふ。はははは。」


「…ああ、遂におかしくなっちゃったのね。
可哀想なアマーリア。
何もできない無力な私を…どうか許して」

「何もできない…ね」

そこで初めて、牢の奥にいた女が口を開いた。衣服も髪も薄汚れていたが、その女の美しさは少しも損なわれていなかった。

白銀の髪に紫の瞳。死の間際とは思えぬほど凄烈な感情をその瞳に宿らせて、女は言う。


「私は、望んでここにいる。お前に憐れまれずとも私は幸せだ。なぜなら…これは自分で選んだ結果なのだから…。」

お前のごっこ遊びに付き合うほど、暇ではない。それとも、そうまでして優位に立ちたいか?お前の婚約者も大変だな。悲劇のヒロインぶるのが好きな奴の頭の中は、完璧なお花畑だというのに。

アマーリアはそう一息に言うと、皮肉げに笑った。

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「あぁ…!アマーリアお姉様麗しい!この口の悪さが癖になる」

少女が、何度も読み返している小説を片手に悶えている。布教用、保存用とは別の普段用は繰り返し読んだ故か、開きやすくなってしまっている。

「尊い!…ていうか、ヒロインが健気ビッチ属性なのはまだ許せるとして…それに巻き込まれて死ぬ人が多すぎる!」

少女が憤る。
というのも、彼女には推しキャラが他にもたくさんいたのだが、そのほとんどが死という憂き目に遭っていたのだ。

それもこれも、病みすぎている王子のせいで。

「─ああこの世界に行けたら、私がお姉様を救出するのに…」


彼女の想いが通じたのだろうか?
次の瞬間、少女の視界はまばゆい光に覆われて…何も見えなくなった。









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