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戸惑い
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やっぱりいきなり『あなたが好きです』は、早すぎるよね。私は彼の家の目の前で、今更ながらにうろうろと躊躇っていた。
どうしよう…。
*****
家の前に誰かいる。俺は、相手に敵意がないことを確認してどうしたものかと、考えていた。
曲がりなりにも騎士の家だ。近づく者は少ない。
考え込んだ一瞬の内にドアを叩く音がした。
「誰だ?」
扉を開くと、若い女が立っていた。雪が積もったような真っ白な髪に赤い瞳が印象的な。この国ではあまり見ない色だ。
「あの、いきなり…すみません」
黙る女を見て思う。とりあえず、中に入ってもらうかと。
「中へ」
「…ありがとうございます」
*****
彼の部屋だ。前の生で訪れたことはなかったが、彼らしい部屋だ。余計な物は一切置いてないシンプルな部屋。
ここまで来たのだ。今更尻込みするなんてと、私は口を開いた。
「マリアナと言います。初めまして騎士さま」
「どうも」
「いきなりこんなことって戸惑われると思うんですけど、私あなたのことが好きです」
「…ぶふぉっ」
彼が咳き込む。
「いきなりすぎですよね。ごめんなさい。
でも本気なんです」
「誰かと間違えてないか?」
「……」
彼に疑われたくはない。知らず涙が滲む。
「っすまない…!」
相変わらず優しい人。その彼の性質に今私はつけこもうとしている。
「ここに、あなたの側にいたいんです」
「……」
「ダメですか?」
「………」
彼を困らせたいわけではない。いかにも訳ありなボロボロの衣服を纏った少女を無下にできないでいるのはよく分かる。今日は顔だけ覚えてもらって、どこかに野宿しよう。
踵を返そうとしたとき、気がついたのは彼の右足の不自然な動き。
(そうか…今回の人生ではまだ治してなかった)
彼はこの怪我のせいで本来の力を出せずにいる。魔物から受けた傷が膿んで、ただの聖女では治せないものとなってしまっているのだ。
(私なら治せる。でも─)
そうすることで愛されるのではないかと、どこかで卑しく考えている自分がいるのではないか。
考えたのは一瞬だった。
好きな人が苦しむのは嫌だ。それに前の生の自分とは違う。愛に飢え、尽くし、しかし満たされずにいた自分とは。
見返りを全く求めてないと言ったら嘘になる。だが、それ以上に彼の力になりたかった。
彼は、私の好意を利用するような男ではない。それだけは確かだ。私は、一言断ってから手をかざした。
まばゆい光が彼の足を癒していく。
「…これは…!」
彼の驚く声が聞こえるが、私は最後まで耳にすることができなかった。自分の栄養状態を忘れていたのだ。家から抜け出す際に持ち出せた物も少なく、そろそろ限界だった。
徐々に薄くなっていく意識の中、彼の焦った声を耳にしながら、呟いていた。
「…エラルド」
どうしよう…。
*****
家の前に誰かいる。俺は、相手に敵意がないことを確認してどうしたものかと、考えていた。
曲がりなりにも騎士の家だ。近づく者は少ない。
考え込んだ一瞬の内にドアを叩く音がした。
「誰だ?」
扉を開くと、若い女が立っていた。雪が積もったような真っ白な髪に赤い瞳が印象的な。この国ではあまり見ない色だ。
「あの、いきなり…すみません」
黙る女を見て思う。とりあえず、中に入ってもらうかと。
「中へ」
「…ありがとうございます」
*****
彼の部屋だ。前の生で訪れたことはなかったが、彼らしい部屋だ。余計な物は一切置いてないシンプルな部屋。
ここまで来たのだ。今更尻込みするなんてと、私は口を開いた。
「マリアナと言います。初めまして騎士さま」
「どうも」
「いきなりこんなことって戸惑われると思うんですけど、私あなたのことが好きです」
「…ぶふぉっ」
彼が咳き込む。
「いきなりすぎですよね。ごめんなさい。
でも本気なんです」
「誰かと間違えてないか?」
「……」
彼に疑われたくはない。知らず涙が滲む。
「っすまない…!」
相変わらず優しい人。その彼の性質に今私はつけこもうとしている。
「ここに、あなたの側にいたいんです」
「……」
「ダメですか?」
「………」
彼を困らせたいわけではない。いかにも訳ありなボロボロの衣服を纏った少女を無下にできないでいるのはよく分かる。今日は顔だけ覚えてもらって、どこかに野宿しよう。
踵を返そうとしたとき、気がついたのは彼の右足の不自然な動き。
(そうか…今回の人生ではまだ治してなかった)
彼はこの怪我のせいで本来の力を出せずにいる。魔物から受けた傷が膿んで、ただの聖女では治せないものとなってしまっているのだ。
(私なら治せる。でも─)
そうすることで愛されるのではないかと、どこかで卑しく考えている自分がいるのではないか。
考えたのは一瞬だった。
好きな人が苦しむのは嫌だ。それに前の生の自分とは違う。愛に飢え、尽くし、しかし満たされずにいた自分とは。
見返りを全く求めてないと言ったら嘘になる。だが、それ以上に彼の力になりたかった。
彼は、私の好意を利用するような男ではない。それだけは確かだ。私は、一言断ってから手をかざした。
まばゆい光が彼の足を癒していく。
「…これは…!」
彼の驚く声が聞こえるが、私は最後まで耳にすることができなかった。自分の栄養状態を忘れていたのだ。家から抜け出す際に持ち出せた物も少なく、そろそろ限界だった。
徐々に薄くなっていく意識の中、彼の焦った声を耳にしながら、呟いていた。
「…エラルド」
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