わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭

文字の大きさ
33 / 67
6.休日

しおりを挟む
 花束を抱えたまま、私はアベル様の全身を眺めた。

 紺色のジャケットに白いシャツ、黒のトラウザーズ。

 シンプルな恰好が、アベル様のよく目立つ桃色の髪や明るい緑色の目によく似合っている。心なしか少し大人っぽく見えた。

 こういう恰好も意外と似合って……。


「リリアーヌ、今日のドレスもよく似合ってるね! すごく可愛いよ!」

 アベル様にそう言われ、私ははっと我に返った。

 なんで私がアベル様ごときに見惚れかけているのだ。

 私は自分のドレスに視線を落とす。

 今日の私は、シルヴィに着せられた青いサテンのドレスを着ていた。街に出るので動きやすいようにと、丈は膝より少し下くらいのいつもより短めのものを選んでくれた。

 髪型は白いリボンでハーフアップにしている。

 アベル様に大げさな調子で褒められるのなんていつものことなのに、なぜか今日は落ち着かなくなった。

 それで、そっぽを向きながら、つい素っ気ない口調で言った。


「当然ですわ。アベル様に言われなくても、私が可愛いなんてわかっております。私はいつだって女神のように美しいのですから」

「確かにね! 僕もそう思うよ」

 半分冗談で言ったのに、アベル様は熱心に同意してくる。

 後ろでシルヴィとレノーも、「それはそうですね」だとか、「お嬢様は外見は文句のつけようがありませんからね」と頷き合っている。

 ツッコんでくれないと私がナルシストみたいじゃないか。

 私は微妙な気持ちで、全肯定の彼らの顔をぐるりと見まわす。


 それから私とアベル様は、馬車に乗って街まで向かうことになった。

 お屋敷を出る際は、シルヴィやレノーにやたらにこやかに送り出された。

「行こうか、リリアーヌ」

 馬車に乗る時、アベル様はそう言って私に手を差し出した。

 ついこの間まで私の後を付いて回っていた子供だったくせに、まるで紳士みたいなエスコートをしてくるから生意気だ。

 私はすまし顔でアベル様の手に自分の手を重ね、馬車に乗り込んだ。


「アベル様、今日はどこへ行き予定なんですの?」

「シャリルの市場に行ってみようかと思って」

「シャリルの市場?」

 シャリルの市場は、王都の中心部から少し離れた場所にあるとても大きな市場だ。個人の経営する小さなお店がたくさん立ち並び、日々多くの人たちで賑わっている。

「意外と普通な場所ですわね。オペラハウスのボックス席だとかクルーザーのスイートキャビンだとか、もっとすごい場所に連れていかれるかと思いましたわ」

「そっちのほうがよかった? リリアーヌが最近、経営学の勉強に熱を入れているみたいだから、参考になりそうな場所がいいかと思って」

「え、そんなことを考えていらしたの?」

「うん。リリアーヌに喜んでもらいたいもん」

 アベル様はそう言って笑う。

 私はちょっと驚いてしまった。アベル様がそんなことまで考えていてくれたなんて。

 私は不覚にも少々感動しながら、市場までの道を馬車に揺られた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。 他小説サイトにも投稿しています。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

さよなら初恋。私をふったあなたが、後悔するまで

ミカン♬
恋愛
2025.10.11ホットランキング1位になりました。夢のようでとても嬉しいです! 読んでくださって、本当にありがとうございました😊 前世の記憶を持つオーレリアは可愛いものが大好き。 婚約者(内定)のメルキオは子供の頃結婚を約束した相手。彼は可愛い男の子でオーレリアの初恋の人だった。 一方メルキオの初恋の相手はオーレリアの従姉妹であるティオラ。ずっとオーレリアを悩ませる種だったのだが1年前に侯爵家の令息と婚約を果たし、オーレリアは安心していたのだが…… ティオラは婚約を解消されて、再びオーレリア達の仲に割り込んできた。 ★補足:ティオラは王都の学園に通うため、祖父が預かっている孫。養子ではありません。 ★補足:全ての嫡出子が爵位を受け継ぎ、次男でも爵位を名乗れる、緩い世界です。 2万字程度。なろう様にも投稿しています。 オーレリア・マイケント 伯爵令嬢(ヒロイン) レイン・ダーナン 男爵令嬢(親友) ティオラ (ヒロインの従姉妹) メルキオ・サーカズ 伯爵令息(ヒロインの恋人) マーキス・ガルシオ 侯爵令息(ティオラの元婚約者) ジークス・ガルシオ 侯爵令息(マーキスの兄)

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

処理中です...