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1.出会

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「そこで東南の風吹いて、魏の船に火つけるんだけど…って、美咲!ちゃんと聞いてよ!」

あー、まだ続いてたんだ。由紀の三国志語り。

『聞いてる聞いてる。孔明が肉まん作ったんだよね。セブンで買って帰ろ。』

「ぜんっぜん違う!それもっと先の話だから」

私の親友由紀は、大の三国志好き。というかオタク。一度話し出すとその口は止まることを知らず、由紀のせいで私まで登場する将軍の名前をある程度は覚えてしまった。歴史、それも昔の中国のが好きだなんて、我が友ながら渋すぎる趣向。

『で、これは何?』

「むふふ。吉川英治の『三国志』だよ。とりあえず桃園の巻ね!」

気付くと手に持たされていたのは、そこそこの厚みのある文庫本。

「ここから三国志が始まるんだよ~。ロマンだよね。」

『全然わかんないけど』

「明日感想聞かせてね!じゃあ私塾だからここで。」

ヒラヒラと手を振って駆けていく由紀は、忙しないというかなんというか。

私は手元に残された小難しそうな歴史小説に、ため息を一つこぼした。
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