【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~ 

ツヅラ

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1話 ヴェノム研究所

02

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「――――」

「――――」

 珍しくいい気分で寝ていたというのに、起こそうとするバカは誰だ。
 くだらない理由だったら、げん骨のひとつでも落としてやろうと目を開けた先にいたのは、見たこともない少女だった。

「あ、起きた?」

 自分でもわかるほど、困惑していた。
 目の前で座り込み、こちらを覗き込んでいる少女は、もちろん軍に入隊できる年齢ではない。
 誰かがデリバリーした奇特な女にしては、あまりに違法すぎる年齢だ。

「え……なに? 誰? 君」

 訳が分からないとはいえ、口にすると少し落ち着くらしく、少しずつ頭が先程までの光景を思い出していた。

「?」

 変異種に襲われ、辛うじて倒したが、部隊は壊滅。
 自分は生き残ったが、生き残った仲間が応援や医療班を呼んでくる頃には、おそらく死んでいるであろう怪我を負った。

 ならば、ここは死後の世界だろうか。
 首を傾げている少女は、死神だとでもいうか。

「あー……えっと、君、名前は?」
「名前?」

 死神だとでも言ったら、随分とおもしろい話だ。

「ないよ?」

 意外にも、そのかわいらしい死神は、名前も教えてくれないらしい。

「ここに来る子は、みんな名前……あるのかな? 聞いたことないや。大切なもの?」
「そりゃ、まぁ、大切だな。親からもらう最初のプレゼントってのもあるが、名前がないと呼ぶ時に困るだろ。みんな、こっち向いちまう」

 俺の言葉に、何か合点が言ったらしい死神は、小さく声を漏らした。

「私、ひとりだからか」
「さっき、みんなって……」
「うん。みんな来るよ。でも、私はひとり」

 意味が分からない。
 いや、最初から死神と、意味のある会話をできる方がおかしいのかもしれない。

「貴方には名前があるの?」
「牧野。牧野薫だ」

 マキノ。マキノ。と数回名前を呼ぶと、小さくその死神は笑った。

「マキノ、ね。貴方は、マキノって呼んだら、来てくれるのね」
「あぁ、そうだな」

 死神の言いたいことはわからないが、立ち上がると、通路の向こうに向かって歩き出してしまう。
 そして、不思議そうに振り返った。

「マキノ」

 これは、ついて来いということだろうか。
 不思議と先程までの痛みはなく、俺も立ち上がり、その死神についていく。

 三途の川にでも案内してくれるのかと、死神についていくが、周りは随分と見慣れたコンクリート製の建物だ。
 まるで研究所のような、小綺麗な施設。

「なぁ、どこに向かってるんだ?」
「いつもの場所」
「いつもを知らないんだよな……俺」
「そっか……貴方は、ここが初めて? 私は貴方に呼ばれて……呼ばれた、わけじゃない?」

 顎に手をやる死神は、こちらを見上げながら、悩み出してしまった。
 一応、この死神を呼んだ覚えは一切ない。そもそも、名前すらわからない死神をどう呼べというのか。

「死にたくないって、そう言ったでしょ?」

 その言葉に、息が詰まった。
 最後の最後、誰にも聞かれるはずのない言葉。
 だが、彼女は疑うこともなく、はっきりと言い当てた。

「ここに来る人、ラクになりたいって言うんだ」

 助けて。楽になりたい。逃げたい。死にたい。
 少女に縋るように、助けを求めた。

「ねぇ、生きたい? 本当に?」

 足を止めて振り返った少女の目は、どこか焦燥感があって、俺を否定するように見つめていた。

「…………あぁ。生きたい。まだ、死にたくない」

 だからこそ、本当の言葉を伝えた。
 生きられるのなら、まだ生きていたいと願う。
 このクソったれにイカれた世界であろうと、誰が死にたいなどと思うものか。

「ふぅーん……そっか」

 嘲るような悲しむような表情で、目を細める少女に、聞き返した。

「お前は?」

 意外だとばかりに目を見開く少女は、視線を巡らせると、お道化るように笑った。

「どっちでもない」
「どっちでもないって……」
「だって――逕」縺セ繧後※縺�↑縺�b縺ョ」

 ノイズの様な雑音が、死神の言葉を遮る。

「ぇ、悪い。今なんて……」
「? 蟆代@蜷医▲縺ヲ縺ェ縺�シ�」

 不思議そうな表情で、パタパタと走り寄ってくると、俺の服を掴み、妙に強い力で引っ張られる。
 その細腕のどこにそんな力があるのかと、不思議なくらいだが、逆らわず少女のやりたいように腰を曲げれば、遠慮なく頭を掴まれた。
 俺の頭を掴む様が、あの変異種と少し重なり、心臓が跳ねたのは気取られないように、つい逸らした視線を彼女の方へ戻す。

「…………」

 こちらをじっと見つめる瞳が、微かに揺れる。

「おーい……」

 妙な違和感を感じて、声をかけるが、反応がない。
 名前を呼ぼうにも、名前を知らない。

「……見惚れちゃった?」

 仕方なく茶化すものの、反応はない。
 一体なんだというのか。
 だが、微かに揺れていた瞳が止まり、瞬きと共にこちらをしっかりと見つめた。

「……もしもーし?」

 今なら伝わるかと、声をかけてみれば、小さく微笑まれた。

「それはなに?」
「え、あ、うーん? ”もしもし”の事か? えーっと……ただの呼びかけだよ。電話とかで言うだろ」
「電話……そうなんだ。へぇ……」

 10歳は超えている見た目ではあるが、死神は人間の生活をあまり見ていないのだろうか。
 天国と地獄を決めるのに、人間の生活というものはいらないということか。
 よくわからない死神事情に思いを馳せていれば、目の前の死神は、先程の元気はどこに行ったのか、少しだけ視線をどこかにやっていた。

「どうした?」
「えっ、あ、ううん。えっと……なにしてたんだっけ……」

 少しだけ眉をしかめる死神に、違和感があったが、少し焦るように考える姿に、いつもの場所に向かっていることを伝えれば、嬉しそうに顔を上げた。

「そうだったね! いつもの場所、行こっか!」

 ムリに出しているような声で、通路の向こうに体を向ける少女に習い、視線を上げれば、通路が少し暗くなっていた。
 電気なんてものがあるのかは疑問だが、この近代的な死後の世界は、蛍光灯らしきものは見えるわけだし、おそらく電気があるのだろう。

 黒い蛍光灯を眺めながら、足取りの重くなっている少女の後ろをついていく。

「……なぁ、調子が悪いなら少し休んだらどうだ?」

 明らかに様子がおかしい。

「だいじょうぶ」

 顔を一向に合わせない少女に、一歩近づいた時だ。
 少女は突然、頭に手をやり、蹲った。

「ぅ゛、ぁ゛っ……」

 苦しそうに呻く少女に駆け寄り、手を伸ばすが、その手は彼女の体をすり抜けた。

「!?」

 少女の体があるはずの場所なのに、何も触れている感覚がない。

「ぅ゛……んぅ゛……」

 だが、苦し気に脂汗をかいている彼女の声に、伸ばした手を強く握り、地面に膝を付け、呼びかける。

「おい! 大丈夫か!?」

 やれることなど、これくらいしかない。
 触れられず、支えられず、助けを呼ぶこともできず、呼びかけることしかできない自分に、少女の目が少しだけ向いた。

 直後、少女は消えた。

「消え、た……?」

 周囲に目をやっても、少女の姿は無い。

「…………」

 また暗くなっている。
 それどころか、ところどころ建物が歪み始めている。

 本能的な危険を感じるが、逃げ場などわからない。
 もう死んでいるということもすっかり忘れて、ホルスターに入っているハンドガンを取り出し、周囲を警戒する。

 暗く、歪んだ世界。
 そんな世界で、生きるなどということを考えることがおかしいのかもしれない。
 それでも、死にたくないと、相変わらず願ってしまうのだ。

 壁の向こうから聞こえる物の拉げる音に、銃口を向ける。
 確認できていない変異種と相対する時のような緊張感の中、大きく歪み、拉げた通路から現れたのは、小さな赤い獣だった。
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