死にたがり薬剤師の調剤日誌

ツヅラ

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カフェインレス

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 リポDだの、チオビタだの、出勤日には、なにかしらファイト一発していく習慣がすっかりついてしまった。
 おかげさまで、備蓄用の水と一緒に必ず家に積みあがっているものになった。
 ……うん。娘の一人暮らしを心配して、様子を見に来た親を、一目で心配させた代物だ。アマゾンの定期便にしよう。

 さすがに、職場で飲むようなことはしたことはない。何人かが、エナジードリンクを飲んでて心配されているし、心配される方がめんどくさい。
 食事を取るのがめんどくさいから、ウィダーとか、カロリーメイトとか、一本満足バーとかにすると、本気で心配される。お腹痛いの? とか、体調悪いの? って。
 いや、いい職場なんだろうね! 咀嚼と嚥下が、めんどくさいんです……! なんて、言えないよ!

「栄養素的に、問題ないです……!!」
「いや、足りなくね?」
「え」

 おおよそ成人が1日に必要なカロリーは2000kcal。3食食べるとして、700kal取ってれば問題ないはず。
 カロリーメイトチョコ味。いつも2本食べるから、カロリーは……

「1箱(4本)で400kal……? てことは、200kal」

 足りてないねー!!

「り、リポDのカロリーは!?」

 74kcal

「1日3回の時でも、カロリー足りてなかったんですね」
「待って待って。リポDって1日1回じゃなかった?」

 一応、エナジードリンクにも、1日何本っていうのはある。
 実はヤクルトにも書いてあるぞ。

「適宜増減ってことで。
 それに、日本人は緑茶飲むからカフェイン聞きにくいっていいますし、私、コーヒー飲んで眠くなるタイプなので、寝る前に飲んでも普通に寝れるから問題ないですよ」

 慢性的に飲んでるってわけでもないし。カフェインの量は問題ないはずだ。

「あれ? カフェインの問題だっけ? それ」

 携帯で調べてみれば、『他のビタミン製剤との併用に注意してください』という文字。
 カフェインじゃなかった。

「んーっと……入ってるビタミンはー」

 B1、B2、B6……
 脂溶性ビタミンなし。すべて水溶性。

「ならいっか!」

 どうせ流れて出ていくし。

 さて、先程のカフェインだが。
 ブラック企業に勤めていた会社員が、エナジードリンクに、OTCのカフェインの錠剤を服用し過ぎ、死亡という、自殺ではない事故があった。
 そういう事件があると、大抵の場合、模倣犯が出てくる。
 自殺志願者による、模倣自殺だ。
 実際、その事件がニュースで取り上げられている間、人生に一度だけのはずの自殺方法を、『カフェイン過剰摂取』に決める人間がいたらしい。

 私は、全くオススメしない。
 QOLの低下甚だしいもん!

 カフェインの致死量と言われているのは、200mg/kg、つまり、60kgの人で、120000mg、短時間、1時間程度で摂取しなければいけない。
 ちなみに、コーヒー1杯(100mL)60mg。なので、2000杯(200000mL)。エスプレッソなら30mLで60mg程度入ってるから、60000mL。
 リポDは50mgだし、モンスターと言われるのも142mg。

 ならば、眠気覚ましのOTCでは? となるが、あれも1錠100mgが多い。1200錠。
 顆粒タイプ1包167mgに、液剤の30mLにつき150mgを混ぜたとする。30mLにつき、2包混ぜられたとして、30mLにカフェイン484mgができたとして、それでもやっぱり7Lは飲まないといけない。
 そう考えるだけでも吐きそうだが、前にも言った通り、死ぬ前にか必ず中毒域という、体調に症状が出る量がある。

 カフェインの場合、動悸・悪心・嘔吐など、わりと症状が激しいものになる。
 もちろん、途中で吐いたら、その時に胃にあったものは吸収されない。
 あげくに、病院に運び込まれたところで、解毒剤はないから、ひたっすら気持ち悪い中、輸液されたり、尿カテーテルで尿排出されるは、胃洗浄されるわで大変。

 しかも、その中毒量っていうのが、6.5mg/kgなので、390mg。
 つまり、コーヒー6杯目突入時点で、動悸、吐き気がくる中、胃に詰め込み続けなければゴールできない。

「もう二度とやるものか!」

 そういって、救急外来から帰る自殺未遂者が多かったそうだ。
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