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転生先は……?
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◇
「……はて、ここはどこだ?」
目を覚ますと、俺はスーツ姿のまま薄暗い石造りの部屋の中に立っていた。
部屋にはいくつもの扉が存在し、その奥から微かに獰猛な獣の息遣いのような異音が聞こえる。
「怖っ! ここってダンジョン……か?」
ゲーム知識を総動員して導きだした答えは、ここがモンスターのひしめく迷宮、『ダンジョン』だということ。証拠こそないが、間違いないだろう。
「ったく、いきなりダンジョン内部から開始とか、ハードモードだな。いったん外に出たいところだけど……さて、どうしたものか――っ!?」
どの道を行こうかと、ぐるっと体を反転させたその刹那、俺は反射的に鋭く息を呑んだ。
俺の真後ろ、おおよそ一メートルという至近距離にに、子供ぐらいのサイズ感の人影があったのだ。
だが、明らかに人ではない。深い緑色の肌に、知性を感じられない獰猛な瞳、涎を垂らした醜悪な顔。そして、手にはごつごつとした棍棒が握られている。
そう、これは――
「ゴ、ゴブリンっ!?」
俺のイメージするゴブリンの姿とドンピシャだった。
「あわ、あわわわ……!」
初めて眼前にする異形の姿。その身から迸る殺意。
動物園で見たライオンより体は小さいのに、感じる恐怖は桁違いだった。
がくんと、膝が折り曲がる。情けないことに、恐怖のあまり立っていられなくなり、その場で膝をついてしまう。
戦うという選択肢はなかった。俺には武器もなければ、素手で戦う度胸もない。ラノベによくある転生特典のチート能力だって、使い方も知らなければそもそも所持しているかどうかすら不明だ。
であれば一目散に逃げなければいけないのに、足が言うことを聞かずに震えるだけ。
ゴブリンなんてゲームだとボタンひとつ押すだけで瞬殺できるような敵なのに、このザマだ。情けないったらありゃしない。
「――?」
情けなく腰を抜かす俺は、ゴブリンから見たら格好の獲物だろう。
……しかし、目の前のゴブリンは襲ってくる気配など微塵もなく、なんなら目線すら合わない。
「も、もしかして俺のこと見えてないのか?」
試しにゴブリンの顔の前でひらひらと手を振ってみるが、まったく反応がない。どうやらマジで俺のことが見えていないようだった。
「なんだ? シンボルエンカウント方式なのか……?」
ゲームだとフィールドやダンジョンを闊歩するモンスターとプレイヤーとが接触すると戦闘が始まるタイプのものが多い。ここが神様の言うとおりゲーム世界なら、あり得ない話じゃない。
いや、だとしても普通はプレイヤーを認識すれば追いかけてくるはずだ。……そうなったら困るんだが。
「とりあえず少し離れよう――っとっと!!」
俺はゴブリンから距離を取るためゆっくりと立ち上がろうとするが、まだ足にうまく力が入らなくて、そのまま前に倒れこんでしまう。
「ヤバっ――」
このままだとゴブリンに覆い被さるように倒れてしまう。……とはいえ、周りに体を支えられるような物は一切ない。
終わった――。
そう思った瞬間、俺の体はゴブリンをすり抜け、その背後へとズサーっと滑り込んだ。
「……あれ? 今、確実にゴブリンと衝突する感じだったよな……?」
今しがた起きた現象を確認するため、恐る恐るゴブリンの後頭部を指先でつついてみた。
――が、何度試してもゴブリンと接触することはなく、思いきって殴りかかってみても、すり抜けてしまうだけだった。
「まさか、俺って幽霊的な感じなのか……? って、俺の身体うっすら透けてんじゃん!」
薄暗いのですぐに気づかなかったけど、よくみたら俺の身体は透明度70パーセントくらい透けていた。
まさかと思い、俺はゴブリンから離れ近くにあった松明に手をかざしてみる。すると、案の定まったく熱を感じない。思いきって触ってもみたが、何も感じることはなかった。
……そして、光源の近くにいるというのに、俺の背後には影がなかったのだ。
「マジで幽霊っぽいな……そういや、よく思い出せば確かにあの神様『魂を送り込む』としか言ってなかったな。肉体ごと転生するとは一言も言ってないじゃん。つまり、今の俺は魂だけの存在ってことか!? それなら……」
だったら重力に縛られず自由に空を飛び回ることだってできるはず。そう思い、体が浮き上がるよう念じてみると、思惑通りに足が地面から離れていった。
あまり機敏には動けないが、ほぼ思い通りに空中を動き回ることができる。
「ははっ、こりゃいいや!」
鳥にでもなったような気分だ。この感覚を味わえただけでも、転生した甲斐があるというものだ。
「……ってゆうか、物を通り抜けられるなら、ダンジョンの外に出れそうだよな。こんな狭い空間にずっといるのもアレだし、もっと広い世界を見てみたい。ここは地下っぽいし、天井をすり抜け続ければ外に出られるかも。よーし……」
俺は、勢いをつけて天井へと飛翔した。
その結果――
「あがっ!!」
通り抜けられると思い込んでいた俺は、思い切り頭を打ち、地面へと落下。潰れたカエルのようなポーズで醜態を晒してしまう。
「痛……くはないな」
思い切り頭を打ったが、出血もなく、痛みも感じない。そういえば最初に転んだときも全然痛くなかった。
「まあ、最初地面に立ってた時点で、そのあたりは察するべきだったよな」
試しにいくつかある扉のひとつに触れてみたら、やはりすり抜けられなかった。それなら開けられるかと思い、押したり引いたりしてみたが、扉はびくともしなかった。
幽霊のように浮いたり何でも透過してしまう体だったが、『ダンジョンの構造物』だけはすり抜けることができないようだった。……いや、松明は透けたし、もしかしたら『ダメージを受ける可能性のあるもの』という定義なのかもしれないな。まあ憶測だけど。
「っていうかこの状況……詰んでないか?」
現状、この石造りの部屋から抜け出す方法がひとつもない。え、なにこれどうすんの……? このままゴブリンくんと一生を共にするの……?
そんな地獄のようなことを考えながら、ゴブリンの後頭部を凝視していた。
すると――――
「……はて、ここはどこだ?」
目を覚ますと、俺はスーツ姿のまま薄暗い石造りの部屋の中に立っていた。
部屋にはいくつもの扉が存在し、その奥から微かに獰猛な獣の息遣いのような異音が聞こえる。
「怖っ! ここってダンジョン……か?」
ゲーム知識を総動員して導きだした答えは、ここがモンスターのひしめく迷宮、『ダンジョン』だということ。証拠こそないが、間違いないだろう。
「ったく、いきなりダンジョン内部から開始とか、ハードモードだな。いったん外に出たいところだけど……さて、どうしたものか――っ!?」
どの道を行こうかと、ぐるっと体を反転させたその刹那、俺は反射的に鋭く息を呑んだ。
俺の真後ろ、おおよそ一メートルという至近距離にに、子供ぐらいのサイズ感の人影があったのだ。
だが、明らかに人ではない。深い緑色の肌に、知性を感じられない獰猛な瞳、涎を垂らした醜悪な顔。そして、手にはごつごつとした棍棒が握られている。
そう、これは――
「ゴ、ゴブリンっ!?」
俺のイメージするゴブリンの姿とドンピシャだった。
「あわ、あわわわ……!」
初めて眼前にする異形の姿。その身から迸る殺意。
動物園で見たライオンより体は小さいのに、感じる恐怖は桁違いだった。
がくんと、膝が折り曲がる。情けないことに、恐怖のあまり立っていられなくなり、その場で膝をついてしまう。
戦うという選択肢はなかった。俺には武器もなければ、素手で戦う度胸もない。ラノベによくある転生特典のチート能力だって、使い方も知らなければそもそも所持しているかどうかすら不明だ。
であれば一目散に逃げなければいけないのに、足が言うことを聞かずに震えるだけ。
ゴブリンなんてゲームだとボタンひとつ押すだけで瞬殺できるような敵なのに、このザマだ。情けないったらありゃしない。
「――?」
情けなく腰を抜かす俺は、ゴブリンから見たら格好の獲物だろう。
……しかし、目の前のゴブリンは襲ってくる気配など微塵もなく、なんなら目線すら合わない。
「も、もしかして俺のこと見えてないのか?」
試しにゴブリンの顔の前でひらひらと手を振ってみるが、まったく反応がない。どうやらマジで俺のことが見えていないようだった。
「なんだ? シンボルエンカウント方式なのか……?」
ゲームだとフィールドやダンジョンを闊歩するモンスターとプレイヤーとが接触すると戦闘が始まるタイプのものが多い。ここが神様の言うとおりゲーム世界なら、あり得ない話じゃない。
いや、だとしても普通はプレイヤーを認識すれば追いかけてくるはずだ。……そうなったら困るんだが。
「とりあえず少し離れよう――っとっと!!」
俺はゴブリンから距離を取るためゆっくりと立ち上がろうとするが、まだ足にうまく力が入らなくて、そのまま前に倒れこんでしまう。
「ヤバっ――」
このままだとゴブリンに覆い被さるように倒れてしまう。……とはいえ、周りに体を支えられるような物は一切ない。
終わった――。
そう思った瞬間、俺の体はゴブリンをすり抜け、その背後へとズサーっと滑り込んだ。
「……あれ? 今、確実にゴブリンと衝突する感じだったよな……?」
今しがた起きた現象を確認するため、恐る恐るゴブリンの後頭部を指先でつついてみた。
――が、何度試してもゴブリンと接触することはなく、思いきって殴りかかってみても、すり抜けてしまうだけだった。
「まさか、俺って幽霊的な感じなのか……? って、俺の身体うっすら透けてんじゃん!」
薄暗いのですぐに気づかなかったけど、よくみたら俺の身体は透明度70パーセントくらい透けていた。
まさかと思い、俺はゴブリンから離れ近くにあった松明に手をかざしてみる。すると、案の定まったく熱を感じない。思いきって触ってもみたが、何も感じることはなかった。
……そして、光源の近くにいるというのに、俺の背後には影がなかったのだ。
「マジで幽霊っぽいな……そういや、よく思い出せば確かにあの神様『魂を送り込む』としか言ってなかったな。肉体ごと転生するとは一言も言ってないじゃん。つまり、今の俺は魂だけの存在ってことか!? それなら……」
だったら重力に縛られず自由に空を飛び回ることだってできるはず。そう思い、体が浮き上がるよう念じてみると、思惑通りに足が地面から離れていった。
あまり機敏には動けないが、ほぼ思い通りに空中を動き回ることができる。
「ははっ、こりゃいいや!」
鳥にでもなったような気分だ。この感覚を味わえただけでも、転生した甲斐があるというものだ。
「……ってゆうか、物を通り抜けられるなら、ダンジョンの外に出れそうだよな。こんな狭い空間にずっといるのもアレだし、もっと広い世界を見てみたい。ここは地下っぽいし、天井をすり抜け続ければ外に出られるかも。よーし……」
俺は、勢いをつけて天井へと飛翔した。
その結果――
「あがっ!!」
通り抜けられると思い込んでいた俺は、思い切り頭を打ち、地面へと落下。潰れたカエルのようなポーズで醜態を晒してしまう。
「痛……くはないな」
思い切り頭を打ったが、出血もなく、痛みも感じない。そういえば最初に転んだときも全然痛くなかった。
「まあ、最初地面に立ってた時点で、そのあたりは察するべきだったよな」
試しにいくつかある扉のひとつに触れてみたら、やはりすり抜けられなかった。それなら開けられるかと思い、押したり引いたりしてみたが、扉はびくともしなかった。
幽霊のように浮いたり何でも透過してしまう体だったが、『ダンジョンの構造物』だけはすり抜けることができないようだった。……いや、松明は透けたし、もしかしたら『ダメージを受ける可能性のあるもの』という定義なのかもしれないな。まあ憶測だけど。
「っていうかこの状況……詰んでないか?」
現状、この石造りの部屋から抜け出す方法がひとつもない。え、なにこれどうすんの……? このままゴブリンくんと一生を共にするの……?
そんな地獄のようなことを考えながら、ゴブリンの後頭部を凝視していた。
すると――――
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